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山岳部に入部
加奈子は、子供頃、出会った山の美しさに魅せられていた。
大学に入って思いついたことは山だった。
そして短絡的に、山岳部の戸を叩いた。
体育会系とは高校までは縁遠い加奈子だったが、ここに入れば
自分を変えられるのではないか?という淡い期待があった。
部員わずか3人の弱小クラブであったが、加奈子はかえっていいと思った。
あまり人と話すのは得意じゃないし、わずらわしい。
それまでの人生でも、自分に寄ってくる人は何か信用できなかった。
それは男子にしろ女子にしろ。
だから加奈子はほとんどオタクだった。
特にハリーポッターにはまった口である。
小説の世界が現実ではないとわかっていたが、どこかで人間は魔法が使えるのでないか?という
非現実的な願望もあった。だから密かに呪文を唱えたり、死んだ蜘蛛や昆虫の死骸を、
祭壇のようなものを作って、祈りを捧げたこともあった。
もちろん、何も起きはしないが。
そんな暗くてジメジメした自分を変えるため、大学入学早々、山岳部の扉を叩いたのである。