冷嘲
村中心部。
いつもダンボや、やっちゃんの声が響いてる。ギィやアルファの笑い声や怒る声なんて嫌でも耳に入る。
みんなで畑を耕して、村の子供たちを育てて自分の子も隣の家の子も関係なく怒って泣いて笑って。
争いなんて小さすぎて次の日には忘れてまた、笑って。
そんな村だったのに、今はしんと静まり返っている。
綺麗に整備されていた石畳には至る所に血溜まりが出来ている。
ついさっきまで聞こえていた日常の会話はない。
「サァークゥーちゃーん?ありゃ、死んだ?」
コツン。
と、地面に横たわるサクの頭を足で小突いて顔を覗き見る。
眼は虚ろでどこを見ているのかわからない。
――あークソ痛ってえ――
頭も口の中も切れているが痛みは感じない。普通なら頭を小突かれれば怒るんだろうけど今はそんな事どうでもいい。
戦うとかそんな気にすらならない。
守らなければならない人達がもう居ない。サクにとってその事実が受け入れられない。
「う……ぜぇ……(アホらし……)」
殆ど声にならない声で吐き捨てた。
――敵の思うつぼだな――
耳元から嫌味ったらしい声がした。
「あ?(うっせぇし)」
サクは文句を言いたいがその相手の姿が見えない。
声の主はどう考えても聞きなれている相手。しかし、その声の主は姿がない。
「おぅ、ルギラ戻ったか」
イルが挨拶をする。
ふと眼だけで見上げた先には長髪の男、ルギラが立っていた。
――サク、そのまま動くなよ?――
言われなくても動けないんだけど……と、声を掛けたいが声が出ないのが現状である。
「――あ?」
「えぇ。戻りました。遅くなりすいません」
ルギラはアタッシュケースにいっぱいに小瓶を持ってきていた。
サワノの姿はない、殺られてしまったのか?
「マハ、イル。ここはもうみんな小瓶に戻したんですか?」
ぐるりと見回すが人ひとり居ない。
「あぁ、これで終わりだ」
そう言って自慢げにサクを指さす。
「完全に殺さなくても八割の致命傷でいいんだ。サクとサワノ以外は攻撃魔術使えなくしてるし、楽チンだったよ!ってかさあ、サクとサワノも攻撃魔術使えなくしときゃ良かったんじゃねぇ?」
「たしかにそれも有りでしたね。しかし、今のこの状態もニイバル様が観てらっしゃる。俺らがすぐ魔石集めてしまうと、暇つぶしにならないのでは?」
あぁ。とイルが納得している横で、話が長い!とマハが痺れを切らし割って入る。
「ねーぇ!そんなことよりもアタリの眼はあったあ?」
飛び跳ねながらマハがルギラの元へと駆け寄る。
「あぁ。レイカだったかな?魔石でしたよ」
ポケットから取りだし魔石をマハへと渡す。
「これで五つ目!うーん!キレイ!あとひとーおつ!」
大きく伸びをしながら陽の光に魔石を当て中を見つめる。
「ほんっとに綺麗よねーずうっと見ていられるわあ」
「あとひとつかぁー!村のヤツらはみんな違ったし、あと確認してないのはサクだけだ」
イルは満面の笑みを浮かべながらぐっとサクの髪を引っ張り地面から顔を上げる。口元から滴り落ちる血が傷の深さを物語る。
「ははっ!絶望の淵ってやつかな?」
睨むとかそんな気にすらならない。
「ニイバル様はなんでこんな奴気にするんだろ。さっさと殺しちゃえばいいのにねぇー」
イルは三人の中で一番『ニイバル様』が大好きで、そんな大好きな彼が自分よりも弱いサクを気にかけるのが心底気に入らないのである。
「殺しちゃったらさぁ、継承権が次の子に移ってまた、作戦は練り直しだよお?面倒臭いじゃない」
「んー!たしかにさあ!そうなんだけど。俺の方が役に立つ!」
「でもまぁ、サクの兄弟はもう居ませんし、継承権が移るとすれば……誰でしょうね?」
「サクって兄弟いないのか?」
三人は顔を見合わせた。が、どうやら誰も真実を知らないみたいだ。
「さぁーな。継承権に誰が絡んでくるかとか、興味ねぇーもん」
そう言って掴んでいたサクの髪から手を離す。
ダラダラしていればニイバル様が大王位の椅子に座る時期が伸びてしまう。早く新国を創りたいイルにとってそれは嫌なのであった。
何よりニイバル様の意に歯向かうことはしたくないのである。
(ニイバル……どっかで聞いた覚えがある……)
地面に頬を預けながら、動かない身体にイラつきつつ頭の上で繰り広げられている会話から今置かれている状況を判断したいところ。
さっきの耳元から聞こえた声も気になるが、信じておいて間違いないと確信していた。
