#7-4 “因果”
いきなり横殴りの岩を次々に叩きつけられて宙空から撃墜された金切竜は、尚も降り注ぐ投石の直撃を浴びせられると流石にへたり込む。正気を失っていることで徐々に悪くなっている戦況を読む事もままならずに、手負いの獣として唸り声を上げつつ、再び目の前の“猪”と向かい合うというと、互いに次なる一撃を狙っては、それを仕掛ける隙を伺い始めた。
その対峙による静寂がきっかけとなったのか、階下から野太くしゃがれた大声が響き渡ってくる。
その声はネルドゲルが何やら、演説とも出征前の口上とも取れる趣きで部下たちに語って聞かせるもののようであったが、おおよそ人間に判別できる言語ではなく、彼らオークにだけ通じる言葉をどうやら喋っている様子であった。
その発音の響きときたらまるで韻律も踏まれない上、猪豚の鳴き声や威嚇にも似た発音が多く、それを聞く者に余り活力をもたらさない音声としか人間族には判断できない代物であったが、話の内容が進むにつれて、大将軍の部下であるオークたちにも動揺の表情が浮かんでゆき、耳栓を外してその言葉を聞いたニィルボグに至っては、当惑というよりもむしろ呆然としていたほどである。
嵐に晴れ間が切り込まれたように、一時の静けさがこの火薬庫にも似た下内郭に訪れた。
ルクスは弓隊への合図をいつでも送れるよう主君の指示を待っていたが、当のミディクラインは射よとも止めよとも伝えることなく、ただネルドゲルの演説を眺めている。どうやら話も終わりに差し掛かったらしく、大将軍の指名を受けたらしい一人の大オークが、その命を肯ってネルドゲルの前に跪いた。フル=オークの副将軍が大将軍の手から大太鼓の桴を授けられている最中、ようやく公王が号令でこそなかったものの口を開く。
「道化、訳せたか」
公王の前に座らされていた道化は、主君のその命に応えるべく、かねてよりネルドゲルの発言へと耳を傾けるよう努めてはいたものの、僅か間を空けて申し開くかのように、遠慮しながらこう返答した。
「オークの言葉のようですが、今や各民族によって言語も細かく異なりますゆえ、言葉をいくつかをかいつまんでしか……どうやら、『自分』、『腹』、『差し出す』、『竜』、『翼』、『捧げる』……そのような単語しか、明確には聞き取れませぬ」
「“人間”に対する敵意を伴った言葉の類はどうだ」
「聞き漏らしはありませんが、知らない言葉の中に含まれていなければ、おそらく発言していないでしょう。壁垣の上におられる王子妃様の反応を見ましても、どうやらこちらへの害意があるようには思えませぬ。先の事といい、彼奴らの標的は金切竜へと代わったものかと」
(結局オーク族に直接訊かなければどうしようもないが、それは今ここでというわけにもいかなさそうだな。もっとも、その前に両軍の間で火が点いてしまえばそれまでだが……)
ミディクラインは仮面の従者の態度から、伝えられた内容が偽らざるものであると目見当をつけ、それでも事態が確定していない状況を好ましく思わない己の習癖に、僅か焦れたようになりながらルクスへの“合図”を留保させられた。




