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遭遇

 サクが絶望へと向かう少し前。

 村へと向かったサクの背中を見送ったサワノは程なくして村へと足を進めていた。

 

「はぁっ!早く追いつかなきゃ!あいつは自分を犠牲にし過ぎる」

 

 森の中腹から村へと続く小道を先ほど負った背中の傷を庇いながらひたすら走っていた。

 他にも道はあったが長髪の男ルギラから逃げるならこの小道。

 周りは木々が茂っているため土地勘のないルギラには見つからないだろうと選んだ。

 

 

 サクを見送りレイカを村まで運ぶ手立てを整えていると先に隙を付いてきたのはルギラだった。

 目印もなく真っ直ぐ周りの村の人間を避けるように間を縫ってルギラの尖った髪のナイフがサワノの背中にストンと刺さった。

 目が霞んだが何とかなりそうだった……いや、なんとかしなくてはいけなかったんだろう。

 すぐにその場を離れようとしたが間髪入れずルギラは、レイカを囲んでいた村民を次々と刺した……かと思えば、横たわったみんなを例の魔術で黒紅色の液体へ姿を変えさらには小瓶に収めてしまった。

 

「あー、もう!くっそ!」

 

 思い出しただけで怒りが込み上げてくる。

 ルギラに刺された傷は痛むし傷をおっている身にこの獣道はキツい。

 なにより意味がわからい。

 

 

「あいつは悪魔かよ!液体から小瓶に変えるとかどんな上級魔術だよ!」

 

 舌打ちしながら村中心へと続く長い道を走る。

 浮力を扱える者もいるがサワノには備わっていない。

 魔術を習得するには魔術書なるものを読み解いて、さらにはその魔術に受け入れられなければならない。

 生まれながら魔力は備わっている為、生活に必要な魔術であればそんな事しなくてもよいのだが攻撃魔術ともなれば術者と魔術の相性も必要となる。

 つまりは、サワノは浮力魔術と相性が悪かった為習得には至らなかった。


 さわさわと木々が揺れる。

 強風の前に葉が揺らめくそんな揺れ方だ。

 思わず空を見上げたその先には長髪の男の影。

 

「――いっ!」

「待って下さい!待ってお願いです!サワノ様!」

 

 プロペラを両腕に付け空を飛んできたのか、ルギラが声をかけてくる。

 「待って」とお願いされて足を止めるほどの仲ではないし止まってやる義理もない。

 なんなら言いたいことは山のようにあるが、とりあえず今は逃げたいところ。

 

「お前、飛べたのかよっ!つーか誰が待つかよ!」

 

 右手中指の青いマニキュアに口付けし、指をルギラの方へ向ける。

 

水の雫(アキュー)!」

 

 五本の指先に水が雫の形で現れる。

 照準をしっかり合わせる。

 

(ショット)!」


 合図と共に水が銃弾になり飛んでいく。

 

 ――ドンドンドン!

 

 乾いた音が響く。

 三発は手足・腹部へと収まりもう二発は空へと消えた。

 

「あっ……くっそっ!」

 

 ルギラは空中でバランスを崩し木々の中へと消えてゆく。

 

「ったく!」

 

 落ちていくルギラを確認したが、このままずっと追われるのはめんどくさい。と、心の奥底から正直に思った。

 このまま逃げててもどうせめんどくさいなと思ったら、落ちてきたルギラへと足を向けるしかなかった。

 ただ、落ちたと言っても木々がクッションになり大怪我はしてないだろう。

 襲ってくるのは確実だと思う。

 ガサガサと音がするが、数メートル先で膝をつき腹部を押え手足から出血し身動きが取れなくなったルギラがこちらを睨んでいる。


(――直ぐに死ぬような傷ではないしなぁ――)

 

 はぁ。

 

 一息ついて聞いておかなくてはならない。

 

「お前なんだよ。村のやつらどーしてくれるんだよ、マジで意味わかんね。殺されたいわけ?」

 

 少し低い声で苛立ちの混じる声でサワノが声をかける。

 

「殺されたくはありませんね。それに……」

 

 ルギラは姿勢をグッと直して、右手を右胸・左手を腰へと。さらに(こうべ)を垂れる。

 

「私はルギラと申します。貴方はサワノ様ですよね。失礼ですが、私のこと憶えてらっしゃらないですか?」

 

 相手に『様』をつけ、一人称が『私』とはなかなか聞きなれない。

 

「……質問に答えてねぇし俺に長髪の知り合いはいない。しかも憶えてないか。とはなんだよバカにしてんの?」

 

 ルギラが姿勢を変えず何かをブツブツ言っている。

 

「……あー、あの方はキオクを奪ってこっちにやったのか。厄介だなぁーつーか、マジでめんどくせぇ……」

 

 なんて呟いたが、風の吹き抜ける音でサワノの耳には届かない。

 ひざまつき、『様』を付けてくるルギラをみて、サワノは明らかに怪訝な顔をしてルギラをみた。

 

(なんか言ってんのか?めんどくさいなぁ。先急ぐんだよなぁーしかも様とか付けられて怖っ!ってか、手足痛いなら、膝まづいたりしなくていいし急に憶えてないか?とかなんなの?ほんとに嫌っ!)