「王位継承権を放棄させるのだって簡単だよおー!」
「あははは!確かに!脅せばすぐ放棄しそうだな」
ケタケタと笑いながらサクの顔を覗き見る。
死んでいる、もしくは八割の致命傷を負っている。のであれば嫌でも小瓶に戻る。
小瓶に戻らないところをみると、傷はまだ足りないようだ。
三人が進めているのは国の話。
サクの育ったのは川が流れ山々に囲まれ澄んだ空気と人びとは慎ましく、あたたかい。平和なことろ。
王位継承権だとか、そんな難しい話は関係ない。
(――そんなの俺は知らない。みんなの笑う声が聞きたいし、サワノにも愚痴を言いたい。なにやってんだ、サワノ殺されたのか?――)
――殺されてねぇーよ、弱ちんサク。そんなんお前には似合わない。もう少しすれば薬が効いてくるから。待ってろ――
(――また耳元で喋って――)
「サワノ?」
三人に気づかれないように小さな声で呟いた。
――なぁ、サクこれから話すこと信じてくれない?……この村は俺らの村じゃない、ここは作られた球体の中だ。お前はハハロクイ国の第三王妃の長男。王位継承権……四位を与えられているだろ?――
――は?第三王妃……四位――
耳元で囁くその声は何かおかしなことを話す。
俺の母親の話……。
そう、ここに来るまでに『祖父』は存在したが『親』なる者はで出てきていなかった。
――俺にもサワノにも親はいるはずだけど……?どこに?――
サクが飲み込めない疑問を考えていると、近くで魔術が唱えられていた。
――ボボボボッ!
その炎は石畳を悠然と走り抜けマハとイルに向かっていた。
「――?」
二人は危機察知能力が高いのか、あたる瞬間に避け二手に別れていた。
「ちっ!炎龍!」
再び炎があがり、今度は炎が龍の形をしながら二人の元へと飛びかかっていた。
「ルギラァ!どうゆう事だ!この炎はサワノの魔術じゃねぇか!」
イルが怒鳴り散らかす。
「あれーぇ?そうですか?私あなた方の味方だっていつ言いましたかぁー?ってかあ、なんでサワノの魔術ってわかったんですかあ?ふふふふっ」
そう叫びながら髪をプツンと抜き大きな腕に変えサクをひょいっと持ち上げ、民家の隙間へと逃げて姿が見えなくなる。
「あははははっ!ちょっとごめんなさいねぇ!」
「待て!ルギラァ!」
マハが炎龍を避けながら追いかけるが、追いつくどころか余計離されてしまう。
町中心部から、少し路地に入り広場からは見えない位置に体を寄せた。
「ふう!ちょっと遠かったですねぇー。あ、大丈夫ですか?サク様。しかし怪我酷いですねぇ。サワノ様が飲ませた薬、そろそろ効いてくるはずなんですけどねぇ」
そう言って家の壁によしかけた。
サクは睨みながら魔術を発動させようとするが、どうにも力が入らない。
「お前……、一体なんだよ……触るな……サワノになんて……会ってない」
「あー、無理しないでくださいね。んー気づかなかったですか?えーっとこの辺に、あ、失礼しますよー」
そう言ってサクの左耳あたりをゴソゴソと触ると、そこには数センチ程の小さな人形が出てくる。
「これ、私の髪で出来ているんですよ!この子とサワノ様と繋いでいたんです。私が二人と合流する間際にこの子をサク様の辺りまで飛ばしておいたんです。サワノ様と繋がっていたので話すことも薬を口に入れることも出来ました!」
「なんで……俺を助ける……」
「ふふふ。薬……効かないですか?」
薬は傷を治すものだけではないようだ。
「なんだ……眼が……霞む……」
ドサ。っと薄暗い路地裏にそのまま寝込んでしまう。
「やっと効きましたか。まぁ、絶望の世界へ――――いってらしゃい、サク――――」
見送ってサワノの元へと急いだ。
二件先の家裏にサワノはいた。
ギィィっとドアを開けると、炎龍を操るサワノの姿があった。
「ルギラおかえり。サクは大丈夫そうか?」
「ええ。傷は酷いですが少し休ませておきましょう」
「連れてこなかったのかよ」
「あ、ここも危険なんで、置いてきました」
ルギラは机に置いていた自分の荷物を持ち直し、攻撃の準備に取り掛かっていた。
「お前らしいわ(まぁ、混乱に乗じてサクが死んでくれたら。とか、考えてそうだけど、たぶんそんな事では死なないね)」
「で、こちらの状況は?」
「あいつら、俺がここに隠れているなんて思ってないだろーな。バレてないと思うよ」
「ここまでは上出来ですね……では、作戦通り行きましょう」
「あぁ。そうしようか」




