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権謀

ep3 権謀 25.1.3☆

「はぁはぁっはーぁ」

 

 小屋から逃げ出した彼は、荒い息を落ち着かせようと木によしかかる。

 

「また違った。なかなか⋯あたらねぇな⋯ってか、アイツらなんなの、マジで危ない」

 

 ズルズルと木に沿って、その場に座り込み、ぐっと汗なのか涙なのか、顔を拭った。


 ……ザザッ!

 

「おぃ!ルギラどうだった?」

 

 顔を上げると一人の男が立っていた。

 ルギラと同じように制服を着ていて、キッチリした前髪が印象的である。

 

「イルか……あれも違ったよ。マハが殺した後だったけど、確認はした」

 

 少しうつむきながらルギラが応えた。

 

「そうか。ニイバル様は早くみたいだろうなぁ」

 

 微かに笑みを浮かべながら空を仰ぎ見るイルを、睨むように見るルギラ。

 人を殺して、自分の主が喜ぶ。それがイルにとっての幸せであり幸福。

 ルギラには少々分からない、そんな感情である。

 

「あぁ。そうだな」

 

 心にも無い言葉は誰にも響かない。

 

 ――おい、お前らどこにいる?――

 

 ピアス型通信機から声がする。どうやら声の主は、仲間のマハのようだ。

 

 ――マハか。お前こそどこにいる?俺は今ルギラと一緒だよ。小屋で殺した奴は違ったみたいだな――

 ――そっかぁー違ったか。まぁ、いっかあー。こっちは村の奴らに見られちまって南の山に飛んできたんだよねえ――

 

 彼らも魔術を使える。種類は多様で空を飛べる者もいれば、形を変えることのできる者もいる。

 力の強弱はあれど、なんだって可能。但し向き不向きがあり、なかなか厄介なのもまた魔術の特徴である。

 南の山に行ってからしばらく経つのか、マハの周りは静かで、鳥のさえずりさえ聞こえる。

 

 ――なぁ、一度合流するか?それとも三方向から一気に行くか?目的のものはまだ〝みっつ″も足りない――

 

 イルが提案する。

 

 ――そーするか?ルギラどうする?……おい?――

 

 イルとマハがやり取りする中ルギラだけ返答がない。


 イルがルギラへと目線をやると、不思議そうな顔をしたルギラがそこには居た。

 

「イル、俺の足首に、何かが巻き付いて……」

 

 右足首に違和感があった。三百六十五日、飽きずに見ていて使う自分の足だ。

 いつもと違うのはよくわかる。

 ルギラは自分の足首をさすると、ギシッと引っ張られる。

 

「これは、……ツルか?」


 ――ざざあああああああぁぁ!

 

 ツルがピンっと張りつめた。


 

「見つけたぞお前!さっきのやつだろ!」

 

 森の中ツルを頼りに小屋から追いかけてきたサクとサワノの姿があった。

 

「お前らなんだ!さっきとはなんのことだ!」

 

 イルが問う。

 

「悪人の常套句かよ!あんたに用はない!そこのお前!髪の長いお前だよ!小屋にいたやつだろう!」

 

 ルギラを指差し走り込んでいた。

 

「サワノ!」

 

 サクがサワノの名前を呼ぶと同時に、サワノも動いていた。

 

「わぁてるよ!雨粒(レインドロップス)

 

 叫び再び右手の爪マニキュアに口づけをする。

 先程の指とは違う、指のマニキュアをスライドさせると、雨粒が手のひらに集まって、無数の球体が浮いている。

 サクは右手を口元へ持っていき八重歯で傷をつけながら既に敵陣の頭上に飛んでいた。

 

(ヂェリー)

 

 傷から滴り落ちる血が太い木の幹のように固まりながら敵めがけ伸びていく。

 その間を埋めるように球体となった雨粒が降り注いでいる。

 

「っなにぃ!」

(シールド)!」

 

 ルギラが身を護るように叫んで、攻撃から身を守るように髪の毛で出来た、盾が現れていた。

 

 ドォォォォォォォォォォォォン!



 パラパラと枝が散る。

 

 綺麗に生えそろっていた木々が、かなりの本数が、倒れこんでしまい、空を見上げるのに、何の障害もなく見えてしまうほどだった。

 土煙の向こうから少々大きめの声で、盾を解きながらルギラが叫ぶ。

 

「あぁーいってぇ!」

「おい、ルギラ!大丈夫か?」

 

 血まみれのニ人はお互いの生存を確認した。

 

「イルこそ大丈夫か?」

「なんとかってところ」

 

 イルは仰向けに倒れ、ルギラは身体が木の下敷きになっている。

 

「こりゃ、厄介だな」

「ほんとにな」

 

(フレィム)

 

 小さな声と、同時に今度は火のついた枝が降ってくる。

 

 ザアアアアアアアアアアアアア!

