命懸けの報道記者…!
エルヴィス王国でのクーデターを目撃し、その瞬間を記録した映像を抱えながら、俺は命からがら国境近くの村まで逃げ延びた。
しかし、ここから報道局へ映像を送るのは容易ではなかった。村に設置された魔法通信装置は、周辺に張り巡らされたアンチ魔法装置の影響で使用不能だったのだ。
「どうする…これじゃ局に映像を送れない」
俺は装置の前で頭を抱えたが、ここで止まるわけにはいかない。なんとかしてアンチ魔法装置の届かない場所を見つけなければならない。
村の酒場で地元の人々に話を聞き、アンチ魔法装置の影響が弱まりそうな場所を探りながら森を進んでいた。その時、不意に声が聞こえてきた。
「ネギシ将軍が全部仕組んでたんだよ。国王を失脚させるためにな」
「まさか…戦争や経済制裁までもが、将軍の計画だったなんてな」
俺は反射的に茂みに身を潜め、声のする方向を探った。そこには二人の兵士が焚き火を囲みながら話をしているのが見えた。
「ネギシ将軍が国王を追い落とすために、国際社会を挑発したって話だ。最初から戦争に持ち込んで、国を混乱させて…それから自分が英雄として立ち上がるシナリオだったんだよ」
「でも、こんなに国がボロボロになってまでやるかね?」
「関係ねえだろ。将軍にとっちゃ、国なんてどうでもいいんだ。自分が頂点に立てりゃな」
俺はその話を聞きながら、血の気が引くのを感じていた。まさかネギシ将軍がここまで周到な陰謀を巡らせていたなんて――。
この情報を伝えなければならない。だが、次の瞬間、茂みの中で足音が鳴り、二人の兵士がこちらを振り向いた。
「おい、誰だそこにいるのは!」
「待て、逃がすな!」
俺は全速力でその場を駆け出した。背後からは兵士たちの怒号が聞こえ、追っ手の足音がどんどん近づいてくる。
「くそっ、このままじゃ追いつかれる…!」
息を切らしながら森を抜けようとしたその時だった。視界の前方に見覚えのある鎧を着た人影が現れた。
「…岩木?お前こんなところで何してる?」
そこにいたのは、王国軍のシラユ隊長だった。以前、灰翼との戦いで俺を助けてくれたあの隊長だ。俺は一瞬呆然としたが、すぐに状況を説明した。
「隊長!後ろから兵士が追ってきます!ネギシ将軍の陰謀について話しているのを聞いて、それがバレて…!」
シラユ隊長は一瞬で状況を理解すると、後ろを振り返り、追ってきた兵士たちに冷たい視線を向けた。
「なるほどな。俺たちに任せろ」
隊長が率いる数名の兵士たちが森の中から現れ、瞬く間に追手を取り囲んだ。
「俺たちはエルダリア王国軍だ。この場でお前たちを拘束する」
「くっ…!」
追手の兵士たちはあっけなく制圧された。
「お前、無茶するなよ。まったく報道局の記者ってのは危なっかしい仕事だな」
助けてくれたシラユ隊長に軽く叱られながら、俺はクーデターの記録映像とネギシ将軍の陰謀について話した。
「その話が本当なら、とんでもないことになるな…よし、俺たちが護衛するから一緒に王国に戻るぞ」
俺たちは急いでエルダリア王国へ戻ることになった。帰還の道中、俺はこれまでに撮影した映像や音声データを確認し、編集しながら素材を整理した。
王国に戻ると、シラユ隊長の助けで王宮に通され、カイバ三世と主要な大臣たちの前でネギシ将軍の陰謀について報告することになった。俺は記録した映像を見せ、クーデターの瞬間と、森で兵士たちが話していた内容を証拠として提示した。
「…なるほどな。これは由々しき事態だ」
カイバ三世は映像を見終わると、深く息を吐いた。
「ネギシ将軍がそこまで計画的に動いていたとは。彼は国民を救う英雄どころか、国を混乱させた張本人だったわけだな」
その日の夜、「アルダNEWS」では、俺が持ち帰った映像を元に、ネギシ将軍の陰謀についての特集が放送された。
モリヒナさんが真剣な表情で語りかける。
「エルヴィス王国でクーデターを主導したネギシ将軍ですが、その背後に隠された陰謀が新たに明らかになりました。彼は戦争や経済制裁を利用し、国を混乱に陥れることで権力を握ろうとしていた可能性があります」
映像には、クーデターの瞬間や兵士たちの証言が収められていた。視聴者からは多くの反響が寄せられ、国際社会もエルヴィス王国の動きに再び注目することとなった。
放送後、報道局の反省会でミカサデスクが言った。
「岩木、本当にお疲れ様。命がけの取材だったわね。でも、この問題はまだ終わっていない。次はネギシ将軍がどう動くかを追わないと」
「え、まだやるんですか?もう俺は家で寝てたいんですけど…」
俺は苦笑しながらも、また危険な取材が待っていることを覚悟していた。
ネギシ将軍の真実が明らかになり、エルヴィス王国の未来は再び不透明なものとなった。