母の秘密
ある初老の女性の日記がパソコンに残されていた。
発見したのはその娘。母のパソコンには輪廻転生の記録と題されたフォルダがあり、
娘は恐る恐る開けてみた。そこには本当かどうかわからないが、1万年前から転生をしてきた
過去生が綴られていた。
加奈子の娘、洋子はパソコンのフォルダを開けてみた。
そこにはかなりのテクストがあり、番号がふってあった。
洋子は最初のページをクリックしてみた。
以下、洋子の見た文章より
私は今、人生の後半を生きる初老の女性である。
間もなく向かえるだろう地球での生のお別れ。
その生を終える前に、私が旅してきた輪廻転生の旅の記録を、
ここに記したい。
そう思って、パソコンに向かった。
誰に知られなくてもいい。
誰にも信じてもらうつもりもない。
確かに私は、転生転生してきた記憶がある。
その前に、今の私自身を軽く書いてみる。
私は、現在は日本の東京近郊に住む、いわゆる主婦である。
今思えば、今世の人生は波乱万丈だった。
子供の頃は病気がちで、あまり友達と遊んだ経験もない。
両親は共働きで、兄弟は兄がいたが、歳がはなれていたせいか、
その兄とも遊んだ経験がなく、今ではすっかり疎遠になってしまった。
そんな私は高校まで、大人しくあまり友達もいない少女だった。
変わったのは大学生になってからだ。
小説や漫画ばかり読みふけっていた、いわゆるオタクな私が、
山岳部に入ったのだ。
運動神経もよくなく、アウトドアに興味もなかったのに、
たまたま新入学生のサークル勧誘にビラを渡され、ビビビっと
感じてしまったのである。
自分でもびっくりだが、今思えば、変わりたい、という気持ち、
高校まで暗くて友人もほとんどいなかった時代を誰も知らない所なら、
自分を変えられるんではないかという淡い気持ちが、どこかに
あったのだろう。それが、たまたま山岳部だった。
親からは反対されたが、危険でなければ良いと言われた。
大学には本格的な登山をする山岳部と、ワンダーフォーゲル部があった。
前者は冬山登山もする本格的なサークルであり、
後者は初心者でもなんとかついていける登山をするサークルだった。
私は何も知らずに、その本格的な山岳部に入部してしまったのである。
(そもそもワンダーフォーゲル部がなんの部活か知らなかった)
私は、なんとなく百名山を登れればいいのかな?ぐらいの気持ちだった。
入部します!と山岳部の扉を開いた時、私は後悔した。
大柄でひげのはやした男性と赤く日焼けした顔にほどく痩せた男性が、
ギロットそた目で私を凝視したからだ。
「あの~、すいません。ここ山岳部ですよね?」
ただせさえ小さな声なのに、震える様なか細い声で聞くと、
大柄の方が野太い声で言った。
「あの、もしかして入部希望の方!?」
あ、はい。
「まじかよ!本当に!」
今度は日に焼けた痩せた男性が、素っ頓狂な声をあげた。
あ、はい。まじです。
変な受け答えをしてしまった。
しかし、もう手遅れである。
ろくに山にも登ったこともない私が山岳部に入ってしまったのでる。
しかも、部員は今、目の前にいる二人と、もう一人。
つまり私を含めた3人だけ。
後悔なんてもんではなかった。
逃げ出したい気持ち。
はやまった!
でも、その時の私は、なぜかその部室に入り、登山は全くの未経験ですが、
よろしくお願いします!と、元気よく答えていた。
これが不思議と言えば不思議なのだが、親も兄弟も驚き、加奈子(私の名前)が
やるといったら、いいよ。ただし危険な登山はダメだよ。
と言われた。
私も特に大きな目的もなく大学に入り、でもこのままではダメだという気持ちも
あったので、とにかくこの部で頑張ろうと思った。
大学は情報リテラシー学部で、プログラムは得意じゃなかったけど、
ハリーポッターが大好きで原書を読んでたぐらいだったので、そこから
イギリスのことや魔法の世界が好きで、よくネットで調べていたことから、
なんとくパソコンを使う学部ならどこでもいいやと入ってしまった。
でも、どこかでアウトドアでも頑張ろうという気持ちもあって、自分を変える為に
山岳部に入ったのも、何かの運命だろうと、その時覚悟を決めた。
今思えば、その決断が、私の過去生の旅を思い出す、最初のきっかけだった。
さっそく新人歓迎コンパが開かれた。
ここだったかな?
その歓迎コンパの会場は、大学から歩いて15分くらいの小さな居酒屋だった。
「ようこそ、山岳部へ!我々は君を歓迎する!」
「あ、一応、君はまだ18歳だったね。ジュースで乾杯ね。何がいい?」
私はオレンジジュースでいいです。はは。
先輩たちは、ビールジョッキを片手に、やさしく私のオレンジジュースのコップに
こつん、こつんとあてて、一気に飲み干した。
「え、加奈子ちゃん、まじで初心者なんだよね?」
ひげの先輩は、大学3年の野口健太郎。
「加奈子ちゃん、ガチで山に行ったことないの?」
日に焼けた先輩は、大学4年の西城八十男。
え~、山は小学校の時に林間学校で長野の飯盛山くらいかな?はは。
「いやいや、初心者じゃないじゃん!飯盛山いいよ!いいよね!」
「いいよ、いいよ!あそこ登れれば日本全国どこでもOK!]
なんか酔ってるせいか、だんだん先輩たちは大きな声になっていた。
とにかく歓迎されてるし、私一人しかいない新入部員だけど、
なんんだか私にはあってるような、不思議な気分だった。
そんなにイケメンじゃない(失礼!)先輩二人も、私には居心地よかった。
高校ではイケメン気どりの軽い男子ばかりで、あとはむさくるしい体育会の男子しか
見てこなかったから、なんかこの二人は、歳の離れた兄に会ってるようで安心した。
そういえば、兄は、むかし、登山好きだったような気がする。
そう、この時思い出したのだ。
兄は、私が幼稚園の時、既に社会人だったんだけど、よく山に登っては、お土産をくれた。
そうか、もしかしたら、無意識の中で、兄の好きだった登山を私もやろうとしてたのか。
そんな自分の気持ちに気が付いたのも、今にして思えば覚醒する第一歩だった。
山岳部に入った加奈子は、部員3人というところで、自分を変えようと思っていた。
優しそうな先輩たちではあったが、充実した大学生活を送りたいと思ていた加奈子は、
少し拍子抜けするぐらいの甘い大学生活だったが、ある時、大変な事故に巻き込まれ、
自分の過去生を思い出してゆく・・。