茜の復学
気がつくと、朝になっていた。
しまった。私、寝てたんだ。
昨夜から母の記録を読んでるうちに寝落ちしてしまったんだ。
時計の針は5時を指していた。
薄明かりがカーテンから漏れている。
間もなく、夜明けだ。
眠い目をこすって、もう一度パソコンを見る。
~加奈子の日記より~
私たちは学部長への挨拶を終えた。
茜さんは、このあと友人と会う約束があるらしく、西城さんと野口さんに、溝口茜は復学しました。部活も復活します!とだけ伝えてくれと言われた。
茜さんはキャンパスを出てゆき町の中へと消えてしまった。
「茜さん、まじカッコいいよね、加奈子!」
「ん、そうね」
私は気のない返事をしてしまった。
まだ茜さんがどういう人なのかわかりかねていたし、猛者っていうから凄い女性を創造してたけど、全然違った。
ただ、少なくとも、植村直己さんというクライマーが共通点であり、紀代以外は、みんな植村直己でつながっていた。そしてデナリという山に対する思いも伝わってきたのも事実である。
そんなことを考えていたら、部室についてしまった。
ドアの中にはまた誰かいる気配。
「おー、どこ行ってたの?部室にいると思ってたよ~」
西城八十男先輩が声をあげた。
「あ、私たち、さっき入部届を学部長の所へ行って直接渡してきたところです!」
「そうか、今言ってきたの。いやぁ、これで部員5人になったわけだ!廃部の危機脱出!」
西城さんは腕を高らかにあげて喜んでいた。
「早く、野口もこないかな。今日は祝杯だ!君たちも来る?あ、でも酒飲めないか。未成年だしな。とほほ。」
「とほほ?なんか先輩、昭和の人みた~い!」紀代が笑う。
「いや、俺、実際に昭和生まれだから!1980年生まれの28歳!」
「え~!まじっすか~?」さすがの紀代も驚いていた。
あ、報告しないと!
「あ、それで先輩、あの、溝口さんから伝言頼まれていて。」
「え~~!?溝口!会ったの?????」
「はい」
「早く言ってよ!どこで?いつ?あいつ、今、何してんの?あ、まだ近くにいる?」
あ、それが友人に会うとか言って今はどこにいるかわかりません。
ただ先輩たちに、溝口さんが復学したこと、部活も復活するって言ってくれと頼まれました。
「・・・・。」
ど、どうしたんですか?先輩、泣いてる?
「いや、俺は今、猛烈に感動している! あいつ、生きて帰ってきたんだな。本当に!」
生きて帰ってきた? え、そんなに心配されるような人だったの?
「あいつさ、植村さんが眠るマッキンリーに登る!とか言い出してさ、俺たち止めたんだよ。でもさ、カナダで働きながら資金貯めて、絶対登って、植村さん探すとか言い出してさ。さすがに俺でさえ、あそこは危険すぎて、気持ちは俺にもあったから、行くならもっと計画をたてて一緒に行こうって言ってたんだけど、あいつカナダでのワークホリデー利用してさっさといっちまったんだよ。その後は音信不通。休部届だけ置いて行ってさ。」
そういうことだったのか。
確かに死んでもおかしくなかった。それほど、デナリは過酷な山なのだ。
ただこの時は、まだその危険度を加奈子は全くわかってなかった。
「でも、素敵!そんな思いで海外へゆくなんて!」
紀代が目をハートにしながら言った。
「素敵?確かに君たちからはそう思えるのかもな。でも、俺からしたら、半分死ににゆくようなものだから、必死に止めた。野口も。当時は他にも部員がいたし、廃部の危機もあったから、どうしてもいかせたくなかった。だからあいつは休部届を書いたのだろうな。廃部だけはしないように。」
「先輩、それだけですか?本当は茜さんのこと好きだったじゃないのかな?」
紀代がいきなりセクハラ発言!
「お、おいおい。あ、うん、それもあったかも。というか嫉妬してたのかもしれんな、あいつの行動力と登山の実力に。」
10歳近い年上の人から嫉妬されほどの登山の実力?
茜さんって一体どんな人なんだろう?
その時、部室のドアが開いた。
「お~、みなさん、お元気で!野口健太郎、ただいま戻りました!」
陽気な声が部屋中に響きわたった。
野口先輩はひげを剃っていた。




