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軽蔑

 サワノの放った炎龍は消えたが、あちらこちらで小さな火が飛び、雑草が炎で燃える。

 

「あーぁ。ほんと危ないじゃない!せっかく新しいハーフパンツなのにっ!」

 

 攻撃を避けつつそこらを転がったマハは多少のイラつきを見せながらハーフパンツに着いた泥を払う。

 

「おい!ルギラ!どこにいやがる!お前俺らを裏切るのかよ!」

 

 イルの怒鳴り声が広間に響くが、もちろんルギラからの返答は無い。

 少しの沈黙が、広間を包んだが路地裏からルギラが顔を覗かせ、二人と数メートルの距離を置きトントンと靴を整え伸びをする。

 

「んー、そうですねぇ。私はあなた方を仲間だなんて言った覚えはありません。ただ振り分けられたのがマハの部隊であっただけのことですね」

 

 ニヤけた顔が余計に腹が立つ。

 

「っち、そんな所にいたのか、裏切り者!」

 

 イルの罵声を跳ね返し、ルギラは腹の立つ顔のまま、たたっ!と民家壁へと走り出していた。

 

「私がいつ、ニイバルに忠誠を誓いましたか?」

 

 民家の壁を蹴り、窓を足場にしながら駆け上がり、タンッと一気に屋根、果ては空まで舞い上がっていた。

 プツッと抜いた髪に息を吹きかけ剣へと形を変える。更にもう一本をスケボー板へと変化させそのままイルの方へと一気に。

 そう、そこに道があるかのように綺麗に滑り降りていた。


「ニイバル()だろ!」

 

 イルは接近戦を得意としており、飛び魔術を使うルギラとは相性が悪い。

 

「イル避けて!ルギラとは相性悪すぎるでしょ!」

 

 そう叫びながらマハがタタタッと軽々ルギラへと走り寄っていた。

 

岩扇鷲(ハーピーイーグル)!」

 

 マハが叫ぶと左手に持っていた石ころが岩の扇鷲に姿を変えて空高く飛び出していた。


「ルギラまで突っ込めええええ!」

 

 そう指示を出すと意志をそのままにルギラ目掛け、約八十キロは出ているだろうか、かなりのスピードで突っ込んでいった。


 ――ドォォォォォォン!


 空中でぶつかったからか、かなりの風が土や砂を巻き上げながら広間全体を襲っていた。

 コロコロと風圧に負けたマハが転がっていく。

 ムクっと起き上がり直ぐに応戦体勢に入る。が。


炎弾(プラーミア・ショット)!」

 

 家の陰から声がしたと思えば既にサワノの的になっていた。

 

 ――ドンドンドン!

 

 三発撃ち込まれてしまう。

 ゴフッと大量の血を吐くのは、マハを庇ったイルだった。

 

「あー。いっでぇなぁ。こんな小さな女の子にまで容赦無いとか。お前どんだけだよ」

 

 幸いなのか、傷は小さい様で致命傷とまではならなかった。

 攻撃を躱されたサワノが家の陰から姿を現し、呆れた顔をしながらマハに問いかけた。

 

「小さな女の子。ねぇ。ほんとかよマハ、あんたは昔から『女の子』だったよな」

 

 クセついた髪をかきあげながら疑いの目で見つめる。

 

「女の子は、女の子だろ」

「そうだな。子供にまで手を出しちゃいけねぇ。だけど、お前らはその汚い手で、ニイバルの命令だからって……どんだけの小さな命を奪った。この村のみんなの命をなんだと思ってやがる!」

 

 頭に血が上った。その一言だった。

 次の瞬間、サワノは魔術を発動させながらマハへと走り出していた。

 サワノに続き先程の爆風で屋根まで飛ばされたルギラも合わせてマハの方へと飛び降りていた。


 

「そこ、邪魔」

 

 と、なんとも失礼な一言が。

 街路樹二本にツルを引っかけツルをグンと引っ張ると街路樹がギシッとしなる。

 しならせたら後は地面を蹴りピンボールの様に飛び出すだけ。

 宙に出たその先でツルを切り離し両靴に血をつけた。

 

(ソーン)

 

