中
☆始りの草原
ガルドの名声が高まった頃、クラス転移で総勢26名の生徒が草原に転移をしてきた。
ここは転移者が現れやすい。
王国は冒険者ギルドに依頼し。定期的なパトロールをしていた。
パトロールを任された冒険者グループ『何でも相談しろ』パーティーは全員男性のパーティーだ。
重要ではないが、ないがしろに出来ないクエストに最適と判断されたグループだ。
D級であるが生真面目さが評価された。
その彼らが転移者を発見した。草原に異様な黒髪・・・の集団を見つけ。リーダーは異常事態と判断した。
「おい、黒髪の群れだ!数20以上!他にいるかもしれない」
「トム、何かあるかもしれないから先に報告に行け。第一報だ。『異世界人多数転移、20名以上!場所、草原の入り口から徒歩3日!道筋』」
「はい、リーダー!」
「拡声魔法で呼びかけろ!ここからだ」
【お~い、お前達、何者だーーーー】
・・・・・・
「何だ。ヒゲモジャの男達だぜ。田口君、どーする?」
「絶対、盗賊だぜ!撃っちまえ!」
ダダダダダダーーー!
「ヒドいよ。やめてよ。田口君!」
「ああ、危ないから寄るな。撃っちまうぞ!新田、お前はお針子なのだから物品の管理をしていろ!」
「そんな・・」
私は新田小夜。ジョブはお針子だ。
異世界転移しいて三日目、田口は、いえ、私達は人を殺した。
今、私の味方は。
「グスン、グスン、新田さん。離れよう」
「ええ、佐伯さん」
佐伯幸子さんただ一人だ。ジョブ聖女なのに普通に接してくれている。
本当の友人だ。
☆☆☆冒険者ギルド
「アハハハハハ、異世界人なんて簡単よ!」
俺、ガルドは飲み歩いている。
もう、数年分遊んで暮らす金が出来た。
しかし、生涯安定な金でもない。
どこかお貴族様の専属になる話はないか。
あちこちの宴会に出席しているのだ。
「ガルド!」
「ガルド殿!もう、貴方がチートスレイヤーの称号を受けて良いのではないですか?」
「その称号はまだ早いかな、この世界は俺らの世界よ。やつらの好き勝手にさせないぜ。このガルド進撃団がな!」
さて、フランカの方は相変わらずにに援農と訓練だ。
フランカの風魔法と、土魔道師が畑の耕作を手伝っている。
もう、そっちいけよと思う。
そんなとき、大型クエストがやってきた。
王国案件だ。
「金貨一万枚!異世界人多数転移、接触を試みた冒険者をいきなり殺した。場所は始りの草原である!フランカ殿!」
「はい、ギルマス」
大勢でやって来たか?
やり方を考えるか。
俺はギルマスに提言をした。
「ギルマス、俺に任せて下さい。俺を中心にクランを結成しましょう」
「・・・王国からフランカ殿への指命クエストである」
チィ、どういうわけか。王国はフランカを信頼しきっている。
そう言えば、元令嬢という噂があった。
「フランカがクランを結成するっていうけど・・ベテラン組は参加しないわ」
「マリー、そうか。そうだろうな。自分たちでやるつもりだな」
結局、フランカの所には半人前か、うだつのあがらない冒険者たちが集まった。
しばらく様子を見るか。
奴のやり方を改めて見に行った。
草原に土魔道師で土塁を築く。
何だ。今度は2重か。
大げさだな。騎士団とも連携している。
ドン!
「放て!」
シュン!シュン!
騎士様は、土塁にこもって曲射のお稽古か。
まあ、今度は俺の出番はなさそうだな。
いいな。コネのある奴は・・・・
しかし、しばらくして、報告がもたらされた。
「フランカ殿、クエスト未達成、逃げた者がいた。捕虜からの情報では聖女とお針子の2名だ。されど銃を持っている。賞金二人で200枚だ」
「おお、腕ならしに丁度良いぜ」
「簡単だぜ」
他のパーティーはクエストを受注して出発した。
どうやらあの草原周辺の森に潜んでいると見積もられる。
金貨200枚、5人で分けて、40枚か。イマイチだな。
やめるか?
しかし、しばらくして、失敗の報告が続いた。
何故だ?
マリーに聞くか。彼女はその愛想で情報を聞き出すのが上手い。
「理由は分からないねえ。消えている・・・多分全員殺されて埋められているか食べられているって言っている人もいる。どのみち。全滅したから理由が分からない・・って」
「そんな馬鹿な。だって、女で異世界人だろ?」
しばらくして、値がつり上がった。金貨1000枚から、ついには二人で一万枚だ。
これは・・・やるしかない。
パーティーの奴らもやる気だ。
「やるでしょう。ガルド!」
「今度はどんな手を使う?」
「あの方法で良いだろう」
「リーダー、実はあの時の銃を持っているよ!」
「マリー売らなかったのか?」
「うん。これでやれば完璧だよ」
「やるぜ。皆で山分けだ。これで冒険者稼業から足を洗えるぜ」
☆☆☆森
森についた。
薄暗い森だ。
黄昏時。
マリーは令嬢のドレスで森をウロウロさせた。
俺たちは茂みに潜む。
いつもの弓手に銃を持たせた。
ハンマー使いもナイフ使いも念のための備えだ。
すると、向こうから・・・聖女がやってきた。
ジョブで聖女の服を出したのだな。あれで化けているつもりか?
