母の担当者
遥香は夢の中で、茜さんと思われる女性と対峙していた。
「茜さん、私、加奈子の娘です。母を、母を知りませんか?」
「・・・・・・」
「茜さん、私の母のこと、何でもいいから聞かせて下さい!」
「・・・・・・」
終始無言だった。
私はなんとか茜さんを振り向かせようと手を伸ばしたが、思うように動かなかった。
そして運が悪いことに、私は山の上から滑り落ちてしまった。
「きゃぁ~~~~!」
その声に自分で起きてしまった。
「夢か」
額に脂汗が流れていた。
「あ、何時?」
時間は深夜3時。
「なんだ、こんな時間。もう一度寝ようかしら」
ふと遥香は枕元に置いてあるスマホを見た。
なにか光っている。
「誰かがメールしてきた」
眠い目をこすってみると、それは母、加奈子が生前お世話になっていた出版社からだった。
出版社は笠松出版。
内容は母の追悼のために記事を書きたいので、許可をいただけないか?とのことだった。
文末には電話番号が入っていた。
私は、母の日記が気になり、茜さんのことが少しでもわかればという思いで、翌朝、笠松出版に電話してみることにした。
「あれだけ母に影響を与えた人だ。何か出版物を残しているかもしれない」
夫が出社し、娘を幼稚園に送った後、ダメ元でかけてみる。
しばらく電子音がして、留守番用の伝言か流れてきた。
「やっぱりいないか」
と、諦めた瞬間、もしもし!という声が聞こえてきた。
「あ、すいません!笠松出版の方ですか?」
「はい、そうです。どちら様で?」
「あの、わたし、先日亡くなった植田加奈子の娘で、貴社からお香典をもらいましたもので、まずはお礼申し上げたいと思いまして。それと追悼についての許可なんですが・・・」
電話の声は男性で野太い声だった。
「それはそれは、ご丁寧にありがとうございます。植田加奈子様には生前、大変お世話になりまして、感謝しても仕切れないほど、我が社にとって大変大事な方でした。まだお若いのに今回は誠にご愁傷様でございました。」
「こちらこそありがとうございます。」
私は、茜さんのことが知りたくて、それとなく電話の相手が誰だかわからないまま聞いてみた。
「あの、それで大変申し訳ないのですが、以前、母の担当の方と少し話しがしたいもので、もし良ければ後日で良いのですが、連絡できないものでしょうか?」
「え?担当ですか?あの、私です。植田加奈子様の担当」
遥香は驚いた。偶然とはいえ、こんなに早く話せるなんて。
「ちょっと母のことで聞きたい事があり、もし時間があれば直接お話聞きたいのですが、いかがでしょうか?わがままなのは承知しておりますが。どうしても知りたいことがあり。」
しばらく時間をおいて男性が答えた。
「わかりました。もしよろしければ明日、お時間あればいつでもお話できます。実は私も追悼記事以外にもお話ししたい事があり、お会いしたかったんです。」
私は二つ返事で承知した。
「私、明日は何も予定ないのですが、どのようにしたらよろしいでしょうか?」
男性は不思議なことをいいだした。
「それは良かった!先日、ある女性から電話をもらいましてね。加奈子さんの友人という方から。しかも海外からの電話でしたので、誰かなと思いましだが、自分は加奈子さんの大学時代の知り合いで茜と申します。葬儀場に行けないからと言って、加奈子さんの訃報を知ったので、香典を送りたいとの申し出があったんです。
不審な感じもしなかったので、葬儀場の住所と電話番号をを教えたのですが、気になってしまいましてね、あとから。気になってたところで、遥香さんからお電話があり、ちょっと聞きたかったんです。茜さんってご存じですか?」
遥香はすかさず答えた。
「知っています。明日、会ってお話しましょう。私もその、茜さんの事でお話ししたいんです!」
遥香はそう言って、明日の約束をした。
場所は神田の笠松出版。
遥香は翌日、そこへいそいそと出掛けた。
続く