 小さくしかし、しっかりとした声で魔術が唱えられた。

 イルの前に着地したと同時に蹴り技を繰り出す。

 攻撃をガードするが、靴から出ている『棘』が腕に刺さる。

 

「いってぇ!」

 

 ガクッと膝を着く。

 イル目の前には見下す様にこちらを見るサクが居た。

 

「さっきと逆だな。靴に棘を仕掛けたんだ。いい味だろ?」

「死に損ないめ」

 

 ボタボタと血が止まらない腕を庇う。

 

「サク!待ってたよ相棒!」

「俺はお前を相棒にした覚えはないけど?」

「や、そこは、うん。……違ったわ」

 

 どことなくいつものサクだったが、気になることは確認しておかなくてはならない。

 駆け寄ってちょんちょんっとサクの肩をつつく。

 

「なぁ、キオク戻ったか?」

「あ?キオク?」

「あれ、ルギラから聞いてないのか?」

「何も。あいつは信用出来ない。お前が変な人形使って俺にくれたのは睡眠薬だったよ。あれの出処はルギラだろ?すぐ吐き出しておいてよかった」

 

 コロッと手のひらに少し溶けた錠剤が顔を覗かせた。ぽいっと地面に捨て憎しみを込めて靴で踏みつぶした。

 

「え?睡眠薬だったの?なんでわかったんだよ」

「え、味かなー?あいつは善人か?俺には悪人にしかみえない」

 

 善人は戦わなきゃならない時に治療薬じゃなく睡眠薬なんて飲ませたりしないだろうし。

 この場所には来て欲しくないって、今も顔に書いてある。

 

「やぁ、作戦ではルギラがことの全容をサクに話してイルたちを倒すって話だったんだよ?」

「お前、それは作戦とは言わんだろ。そんな安っぽい作戦であいつらを倒せると思うか?」

「う、それは確かに」

 

 まぁ、そんなのはどうでもいいさ。と、サクは、ふぅっと大きく息を吐く。

 

「ルギラは俺がとてつもなく邪魔だったんだろうね。だから寝てろって意味だったんだろう。ま、戦っている間にくたばってくれれば大成功だったんだろうな」

「てか、サク。傷はどうしたんだよ」

「あー。表面は蔓で縫ったよ。中は……こー。なんていうか……」


 サクは面倒くさそうに眼を泳がせていた。

 

「説明できんのかい!」

「さて。マハとイルには死んでもらわないと。さっきのお礼もまだしきれてないしね」

「ほんとに教えてくれないんだ……」

 

 サクはサワノの疑問は放って置き、グッと八重歯で右手を噛み血を滴らせながら戦闘態勢に入る。

 

「あ、なぁ、それなんだけど……」

 

 サワノがサクに話しかけようとすると向こうからマハの声が響き渡った。

 

「サクちゃんが、()る気ならあたしもちゃんと殺しに行ってあげるわよ、クソガキ共!」

 

 マハが人差し指を自分の頭へと押し込むと少女からグレーヘアーの綺麗な大人へとかわっていく。

 

「うげぇ!」

 

 思わず眼を覆ってしまう。

 

「サワノ、あのグレーヘアー、レイカ達の母親だよ」

「え?あ!」

「村民たちのキオクも多少なりとも弄っていたのでレイカ達の母親はマハと書き換えてたんです」

 

 ルギラがサワノの後ろから顔を出しながら答えた。

 

「ルギラ……」

「サク様、そんなに睨み付けないでくださいよ。怖いじゃないですか」

「怖がってるようには見えない。俺はあんたを信じない。あんたは悪人だよ」


 球体に連れてこられる際キオクを弄られ、まだキオクが戻っていないサクからしたら村民を殺し回っていた人間を直ぐに信用なんてできるはずがなかった。

 しかし、それ以上に嫌悪感が増すのはキオクではない、魂から『ルギラ』を拒絶していた。

 幼い頃から王位継承権を持つ者の一人として、周りの殺し合いは見ていた。

 一人でも減れば、我が子が大王位に就く可能性が上がる。もしも就くことが出来ればそれは王妃にとって何よりも名誉なこと。

 『毒殺・誘惑・騙し合い・誘拐』なんでもあった中に、身を置く時間が三男のサワノよりも長かった分『人を疑う』ことはごく当たり前のこと。

 自分自身の身を守るには『人を疑うは絶対の防衛術』である。それは何よりも一番最初に身につけた。


「俺の傷治してくれたから、善人だろ?」

 