女だ。真っ黒の髪を二つに束ねている。
情報だと17歳だ。銃は持っていないが。
マリーが話しかけた。
しかし、一定の距離を保っている。
何かおかしい。
「聖女様!良かった。道に迷いました!案内をして下さい」
「あれ、貴女の来た反対方向が街・・・だと思いましたが」
「怖いんです。一人だと、不安で」
「あれ、道に迷ったと言いましたよね」
「実は、怖い男達に追いかけられて・・」
「へえ、それって、ここに潜んでいる男たちの事ではないですか?」
「えっ・・・」
何だと、俺たちのいる藪を指さしやがった。
聖女は、「フッ」と笑って、しゃがんだ。いや、地面に寝た。
何故だ?
いや、まるでフランカの訓練、『伏せ』ではないか?
バン!
銃声の後。
バーーン!とマリーの頭が吹き飛んだ。
どこからか狙われている。どこだ?
いや、おかしい。銃声が小さい。遠くからか?
「おい、コズン、こちらからも撃て!どこでも良い」
「おう!・・・」
カチャ!カチャ!
「あれ、弾が飛び出ている・・・」
「試射はしたのか?」
「いや・・・」
「馬鹿!異世界人を舐めているんじゃねえ」
何だと、まるでフランカのような口癖が出た。
バン!バン!
「ウワ!」
「ギャアアアーー」
あっという間に、俺一人になった。
ガサガサガサ!
草むらをかきわける音がする。
聖女はもういない。
俺は逃げる・・・
逃げるぞ。どうやって。
這って進んだ。
これは、フランカが訓練していた第5ほふくじゃないか?
何だ。異世界人は子供じゃないのか?
銃声が止んだ。ここまで追ってこないらしい。
俺は立ち上がった。
「フウ・・・ウワッ!」
バン!と音が届いた瞬間足が破裂した。
もう立てない。出血多量で死ぬだろう・・・
ガサガサガサ~
草をかき分ける音がする。
奴らが来るか?
「ば、化け物・・・」
出てきたのは先ほどの聖女と・・精霊だ。全身に草や木をつけている。
わずかに目の所が空いている。
これで居場所が分からなかったのか?
「ハハハハ、最期に教えてくれ。どうして、お針子なのにここまで戦えた・・・」
「愚問、お針子のスキル、巻き尺がある。距離が㎜単位で分かる・・・この64式7.62ミリ小銃の照準器の単位は100メートル単位だ。微妙な誤差の修正は実地で学んだ」
「なら、その奇妙な精霊の服装は何だ・・・」
「ジョブお針子で糸と針を出せる・・・隠れるために草と木を糸でつなぎ合わせた」
「何故、聖女は、俺たちの位置が分かった・・・」
今度は聖女が答えた。
「それはね。適当だよ。あの女言うことがコロコロ変わったから、伏兵がいるとしたら良い感じの場所を指さしただけ・・」
「ハハ、それで立った俺たちが間抜けだったと言うことか」
そうか。思い出した。こいつら、異世界で何千年も同族殺しを続けている凶悪な戦士の卵でもあるんだ・・・・
「・・では、フランカの毒霧をどうして躱した」
「フランカ?それは、鳥が落ちてきたから防護マスクをつけただけ・・・戦闘装着セットと防護マスクはセットだよ。だけど、ミリオタの田口君ですら。興味を示さなかった。私は災害を経験したから必要性を認識していただけ」
「最期に・・・死体はどうした?食べたのか?」
「馬鹿、隠したのよ。死体から居場所がバレる事がありそうだし。それに遺体だし」
負けた。負けた。全てに負けた。フランカが警戒するわけだ。
「グフッ!」
「ごめんね。苦しいよね。殺してあげる」
そして、優しいじゃないか?
「最期に・・・お礼だ。俺は軍師、このまま草原に出た方がいいぞ・・・クエストの内容が変わった。『抹殺』から、『生き死に問わず』に変わったぜ・・・王国はあんたらに興味を持っているようだ。この国は強ければ敵でも尊敬される・・・・から、もしかしたら・・・」
もう、目が見えなくなった。
「そう・・・有難う」
バン!
「幸子ちゃん。お願い」
「うん。豊穣魔法!」
ボア~~
遺体を中心に聖女幸子が聖魔法をかける。
すると、草木が生えて遺体にからまり。小さな藪が出来た。
初見では分からない。
遺体の場所から出没地帯が割れる可能性がある。と彼女たちが考えた結果だ。
「行く前に腹ごしらえしようか?」
「うん。椎茸ご飯が一缶だけ残っているよ。二人で分けよう」
彼女らはとっくに草原に出ることを決断をしていた。
もう、食料も弾丸も残り少なかった。
王国が迎え入れるのなら、それで良し。
そうでなければ一矢報いるつもりだ。
最後までお読み頂き有難うございました。