平和契約と賠償…?
会見から一週間が経ち、エルヴィス王国の使者団がエルダリア王国を訪れ、平和の契約と賠償について話し合う会合が王宮で行われた。
裁判の判決に基づき、エルダリア側は隣国に対して謝罪、賠償、再発防止策を求める姿勢を示していたが、交渉の行方は予想以上に険しいものとなった。
王宮の会議室は厳かな雰囲気に包まれていた。
エルダリア王国側は、国王カイバ三世をはじめとする主要閣僚、そして王国軍の指揮官たちが出席している。一方、エルヴィス王国からは使者団が派遣され、その中心に立つのは外交官のアルセスという冷徹な男だった。
俺たち報道局は、会場の片隅から交渉の様子を記録していた。カメラを構えるセキさんが小声で言う。
「これ、どう考えても波乱の予感しかしないな」
「隣国がまともに応じるとは思えませんね」とサラも低く答えた。
交渉の冒頭、まずはエルダリア王国側が要求を提示した。
1. 謝罪
カイバ三世が静かに口を開く。
「まず、今回の戦争行為により、我が国および周辺国に甚大な被害が生じたことに対し、エルヴィス王国として公式な謝罪を求めます」
これに対して、アルセスはわずかに眉を上げただけで冷淡に応じた。
「国王シラコ陛下は、すでに防衛大臣を罷免し、その責任を問うております。これ以上の謝罪を求める必要はないと考えます」
その言葉に、エルダリア側の閣僚たちの間に怒りの気配が漂う。
2. 賠償
続いて、賠償についての議題が取り上げられた。エルダリア側は、経済的損失や被害を受けた国民への補償として具体的な金額を提示した。
「我々の提示する賠償額は、裁判所が認定した損害に基づくものであり、決して過大ではありません」と王国の財務大臣が説明する。
しかし、アルセスはあざ笑うような口調で返答した。
「その金額は非現実的です。我々の国民もまた被害を受けており、むしろエルダリア王国側にも責任があると考えています」
「責任だと?」とエルダリアの国防大臣が声を荒げた。
「戦争を仕掛けたのは貴国ではないのか? その責任を我が国に押し付けるとは何事だ!」
3. 再発防止策
最後に、異形兵士の開発を禁止し、監視機関を設置するという提案が出された。
「この提案は、我々だけでなく、周辺国の安全保障にも繋がるものです」とカイバ三世が毅然とした態度で述べた。
しかし、アルセスは首を振った。
「貴国が我々の軍事開発に干渉する権利はない。我々は裁判の判決に従って施設を廃棄しましたが、それ以上の監視を受け入れることはできません」
交渉は終始、隣国側の高圧的な態度により膠着状態となった。エルダリア側が要求を突きつけるたびに、アルセスは防衛大臣に全責任を押し付け、シラコ国王の無罪を主張するばかりだった。
「これでは話にならない」とエルダリアの閣僚たちが苛立ちを募らせる中、カイバ三世が冷静な声で言った。
「アルセス殿。この場での結論が出ない以上、我々は裁判所を通じてさらなる措置を求めることを検討せざるを得ない」
アルセスはその言葉に顔色を変えたが、それでも態度を改めることはなかった。
交渉の結果、エルヴィス王国側が明確な謝罪や賠償額の合意を示すことはなく、会談は不調に終わった。エルダリア王国としては、再度国際的な場での対応を求める方針を示すことになった。
夜の放送では、この交渉の内容と結果を詳細に伝えた。
モリヒナさんが冷静な表情で語る。
「本日行われたエルダリア王国とエルヴィス王国の交渉は、不調に終わりました。隣国側が謝罪や賠償について具体的な回答を示さなかったため、今後は国際的な機関を通じた対応が検討される見通しです」
映像には交渉の様子や、市民の声が映し出され、視聴者からも様々な反響が寄せられた。
「隣国の態度には失望した」
「エルダリア王国の冷静な対応を支持する」
「国際社会がもっと介入すべきだ」
放送後、報道局ではミカサデスクが厳しい表情で言った。
「隣国の態度は予想以上に悪質ね。でも、こうした状況をしっかり伝えることが私たちの使命よ」
「まったく、隣国はどれだけ責任を回避したいんだか。正直うんざりだ」と俺はぼやいた。
「でも、これで終わりじゃないと思います。王国も国際社会も、このまま見過ごすはずがない」とサラが静かに言った。
こうして、隣国との交渉を巡る報道は一区切りを迎えたが、問題はまだ解決していない。エルヴィス王国の次の動き、そして国際社会の反応――それを追い続ける日々は続く。