仲がいいほどケンカする?
茜さんとの出会いは、私の運命を大きく変えた。
彼女といると、今まで不可能と思えるようなことも簡単にできそうな気がしてきた。
2009年4月20日
「え~!茜先輩と一緒だったの~!ずる~い!」
「ゴホン!」
「あ、すいません。」
講義中に紀代が大きな声を上げてしまった。
周囲が白い目でこちらを見る。
私と紀代は大学で講義中に大きな声をあげてしまうことで、気まずい雰囲気になってしまった。
「ででで、どんな話をしたの?」
「話しというか、掃除。とにかくいらないものを部室から出したわ」
「なにそれ?それだけ?」
「えっと、コーヒーをおごってもらった」
「ずる~い!」
「ゴホン、ゴホン!」
教授が横目でこちらを見た。
周囲の目が吊り上がっている。
やばい!
「話しは学食で!」
2限目が終わり、紀代と私は一緒に学食でランチをした。
「茜さんとメアド交換したの?羨ましい~。私にも教えて、メアド!」
「いいのかな?ま、同じ山岳部だし、西城さんの知ってるアドレスだからいいか」
学食でラーメンを頼んだ私たち。
トレーに載せて、テーブルに座る。
「へぇ。ずずっ。そうなんだ~。ずー。」
紀代がラーメンの麺をすすりながら答える。
要約するとこうだ。
茜さんは昨年の山岳部が割れて部員が大量に退部したことで、一人考えたいと、
日本を離れたそうだ。部活も休部届にしてなんとか当時(4年生が数人いた)、
ギリギリのところで廃部は免れた。
しかし、今年はもっと状況が厳しいらしいと、ある知人から連絡があった。
それで心配になり帰国したところで、私たちに会って安心したとのこと。
紀代にそう説明すると、紀代はラーメンを食べ終わってこう言った。
「じゃぁ、今日は部室に来て、初めて山岳部全員揃うってことね!」
「そういうことになるわね。たぶん」
私たちは午後の講義も終わり、早々と二人で部室へ向かった。
すると、半地下の通路の奥から、何やら大きな声で話し合ってる声が聞こえてきた。
「何かしら?」
その声は部室に近くになるにつれ大きくなった。
やはり山岳部から!
「どうしてくれんだよ~!あのピッケルは先輩からもらったもの!あのペナントは穂高連峰を初制覇した記念に買った大事な大事なものなんだ!あの時の感動を忘れないために壁にはってたのに!」
部屋から西城先輩の怒号が響き渡る。
ペナント! そういえば、あれ捨てたんだっけ。そんなに大事なものだったんだ。
誇りまみれで汚かったけど・・・。
「だからダメなのよ!過去の栄光ばかり追いかけて!だからみんな他のとこいくんじゃない!私だっていやだったからカナダ行ったの!」
茜さんも相当の大声だ。
「え、お、お前も、嫌だったのか!そうかいそうかい!」
「まぁまぁ。西城さんも茜さんもここまでここまで、それにまだ捨ててはいないんだろ?」
野口さんが完全に中立の立場で二人をなだめていた。
「まだあるよ。粗大ごみの小屋に・・・。」
「野口、持ってこよう!」 「あ。うん・・・」
「ちょっと待った! お願いだから私のいう事聞いて! 一つだけ!一つだけなら持って帰ってきてもいいわ!それ以上は妥協しない!持ってきたら、その場で捨てるか、家に持って帰って頂戴!」
「たった1個かよ!厳しすぎるよ!茜!」
野口さんもさすがに怒った。
「1個よ。一袋につき、1個。」
「一袋? い、いくつあんの?袋!」
「5袋。そうよね、加奈子ちゃん!」
「はい、5袋です。」
いつの間にか、私たちも部室に入っていた。
「え?加奈子ちゃんも手伝ったの?茜!もう後輩を手なずけたか!」
西城先輩が疑いの目を向ける。
「そういう問題じゃないの。これからの山岳部を担う女子の為に、やったの!」
きまずい雰囲気が流れる中、先輩二人が部室を出てゆく。
「大丈夫よ~。いつものことだから。」
茜さんが飄々とした感じで言った。
いつものこと?
「去年はさ、もっとすごいケンカになって。だから私は日本を捨てた。いつまでたっても昭和ののりじゃさ、21世紀の山は見えてこないわよ。だから日本を捨てることから始めたの。」
「カッコいいです!先輩!」
紀代が目をウルウルさせて言った。
ちょっと、今夜は歓迎会どこじゃないわ。
私は西城さんと野口さんの怒りを見てしまい、
ただただ恐縮して、二人の帰りを待っていた。




