もう一人のアナウンサー…?
今日はエルダリア王国の祝日、「星灯の祝祭」。精霊に感謝を捧げるこの特別な日は、街に魔法の光が灯り、夜には星祭りが行われる。局内も祝祭ムードに包まれ、スタッフはどこかいつもより浮き立っている。
いつもならアナウンサーを務めるのは明るく親しみやすいモリヒナさんだが、今日は彼女の先輩アナウンサーであるレイラさんが担当らしい。長い銀髪と冷静な表情が印象的で、知的でクールな雰囲気を漂わせている。先輩アナウンサーとして視聴者からの信頼も厚い彼女だが、普段局内でも近づきにくい印象があり、今日初めて直接顔を合わせることになった。
そんなことをぼんやり考えながら見ていると、ふと彼女と目が合った。そして、レイラさんがこちらに歩いてくる。
「あなたが、岩木レンさんですね?」
「ええ、まあ……そうです。今日はレイラさんが担当アナウンサーだったんですね」
「ああ、そうです。今日はモリヒナが休みなので、私が務めることになりました。岩木さんも星灯の取材を?」
「いえ、今日は特に予定はなくて、局内で待機しているだけです」
冷静な口調で尋ねる彼女に少し圧倒されつつ、なんとか答えた。レイラさんはわずかに微笑むと、そのまま軽く会釈して再びスタジオに戻っていった。彼女のクールで知的な雰囲気は、モリヒナさんとはまったく違うものを感じさせるが、同じアナウンサーとしての責任感があるのだろう。
その後、ギルド班のサラさんと合流し、来週控える「ギルドマスター選挙」についてギルドでインタビューをすることになった。現ギルドマスター・イブキが引退を表明し、次のマスターを選ぶ選挙が間近に迫っている。冒険者たちにとっては重大なイベントであり、局でも連日この話題が取り上げられている。
「岩木さん、ギルドマスター選挙の取材なんてワクワクしない?」
「俺は適当に撮影して仕事を終えたいだけだよ」
「もう、そういうこと言わないの! 大事なイベントなんだから、しっかりやってよ!」
サラさんはギルドに慣れていて、顔なじみの冒険者も多いらしい。俺たちは手分けして、冒険者やギルド関係者たちの意見を聞くことにした。彼らの言葉から、それぞれが考えるリーダー像が見えてきて、ギルドにとってギルドマスター選挙がどれほど重要かが伝わってくる。
ベテラン冒険者「イブキさんは本当に立派なマスターだったよ。新しいマスターも、彼のように俺たちを率いてくれる人がいい」
若手冒険者「正直なところ、新しい風が欲しい。若手の意見も聞いてくれる人がマスターになれば、もっとギルドが盛り上がると思うんだ」
中堅冒険者「命がけの任務も多いから、迷わず決断できる人じゃなきゃ務まらない。候補者たちの決断力を見極めたいね」
ギルド職員「ギルドマスターは冒険者だけでなく、他のギルドや王国との調整役でもある。広い視野で物事を見られる人が適任だと思う」
それぞれの立場や思いが交錯する意見を集めることができた。これでいい絵が撮れたはずだ、と俺は納得しつつ、サラさんとともに局へ戻った。
夜のニュースでは、俺が撮影したインタビュー映像がそのまま採用され、ギルドマスター選挙についての特集が放送された。インタビュー内容が多くの視聴者の関心を集め、注目の特集として無事に放送が終わった。
放送後、ふと誰かが近づいてくる気配がした。振り返ると、そこにはレイラさんが立っていた。
「ギルド選挙の特集、良かったですね。冒険者の皆さんの本音がよく伝わってきました」
冷静で落ち着いた声に、俺は思わず嬉しくなってしまった。
「あ、ありがとうございます。俺なりに頑張ったので……」
「ふふ、あなたの仕事ぶりが視聴者にも伝わったと思いますよ」レイラさんは微かに微笑んで、そのまま去っていった。彼女の冷静で知的な表情の中にも、わずかに優しさを感じられた気がする。
「……悪くないかもな」
彼女に褒められたことで、真面目に取り組んでよかったと少しだけ思う俺だった。