 

 なんて口にしたら、ほんとに殺されそうだと思った。


「……炎石(プラーミア・ストーン)!」

 

 考えるより動く。サワノはそういうやつだ。

 石が炎に包まれサワノの手の上、無数に集まっている。

 

(ショット)!」

 

 無数の石がルギラめがけて放たれていくが、ひょいっと立ち上がり攻撃を軽々と避けた。

 

「……あれ、挨拶が宜しくなかっですか?んーちょっとだけですよ?」

 

 ルギラも何がよくなかったのかなーと悩みながらも応戦する。

 左頬を触りながら魔術を唱える。

 

(シールド)!」

 

 と、大きな盾が現れる。

 その盾に隠れながら髪を一本抜きピンと張る。

 

(ソード)!」

 

 髪を剣に変えシールドの裏からぐるりとまわり、サワノまで一直線に走り斬りかかってくる。

 

石・盾(ストーン・シールド)!」

 

 サワノは小石を密集させ即席で盾にしルギラからの攻撃をギリギリでかわす。

 

「ちょ、鬱陶しいわ!」

「サワノ様!大切な話しがございます!」

「いや、俺はない!お前から聞く話なんて!――ってか、やっぱ面倒くさくなった!が正解だ!」

 

(――さっきから様なんてつけやがって調子狂う!――)

 

 一瞬の隙すら見せてはいけない。まして相手は戦い慣れている。

 しかしこちらは平和な村で修行を積んでただけ、力の差は明らか。

 ルギラはサワノの一瞬の気の緩みを見逃すはずがなかった。

 ピッとサワノの喉元数ミリのところでルギラの剣が止まる。

 

 ――つー。

 

 っと、風圧で切れたのかサワノの首元に一筋の血が流れる。

 

「私の勝ち。で宜しいでしょうか?」


 ルギラがニヤニヤしながらサワノに堂々の勝利宣言をする。それを受ける間もなくサワノは両手を上げ頭を掻きながら答える。

 

 「わーた。あぁもう、俺の負けだよ(サクに言ったら絶対怒られる……)」

 

 ドサっとその場に座り込む。

 

「お前の話ちゃんと聞くよ」

「よかったあー!あの、お咎めはありませんか?あ!それよりも傷の手当をさせてください!あ、でも治癒魔術は使えないんで、こっちですけどね」

 

 ルギラはバタバタと早口で話し、持っていた剣をぽいっとその辺に捨て左手首に付けているバンドから救急箱を取り出す。

 

「あ、これ便利でしょう?なんでも小さくして入れておけるバンドなんですよ!」

 

 ケタケタと笑ないながら戸惑うサワノの意思は、ほぼ無視して処置を始める。

 

「うるさくね?お前……」

「あははは!そうですか?あ、背中も見せてくださいね!さっき派手に突いちゃったんでね!」

 

 手際よく喉元の傷だけでなく擦り傷や背中の傷にすら消毒と包帯を巻いていく。

 呆気に取られている間に全ての手当が終わってしまった。なんならついでにルギラ自身の傷すら始めている。

 

「あ……おい、そこの傷自分で手当できるのか?」

「なんてことでしょう!私の心配してくださるんですか?」

 

 ルギラは眼をキラッキラに輝かせながら喜んでいる。

 

「――あ……いやつい……」

「サワノ様は昔から優しいですものね。手足の方はそこまで深くないですし、腹の傷くらいなら止血して包帯グルグル巻いておけば、大丈夫ですよ」

 

 手際よく腹部の傷に薬やガーゼを当て、包帯をグルグルと巻いている。

 どう見ても手馴れすぎている……戦いの場に常に身を置いていたとしか思えない。

 そんなことを考えている間にやる事も済みパタパタと救急箱に消毒液などの広げたものを片付けてしまう。

 

「はい!お終いです!」

「あ、ありがとう……?」

 

 なんともルギラのペース。思わず敵に対して礼を言ってしまった。ついさっきまで戦っていたとは思えない。


「では、本題に移ってもよいですか?サワノ様」

 

 そう言って正座をし、サワノの方へと姿勢を正す。

 

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