 

「あっつぅ!この、いい気になりやがって!」

 

 イルはグッと足を勢いよく上げると、その反動で上半身を起こし上げる。背負っていた鞄からキノコを取りだし、もしゃもしゃと食べ始める。

 ご馳走様!っと手を合わせ右手にぐっと力を入れ強く握る。

 手首を抑え、血を掌に集中させる。そのまま爪が掌に刺さり手が血まみれになる。

 

有毒(ポイゾナス)!」

 

 ルギラは木の下敷きになりながら、自分の髪をぷつんと一本抜きふぅっと息を吹きかけた。

 髪がスケボー板になる。

 

「イル、ほら!」

「さんきゅー!」

 

 タンっと板に乗り、片足で地面を蹴飛ばし、サクとサワノめがけ滑り出す。地面より少し浮いている為、スピードがでている。

 

「サワノ!来るぞっ!」

「あぁ!」


 構える二人。

 

(ヴァイン)!」

 

 再び技を出そうとするサワノに対してイルが攻撃態勢に入る。

 

「おっせぇんだよ!ばあーか!」

 

 イルが叫びながら拳を振り上げる。スケボー板で加速して来たのだ。一瞬でサワノの目の前にいた。

 

 ――よ、避けきれない!――

 

 イルの拳がサワノの腹部に入る。

 

「ガッッッッ!」

 

 勢いよく後ろの木に飛んでいた。

 木にぶつかった反動で頭が下にさがる。

 

「ガハッ!」

 

 と、大量の血を吐く。

 腹部を殴られただけにしては少々多く感じる。

 

「ぃっでぇ……」

 

 そのまま木の根元に座り込んでしまう。

 サクが近寄ろうと声を掛ける。

 

「おい、サワノ大丈……ぶ……」

 

 言いかけたところで、イルが再び飛び出してきた。

 

「お前も……だよっ!」

 

 イルは既にサクに向かって走っていた。

 攻撃をかわしながら後ろへ、一歩・二歩と避けるサク。

 

「お前らなんだって村人を殺す!」

「そんなんおめぇーらには関係ない」

 

 再びカバンからキノコを出しながら答える。

 

「それよりもお前らの眼玉もみせろよっ!」

 

 ブン!右腕がサクの目をかすめていた。

 

「なっ!」

「俺らの探し物かもしれねぇーじゃん!」

 

 攻撃は続いてくるため避けながら反撃の機会を伺う。

 

「はぁ?探し物だからってそー素直にやれっかよ!」


 サクは再び右手を噛む。血が枝になり刀へと形をか変えていく。

 

 ふぅっと溜息をつく。

 

「まぁ、殺してからゆっくりみてやるよ」

 

 イルはニヤッと笑いながらサクめがけて走ってくる。


 ……どっ!

 

 空から大きな岩が降ってきていた。

 

「!」

 

 ――何遊んでんだよ、イル。一度合流だ。そんな奴はほっておけ――

 

「んだよ、マハ。岩大蛇危ねえーし!こいつ多分っ!」

 

 ――いいんだよ、探し物が先だ――

 

 どうやらマハは二人のまとめ役のようだ。

 

「ったく!」

 

 乱れた髪を整えながら、命令に従うのか身支度をする。

 

「ルギラー!一旦引くぞ!」

「あぁ!」

 

 木から抜け出していたルギラは、髪を二本ぷつんと抜きプロペラへと形を変えイルを連れて空へと消えていく。


「逃げる気か!まだ終わって……」

 

 イルを追う気でいたが、上空の岩が大蛇になりサクの方は勢いよく襲いかかっていた。

 

「くっそ!なんだ!あいつら!」

 

 グチグチ言っている場合ではない。

 岩大蛇が地に着いてしまうと村の方もやばい。そんなことは容易に想像がつく。

 

「ったく!どでかいねぇ。あんま使いたくないんだけどなぁ」

 

 ぼそっと呟き右親指を噛み、血を手のひらにつけた。その手でそっと地面に触る。

 地面に生えていた草木が硬くなりツルへと変わり、岩大蛇まで伸びていくと絡み付いて動きを封じた。

 動けなくなったからなのか、相手が術を解いたからなのか、まるでオブジェにでもなったかのように、そのまま固まってしまった。

 

「岩の大蛇とか、使い手はそーとーだな……」

 

 血を使いすぎたのか、ぽすっとそのまま倒れ込む。

 動かなくなったサクの近くを一羽の烏が飛んでいた。

 

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