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不本意な栄誉…?

エルヴィス王国の戦争が終結し、俺が命がけで撮影した戦場の映像や取材内容が世界中で注目された。


避難民の声、連合軍の進軍、ネギシ将軍の最期――それらの映像は、戦争の現実とその背景を浮き彫りにした。


その功績が認められ、なんと俺が上層部から表彰されることになったらしい。いや、素直に喜べるものなのかどうか、俺にはまだ分からない。


「岩木、おめでとう!」


報道局の会議室に呼ばれた俺は、ミカサデスクや他のメンバーから拍手で迎えられた。


「え…何ですかこれ?」と戸惑う俺に、バキさんがニヤニヤしながら言った。「お前さん、今回の戦争報道で大きな賞をもらえるらしいぞ。上層部から直々に表彰されるんだってよ」


「え、俺が?」


「そうだよ。連合軍の進軍を記録した映像やネギシ将軍の最期の瞬間、避難民たちの声――あれだけの取材を命がけでやり遂げたんだから当然だろ」とバキさんがニカッと笑った。


「いやいや、俺、そんな大それたことしたつもりないんですけど…」


「でもな、報道の現場で命をかけるってのは、そう簡単にできることじゃねぇんだよ。お前さん、素直に誇れよ」とバキさんが軽く肩を叩いた。


ミカサデスクも微笑んで言った。

「その通りよ、岩木。報道局全体としても、あなたが受けた賞は誇らしいことだわ。表彰式には、ちゃんとスーツ着て出なさいよ」


「スーツなんて持ってないんですけど…」と俺はぼそりと呟いたが、その場の盛り上がりに流される形で、結局断ることもできなかった。


表彰式は翌週、王宮内にある大ホールで行われることになった。俺はミカサデスクから渡されたスーツを着込み、慣れないネクタイを締めるのに四苦八苦していた。


「お前、スーツ姿だと意外と真面目に見えるな」とバキさんがからかい半分で言ってきた。


「いつも真面目ですよ、俺」と言い返しつつも、ネクタイが苦しくてうまく息ができない。


「緊張してるの?」とサラが心配そうに聞いてきた。

「いや、緊張っていうより…なんか場違い感がすごいというか」と俺は正直に答えた。


「でも、あなたが頑張った結果をちゃんと評価してもらえるんだから、胸を張ればいいのよ」とモリヒナさんが優しく励ましてくれた。


その言葉に少しだけ救われた気がしたが、それでも自分がスポットライトを浴びることには抵抗があった。


王宮の大ホールは想像以上に豪華だった。天井には大きなシャンデリアが輝き、壁には豪華な装飾が施されている。そんな場所に足を踏み入れるだけで、俺の居心地の悪さは倍増した。


「なんで俺がこんな場所にいるんだろうな…」


そんなことを考えている間に、司会者の声が響いた。

「本日は、エルヴィス王国の戦争報道において多大な功績を残した報道記者、岩木レン氏を表彰いたします!」


ホール内に拍手が響き渡る。俺は顔をしかめながら壇上に上がった。


壇上にはカイバ三世の姿があった。国王自ら表彰状を手渡してくれるらしい。俺は緊張しながら一礼し、表彰状を受け取った。


「岩木レン殿、あなたの報道は、国際社会に戦争の真実を伝えると同時に、エルヴィス王国に平和を取り戻す一助となりました。その勇気と使命感に深く感謝いたします」


カイバ三世の言葉に、俺は思わず恐縮してしまった。


「いえ…俺はただ、カメラを回していただけで…」と答えようとしたが、拍手の音でかき消されてしまった。


式が終わった後、報道局のみんなが集まり、俺を祝福してくれた。


「おめでとう!岩木さん、かっこよかったよ!」とサラが笑顔で言う。

「いや、全然かっこよくなんかないよ。ただ緊張してただけだし」と俺は照れくさそうに答えた。


モリヒナさんが少し真面目な顔で言った。

「でも、本当にすごいと思うわ。あんな危険な状況で冷静に取材を続けて、ちゃんと結果を出したんだから」


「…冷静じゃなかったですよ。むしろ、ずっとビビってました」


バキさんが肩を叩きながら笑う。

「ビビりながらでもやり遂げたってことが重要なんだよ。そういうのが評価されるんだぜ。胸を張れよ、岩木」


ミカサデスクも微笑みながら言った。

「あなたが報道局に入った頃は、まさかこんな大きな仕事をやり遂げるなんて思わなかったわ。でも、ちゃんと成長したじゃない」


俺はみんなの言葉に少しだけ素直に喜べる気がしてきた。


その夜、帰宅した俺は、受け取った表彰状を机の上に置き、じっと見つめていた。


「これが…俺の成果か」


戦場での恐怖、避難民たちの悲しみ、兵士たちの覚悟――それらを思い出しながら、俺は心の中で静かに呟いた。


「もう二度と戦争なんて取材したくない。でも、もしまた同じようなことが起きたら…俺は、同じようにカメラを回すのかな」


表彰状の横に置いたカメラを見つめながら、俺は報道記者としての自分を改めて考えていた――。

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