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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

いつだって君だった

作者: 雨y

15歳ほどに見える男はとある城から出てくる。

ある者を探すために。

触り心地のいい服に、良い革の靴。

コツコツと音を立てているのに歩いている場所は獣道で、土を上を歩いているとは思えない。

歩き慣れているだけだが、靴には土も付かず、音を立てているのにまるで宙に浮いているかのよう。

彼が町に入っても誰も彼の方を見ない。

整った顔に高そうな服を着ているのに見ないのは、彼から金をむしり取らないと知っているからか、この町の人間が冷たいからなのか。

キョロキョロと辺りを見回し、一日中なにも食べずにただ誰かを探している。


「今日もダメか…」


小さいため息はいつもの事で、太陽が半分しか顔を出さなくなる頃に彼は帰っていく。

一体誰を探しているというのか。

それは、何年も何百年も前に遡る。


彼は刑鈴城けいりんじょうと呼ばれる城に軟禁されており、そこでは処刑人として世に出してはいけない程の罪を犯した人間を処刑する命を王から受けていた。

どうしてそう命じられたのか、どうして彼なのか。

それは彼が不老不死という呪いを受けているからだった。

この呪いがなぜ彼にあるのかはもうすでに忘れてしまったようで、抵抗することも諦めていた。

人を処刑する事すらも最初は苦しかったようで何ヶ月も不眠が続いたが今ではその日だけ寝れずに神に祈る行為をする程には慣れていた。

彼にはもう一つ呪いがあり、それは刑鈴城から半径20キロまでしか行動できない事である。

その20キロ内には3つほど町があり、よく賑わっている。

仕事がない日には外に出て、町を歩いていた。


刑鈴城に来てからおよそ200年経った頃だ。

貧しいせいなのか、ボロボロの服を着ているのに透き通った声で歌を歌ってお金を稼ぐ少年がいた。

その歌声が彼の心によく響き、いつのまにか常連客となり金を渡していた。

同じ年齢に見える彼からお金をとりたくはないと少年はいつも受け取ろうとしなかったが、彼は無理やり彼のボロい帽子に投げ入れる。

そして、歌を歌う時少年は彼に向かって優しく微笑みながら歌うのだ。

彼の長い人生の中であんなに微笑みをくれる人は久しぶりで、前に笑ってくれた人の顔なんて覚えていないせいで初めての感覚のように胸に沁みた。


「今日もありがとうございました!」


丁寧なお辞儀と共に元気いっぱいの声に彼はいつのまにか恋に落ちていた。

しかし彼はその恋を叶えようとは思っていなかった。

ただ、少年が生きていけるほどの金を渡すだけで彼は充分に満たされていた。

それに、彼と少年の寿命は違う。

あの少年は不死ではなく、数十年しか生きない。

少年を失った時の消失感を彼は感じたくなかったのだ。

彼は怖がりだった。

不老不死でありながらも怖いものだらけで心が弱かった。

不老不死と言っても傷が治る速さは普通の人間と同じでゆっくりだ。

大昔負ったのであろう全身の傷は跡が残り、いつ見ても痛々しく感じるものだった。

それに痛みも感じるし、血が少なくなると血が作られれるまでずっと寝たきりになる。

そんな彼が心の傷を負ってしまったら、自殺もできないせいで完全に壊れてしまう。

そういうことを長い年月を経てちゃんと知っているのだ。


しかし、別れというものはとんでもなく早かった。

少年が青年になる、そんな時期だった。

また歌声を聴きに行こうと足を運んだ時、いつもいる場所にはおらず、病気になったのかと心配しながらも城へ帰ってきた時、王命を伝えにきた兵士の隣にはあの少年がいた。

嫌な予感がした彼は耳を塞ぎたくなった。


「この少年は禁忌を犯した。よって貴方に」


ここは処刑城。

近寄ろうと思う人はまずおらず、城の外の庭には墓でいっぱいな城だ。

最近は墓を置く場所がなく、その現場を兵士にやって勝手に壊され、皮肉のように綺麗な花が咲くそんな城。


(ここは地獄か天国か)


