表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/18

闇黒

 ただひたすらに、父親(とうさま)母様(かあさま)に愛して欲しかった。

 しかし、この国ではそれは叶わないと三歳で悟った。

 

 何をしても満たされない、渇いた心と愛を持っていない俺の人生は『暇』だと思った。

 かくれんぼに鬼ごっこ、小さいながらに暇の潰し方を考えた。執事を困らせることもした。読書に絵画、楽器もやったし、料理もした。


 でもどれも二日と経たないで飽きてしまった。

 

 歳を重ね更に暇潰しをした。

 自作自演で誘拐されたフリなんかもしたっけ。あとは・・・小さな軍を作って気に入らない相手を堕としたり、いろんな暇潰しをしたけど、どれも直ぐに飽きてしまった。満たされたことは一度もなかった。

 気がついたら渇いた心のまま二十歳になっていた。


 

 ――ねぇ、僕の暇つぶしに付き合ってよ――




 のどかすぎる村にどう考えても似合わない男女が三人。

 小さな女の子がおもむろに死体から何かを取り出してじぃっと見つめ確認する。

 

「なぁーんだぁ!これも違うのか!」

 

 ふてぶてしく何かを捨てる。

 

 ――てんてんてん……てん……。

 

 寂しく転がり草むらに動かなくなる。

 キリッと整った前髪の持ち主が大きな伸びをひとつして主のためだと決心した。

 

「また狩に行くしかないなー」

 

 女の子が目を輝かせながら、先の死体の持ち物を漁っていた。

 

「そうだねーまだ時間はあるしねぇ」

 

 すくっと立ち上がりクルクル楽しそうに短いスカートを翻した。

 二人の呑気なやりとりを見ていた長髪の男がひとり。

 

「……はぁ」

 

 浅いため息をひとつ吐いて呆れている。

 各自持ち場の確認を軽く済ませた三人は、その後三方向へとバラバラに消えていった。



 山間に広がる小さな村。

 魔術が当たり前。その為色々なものが溜まりやすいが、他の地区から来るものはいない。

 見慣れた顔が全てで、大きな発展もなければ、衰退もない。

 衣食住の全てが自分達でなんとかできる、不自由のない暮らしである。

 陽が高くにあり暖かい、昼ごはんを終えた村民は畑や仕事の続きを始めて、賑やかな声が村全体に響いて、村は活気に溢れている。


 

 村の少しはずれ、南西にやや小さな湖がある。

 隣にはうどの大木がどんと構えている。

 大木の上の方、鬱蒼としていた葉をすいて、人が長時間そこに居てもいいようにしてある。

 その太い枝に座り村全体を見守る男が一人。

 

「サワノ知ってるか?また昨日遅くにも眼をくり抜かれた死体が出たって」

 

 下の枝にいる赤茶色の髪を、クルクルと指で巻いているサワノを見る事なく話しかける。

 

「え?」

 

 サワノが上を見上げるが、不意をつかれたのか単純な返答しか出来ない。お構いなしに男は続ける

 

「村長が俺らに調査して欲しいって。面倒だなぁー」

 目元まで伸びた銀色の前髪を避けつつ話を続ける。

 

 見慣れた知人・村民が殺されたとは思えないくらい素っ気ないが彼、サクにとっては精一杯。

 感情を表すのは、あまり上手くないようだ。淡々と喋る。起きている事件とは真逆に微かに吹く風が心地いい。

 癖のついた髪をクルクルと巻きながら少々考え込んでしまった。

 

「眼のない死体ねぇ……なぁ、サクのご近所だったよな?殺されたのって……」

「あぁ、被害者は服屋のジィと、他にケンとエンだな」

 

 被害者リストを広げ、カバンから「Feドリンク葡萄味」と書かれたジュースを取りだし、ブスっとストローをさして飲みだす。

 なかなか酷い貧血持ちなので常備している。

 

「村長からの命令だもんなあ、犯人を探せってさぁ」


 サワノは伸びをひとつして面倒くさそうに答えた。

 ズズっとジュースを飲み干しサワノの問に返答する。空になった紙パックをゴミ箱へと放り投げ入れる。

 

「なぁ、サク、俺パスできない?頭いてぇーんだよねぇ」

「それは無理だろうなぁ。痛み止め飲んで様子みたらど?さて。行こっかサワノ」

 (えー薬で何とかなる?この痛み……)

 

 サワノは仕方なしにサクから貰った痛み止めを飲んで、木のツタをしっかりと掴み地面までスルッと降りて、下で待っていたサクと合流した。


 誰かに攻められた事のない、平和な村に住んでいるふたりにとって、村民の中に犯人がいるなんて疑いたくない、そんな事は嫌なのである。

 ただ、嫌だからと言って、村長の命令を無視する訳にはいかない。まして村民からの信頼の厚い二人なら尚更であり、大事な仲間が殺されているのは事実。


 

 ――昨夜殺された村民で八人目。

 

 湖から少し北東に行くと村の中心に出る。そこからさらに西へ進むと村長の家がありそこで埋葬前の遺体は保管されている。

 

「ちわーす」

 

 サクとサワノは軽く会釈をしながら村長宅の門を潜り、住宅前の庭にいる村民へと挨拶する。

 村民の目線の先に遺体が三体シートに包まれ、あとは火葬を待つだけと、安置されている。

 

「昨夜殺された三人も、眼玉がくり抜かれていた。と報告がありました」

 

 サクとサワノの後ろからヌルッと出てきた大男、村長の護衛をしているアルファが二人に伝える。

 

「……そうか」

 

