SF俳句 ロボット編
馬一頭は一馬力というわけではない
馬の力を利用して複雑な機構を動かしている
古代ギリシャのようでいてそうではない、ホースパンクな世界。
闘技場では様々な競技者達が日夜観客を沸かしているが
その中でも一番人気を誇るのは、戦車騎士同士の騎士戦。
戦車騎士とは、人型の上半身に車輪のついた下半身の戦車を馬が押して動かす物
操縦士は馬の背に乗り、車輪の回転運動を動力として動く戦車騎士を、
その背中から伸びるレバーを使い自在に操る
闘技場の連戦連勝のチャンピオンが皇帝の御前試合において正規軍の戦車騎士と対戦を求められる。
正規軍の戦車騎士は二頭立ての重装備であったが、チャンピオンはものともせずに圧勝した。
観客の歓声に応えながら一句
「炎天下 我無双なり 闘技場」
砂漠に囲まれた辺境の国
非常にきめが細かく微細な粒子となった砂は人が歩くこともできずに
砂漠を渡るためには人はスキーやソリを使わなければならなず
さらに多くの物資を運ぶためには砂漠船などの特殊な乗り物が必要となる
この周辺の国々ではこの砂を利用した砂時計を動力とする技術が発達していた。
それらはクロックワークスクラフトと呼ばれた。
その様な特殊環境にある国だとしても国境付近では隣国とのいざこざが絶えない。
国境警備隊の隊長に支給されているのは、背中に巨大な砂時計を背負った砂時計騎兵
頭部の操縦席に乗り込み、随伴歩兵が力を合わせて巨大な砂時計を回すと、これより一時間
彼の操る、右手にハルバート左手に鋲付き盾を持った砂時計騎兵は、神のごとき無敵となる。
今回も輸送用砂漠船に三機の砂時計騎兵を載せた隣国の威力偵察部隊を撃破し、国境に近い小さな街の平和は守られた。酒場で祝杯を上げながら一句
「旱星 折りし剣の 朽ち行くを」
海面上昇により陸地の七割以上が海面下に沈んだ世界
太陽の光が届かない深海をゆっくり進む格闘型潜水艦。
シリコーンのような柔軟な船体はクジラのような形でありながら
頭部には四本の腕を持ちイカのようでもあった。
その内部は特殊ガラスで造られた複数のシリンダーとそれらを繋ぐチューブ
船内に取り込んだ海水に生石灰を混ぜ生じる熱でオイルが循環し複雑な機構を動かしている様子は
巨大なオイルタイマーのようである。
海上浮遊都市に居住する人類は海洋資源のみで生活維持をしなければならないが
そこには、新たなる敵対生物が現れた、高い知能を持った巨大タコ、クラーケンであった。
養殖場を荒らすクラーケンを退治するため格闘型潜水艦、「ザラタン」が開発された。
50メートル級のクラーケンを四本の腕で切り刻み、ザラタンは勝利する。
海面に浮上し太陽光を浴びながら女性艦長が一句
「夕凪や 人も都市も文明さえ」
アイボール・アースと呼ばれる惑星、恒星に常に向いている瞳の部分は巨大な台風の目であり
極夜の部分は分厚い氷に覆われた永久凍土。二つの相反する世界の境目、永遠の黄昏の陸地には
やむことのない強風が吹き荒れている、その強風のなかを歩く一つの影、人型のようであるが
何もない大地の上で遠近感が狂わされている、全てを木材によって造られた巨大な人型の城「風運城」
垂直軸型、水平軸型大小様々な風車が動力源として城の全面を覆っている。人ならば頭部に当たる
天守閣から伝声管を通じて各所へ命令が伝えられ、城は向かい風の中をゆっくりと歩みを進めていく。
やむことのない強風と、地平線にとどまる太陽の光の中。
城の遥か前方に、風に押されるように転がる球体が近づいてくる。
直径が500メートルを超える森林球
強風が吹き荒れる地において植物は根を張ることを諦めて大地を転がり始め
それらは、やがて集まり回転する森となりその中心部分には空洞が生じ、生物の住みかとなった。
「風運城」が森林球を抱え上げると、城の狩人達が森の中へと分け入って行く。
このようにして城は住人の生活を賄っていた。久々の獲物に狩人が一句。
「城下町 隅々にまで 野分くる」