 ぽかんとしながらサワノが二人のやり取りに入る。

 

「傷治しただけじゃん」

「や、それにほらみんなだって……」

 

 サワノはルギラの手首を指さす。そこには小瓶が入っている。

 しかし、サクには関係ない。右手に刀を出しながら呆れたように言い放つ。

 

「だから、サワノは甘ちゃんなんだよ。殺されかけた事ないだろ」


 そんな一言は『キオク』が戻っていないサクの口から聞くことになるとは……。

 

「ねぇ、お前ほんとにキオク、戻ってねぇの?だとしたら性格悪すぎねぇー?」

「あ?殺されかけたことがないってことは、ちゃんと皆が守ってくれてたんだよ。サワノの知らないところで、誰かがね。それをわかってないから、甘ちゃんなんだよ」

「えー(そこまで言う?や、確かに、俺三男だしそりゃあサクよりも危険な目に遭ってはないよ?でもさあ?キオク戻ってないじゃーん)」

 

 球体外(そと)での、キオクが一つも戻ってないやつに、ここまで的確に言い当てられると、なんて言うか……

 

「癪に障る……」

「あ?なんだよ。そんなことよりマハは頼んだよサワノ……」

「(そんな事かいっ!)……りょーかい」

 

 少しいじけてサワノが返事をする。見ていたルギラが笑いながら声を掛ける。

 

「仕方ないですよ」

 

 と、サワノの肩を叩く。

 

「うっさいわ!優しさやめて!」

 

 サクは二人のやり取りを呆れながら聞き流し、イルのところへと走り出していた。

 

「多少信じてくれてもいいじゃねぇーか」

「サワノ様、気にしないでください。すぐに信じてもらえるなんて思ってないですよ」

 

 イルへと走り出し小さくなったサクの背中を見送るサワノの肩にぽんと手を置く。

 

「さて、私達はマハですよ、気ぃ取り直してください」

 

 と、声をかけ、右頬に手を触れ大鎌を出していた。

 

「あぁ!」

「ふーん。大鎌でくるの……ね。まぁいいわ」

 

 マハは(ルギラ)がどんな魔術・武器を使うかはよくわかっている。

 

岩亀(ロッキータートル)!」

 

 そう叫び手のひらで転がしていた小石を放った。

 その石の先から岩が亀へと形を変えぞろぞろと十体程が出てくる。

 爪は長くするどく普通の亀にはない牙すらある。動きは岩でできているとは思えないほどの素早さである。

 

「ルギラもろとも噛み殺しておいで!」

 

 命じられた岩亀が地面をズシャッ!っと蹴飛ばしたかと思うとあっという間にルギラの元へと飛んでいた。

 

「ふん!」

 

 っと、大鎌を振るがかすりもしない。


「まさか、岩亀出してくるとは予想外でしたねーあれ面倒なんですよぉー。ふふふ」

 

 大鎌がかすりもしなかったことを笑って誤魔化している。

 

「ちっ!笑ってる場合かよ!役立たず!水弾(アクア・ショット)!」

 

 キリッと相手に標準を合わせ、岩亀めがけ水の弾丸が勢いよく飛んでいくが当たっても弾けて散ってしまう。

 

「こっちなら!炎弾(プラーミア・ショット)!」

 

 炎の弾丸も岩亀の体にあたってはチッチッと弾かれてしまった。

 

「効かねぇとかありかよ」

「まぁ、そもそも岩に炎や水がダメでしょうしねぇ」

 

 えー今言う?なんて顔をルギラヘ向ける。



 ドォン!


 サワノたちから少し離れたところで割と大きな音がして、辺りに土煙がたちこめる。

 

「いっ!なんだよ!今の爆発!」

 

 建物の向こうから爆発音がした。

 音のした方を見るが土煙で辺は何も見えない。

 

「岩に水や炎はダメだろ。だから他の魔術も覚えろって言ったんだ」

 

 ゆらっと影が揺れる、声の主はゆっくりとこっちに近づいてきた。

 

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