 二人はキレイに並べられた遺体に手を合わせる。


「失礼します」


 と、掛けられていたシートを捲りあげる。

 

「趣味の悪い話だ。手で抜き取ったんだろうな」

 

 刃物でできる傷はなく、眼の周りがぐちゃぐちゃである。

 間髪入れずサワノが心底イラついた声でボソリと呟いた。

 

 「……腹立たしいな」

 

 面倒なものか、八人も殺されて何も出来ない自分たちへの怒りすら覚える。

 何故『眼』だけが無いのか、犯人のしたいことが分からない。

 平和で居たいだけなのに、誰がこんな惨いことを。

 

「なぁ……確認なんだけどさこの村って、今まで他村から人が流れてくる事ってあったか?ないよな?」

 

 頭痛薬のせいか、サワノの頭の回転が早い。ちょっとビックリしてサクが間を置いて答える。

 

「あ?あぁ、多分な。村の端まで行ったことないから、知らないけど、近くに村は無いはずだ」

 

 サワノの言いたいことは、だいたい察しているが、そんな事はあって欲しくない。


「いつになく頭が回っておるようじゃが、それは犯人が村民じゃと言いたいのかのぉー?サワノ」

 

 杖をつき眉毛・髭が邪魔そうな低身長の老人が近づいて声をかける。

 ひぃ!っと小さく悲鳴を上げながら挨拶が飛び交う。

 

「村長!」

 

 と、深々と頭を下げたのはサワノである。

 

 一人を除いた全員が深く頭を下げる。

 頭を下げる皆を横目に面倒くさい顔をする。

 

「じじぃかよ」

 

 と呟いているのは孫であるサクだった。

 

「なぁ、この村ってさ他の村からはかなり離れてるよな?」

「サクよ、家から出たら村長と呼べと言っておるじゃろうに。まぁ、可愛い孫だしのぉよいわ」

 

 怒れないのか、孫は目に入れても痛くないようだ。アルファもサワノもそんなやり取りに呆れている。

 髭を撫でながら村長は目を細め答えた。

 

 「そうじゃのぉ、ざっと千キロは離れておるんじゃないじゃろか。行ったことはないがのお!じゃははははははは」

 

 適当に返すから孫から信頼がないのではないだろか。

 行ったことのない隣村なんてあるのだろか。ただ千キロの間何もない。

 彼らにとっては当たり前で、不思議なことではない。

 都会どころか、他村すら見た事がなく、自分たちの村が全てとはそういうことなのだろう。

 

「今更誰が攻めてくる。なんてことはないだろうしなぁ」

 

 はぁ、ため息がでる。

 

「じゃあ、犯人は村民になるぞ?」

「それしか考えられないだろうなー」

 

 頭をワシワシと、掻きながらサクが断言した。

 

 村中心部から、少女の影ふたつ、村長宅に訪ねてくる。気づいたサクが咄嗟に遺体へシートをかける。

 そう、彼女たちにとっても知り合いである。

 庭に居た村民が案内し、二人がサクたちの方へと歩み寄る。

 手を繋ぎ一人は震え怯えた様子である。

 

「あ、あのぉーサクとサワノだよね?」

 

 細々と声を掛けてくる。

 

「レイカ、アイナじゃないか。どうしたんだ」

 

 怖くないようにとサワノが明るく声を掛けた。

 すぅっと大きく息を吸い込んだアイナが自分達の異変を伝える。

 

「あ、あのね!家の裏にある小屋がね、変なんだよ?」

 

 目をまん丸にし両手をグッと握り力を込め言う。

 顔を見合わす三人。

 村長の眉毛は上がり今まで見えなかった細い目が大きく見開く。

 

「アイナ、変って何が変なんだ?」

 

 サワノが問うも、勇気がなくなってしまったのか、ビクッとしレイカの後ろに隠れてしまう。

 モジモジしながら、レイカが口を開く。

 

「あのね、あの小屋には農具しか入ってないし、ずぅっと使ってないの。けど、昨日の夜ね、明かりがついたり消えたりしてたの。でもね……」

 

 段々と語尾に力が入らなくなって下を向いて黙ってしまう。

 レイカの後ろに隠れていたアイナが、持ち得る感情を昂らせている。

 

「ママは知らないってゆーんだよ。変なの!」

 

 幼いながらに必死に伝えてくる姿は、早くどうにかして欲しい、確認して欲しいと訴えているようだった。

 黙っていたサクが口を開く。

 

「アイナ、とーちゃんはどうした?」

 

 二人の父親ダンは大柄であるも繊細な人である。村唯一の湖の管理をしている、とても有能な人物である。

 

「パパは三日前から帰って来てないよ。」

「湖のちょーさ?ママがパパは忙しいって……」

 

 何を変なことを聞くんだろう?と思いながらも知っていることを話す。


 村長は目を伏せ軽く首を横に振った。

 調査が入るとも、何か異変があったとも報告はない。


 ――あぁ、やばいな――。


 その場にいた大人は全員そう思った。

 

「そうか、わかったよありがとう。怖かったよな。俺ら見てくるから待っててな。」

 

 そう言って小さな二人の頭をポンポンと撫でるサクの背中は怒りで満ちていた。

 

「じじぃ、二人を頼むわ」

 

 二人は子供たちを村長に預け問題の小屋へ向かう。

 

「なぁ、でも村の中心通らなきゃならないよね」

「……まぁ、な……」

 

 別に通りたくない訳では……。

 が、皆に会うと気持ちが緩みそうだなぁ。なんてちょっと思った。


 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