少年の犯した禁忌は【悪鬼創術】と言う、名の通り悪鬼を創り出す術だった。

術の途中で少年は捕まりこうしてここにいるという。

どうしてこんな事が起こるのか、たくさんの人を殺してきた罪なのかと胸を苦しめた。

兵士が城から出て行った後、彼は少年に聞いた。

なぜ禁忌を犯したのか、金はちゃんとあったはずだろう、と。

しかし少年は無反応だった。

禁忌術の副作用だ。

意識もなく、あるのは体と魂だけ。

禁忌を犯した者の多くは城に運ばれていた。

その度に副作用の状態を見てきたからハッキリと少年は犯してしまったのだと下唇を噛んだ。

王命は避けられない。

それに、もうなにも食うことも感じることも歌うことも出来ない少年を楽にしてあげる方法は一つしかなかった。

使い慣れた剣を両手に持ち、いつも以上に大粒の涙を流しながら彼は少年の首を切った。

白いシャツは赤く染まりながらも、そんなことにも気づかずに頭を抱いて城中に響く声と涙を出した。

見つからないように庭の端に彼の遺体を埋め、毎日毎日お祈りをしてその度に彼は泣いた。

少年の歌声はずっと脳に焼きついたまま離れることはなく、ただ彼の心を苦しみ続けるだけだった。


食料が尽きても彼は生きる。

その代わり体は動かなくなるし、何も感じられなくなる。

仮死状態に近くなるが罪人を連れてくる兵士が無理やり食べ物を与え、体調が良くなるまでみっちり管理される。

彼へのお祈りを邪魔されたくない彼は食料がなくなるその日だけ町へ食べ物を買いに行く。

少年が死んでから40年が経ったある日、野菜を売ってる青年に声をかけられたのだ。


「ねぇ君、悲しそうな顔をしているけど大丈夫?迷子にでもなった?」


優しい声色にどこか安心感を覚えるがこれはいけないと首を横に振って逃げるようにその場から走ろうとした。

しかし青年が彼の手を握り、去ることはできなかった。


「おいおい、10歳前半の子供のくせに迷子な上に強がりだな。トマトでも食うか?一緒に親探してやるよ」


見た目的にも同い年だし年上だと声を上げる勇気が出ずに握られた手を離そうとするが青年は慌てた様子でまた握る手を強めた。

威嚇するように睨みつけるも笑ってかわされ、無理やり口にトマトを入れられて仕方なく咀嚼する。

その美味さは少し少年によって開けられた胸を満たした。

食べ終わった後には自分には親がいないと言うと、驚いた表情で彼の頭を撫でて辛かったなと同情のある目を向けた。

イラッとしながらもあまりの落ち込みように無視できず、大丈夫だと伝え、いくつかの野菜を買って帰ることにした。

それから食べ物を買うたびにあの青年に会い、野菜を買った。

買うたびに長話をするようになり、自分が刑鈴城の城主であることも、少年についても相談に乗ってくれ、男同士という偏見を持っていないのか、辛かったなと頭を撫でた。

そこから恋に落ちるのは簡単で気づけば毎日通っては野菜を買って話をしていた。

時々手伝いをして褒めてもらう事が幸せだったようだ。


そして、青年は刑鈴城へやってくる。

体と魂だけの塊になって、兵士に引きずられるように。

前回と同様で兵士は彼が禁忌を犯したと言って投げ捨てるように渡した後すぐに帰って行った。

なぜ。

この単語が彼の脳内を支配する。

自分のせいなのか、もしかして罪のない人を国が禁忌を犯させているのか、なにかに目をつけられているのか、色々考えてもやる事は、やらなければならない事は同じだった。

早く解放してやらなければ青年の魂は腐っていく体から離れられない。

天国にも地獄にも行けず、生き返られなくなる。

嘆いた後、彼は剣で彼を殺した。

そして、少年の隣に墓をつくり自身の体に剣を刺した。


結果は死ななかった。

たくさんの兵士によって彼が探され見つかってしまった。

腹に刺さった剣よりも胸の痛みのせいで全てがどうでも良くなっていた。

死ななかった事、それが何より彼を苦しめた。

よく持ってこられる罪人を殺す時、神に祈りすらしなくなった。

人はどうせ死ぬ。

死ぬ事はいい事であり、早死にする方が楽だ。

そう自分を洗脳するようになっていた。

城には教会があり、青年が死ぬまでは通っていた。

そんな教会は今や埃まみれで彼が神に助けを求めるのすら諦めていた。

1ヶ月おきにしか来ない使用人も、兵士も、冷たい城も鮮やかに咲く花すらも、誰も彼を見ようとはしない。

そして、2人の墓は彼が見つかると同時に壊されてしまった。

人に怯え、恋に怯え、そんな彼はまたもや恋に落ちてしまった。

城に迷い込んでしまった旅人、ダンサー、芸術家、音楽家、吟遊詩人、騎士、商人に貴族に。

彼が恋に落ちる者は全て禁忌に手を染め彼に殺されてしまった。

その度にもう恋はしない、人を避けることを心がけたが細い糸に引っ張られるように好きになってしまう。

そして彼は気づいた。

全員同じ魂だと言うことに。


(この人は天国に行かずにまたこの世界に来てしまう、僕と違う呪われた子なのだ)


魂は姿を変える。

天国へ行く者は魂がボロボロの者がいく。

禁忌を犯した者は必ずボロボロになってしまう。

天国はあまりいい場所ではないと言われており、娯楽まみれと言われているが、嘘のつかない隠し事ができない、そんな場所のせいで魂は治す事ができても心を病ませるらしい。

逆に地獄は魂が元気なものが行く場所で過酷が故に心も満たされ、次の世界では体も元気な子となると言われている。

どちらも期間が終わると別の世界で生まれ変わる。

そしてあの人はそんな天国と地獄に行けず、ボロボロの魂のままこの世界に生まれ変わり続けてしまう、そんな可哀想な呪われた子だったのだ。

それに気づいたのはあの人が吟遊詩人の時で気づいた時の幸福感と共にくる胸の苦しみは殺さなくてはならない時と同じくらいだった。

そんなあの人に一度だけ気になったことを聞いたことがある。

あの人がただの平民だった時。


「もしも、もしもなんだけどさ。僕が不死身で、君は永遠に転生し続ける呪われた子なら、どうする?」

「そーだなぁ、お前に会いに行くかな」

「え?」

「だって、お前といると楽しいから」

「じゃあ、君が禁忌に手を染めたら?」

「その時は、誰でもない、お前が俺を殺して欲しいな。生まれ変わってもお前といれそうだし」


そう言われた時、救われた感じがした。

彼は救えていた、この人がして欲しい行動を取れていたんだと。

時には彼の思いを伝え、恋人になって禁忌に手を染めないようにした事もあった。

しかし無理だった。

どうしてもあの人は禁忌を手を染めてしまう。

運命は変えられない。

呪いは変えられない。

一生この世界に、この半径20キロから逃げる事など出来はしない。


そう彼が思った時、あの人と目があった。

何度も繰り返した事で、もう目が合うだけで彼はすぐにあの人だと気づく。

彼は不老不死。

あの人は転生者。

お互い呪われた同士、今日もまた出会ってしまう。

この世界で、処刑人と極悪人として。


そして、またいつかの日に。

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