万国裁判所…?
隣国エルヴィス王国との戦争は、彼らの虚偽が暴かれたことで一旦終息した。しかし、実質的な制裁は行われておらず、エルダリア王国内外からエルヴィス王国を裁くべきだという声が上がっていた。
そんな中、この世界に存在する中立的な裁判機関「万界裁判所」がエルダリア王国に到着。王国とEVTは、裁判所から証拠の提供と取材班による証言を求められることとなった。
「岩木、サラ、バキ。あんたたちに話があるわ」
朝、報道局に来たミカサデスクの声で呼び出された俺たちは、デスクの前に集まった。
「万界裁判所から協力要請が来たわ。これまでにEVTが撮影した映像や、あんたたちが現地で見聞きしたことを証言として提供してほしいそうよ。裁判の場で重要な役割を果たすことになるわ」
「裁判所…堅苦しそうだな」と俺がぼやくと、バキが笑いながら肩を叩いた。
「安心しろ。証言するだけなら簡単だ。下手に喋ると怒られるかもしれないがな」
「で、具体的には何を話せばいいんですか?」とサラが真剣な顔で尋ねる。
「隣国の村で見つけた地下施設や、異形兵士の映像についてよ。それに、現地取材でどんな状況に置かれていたのかも重要みたい。岩木、あなたが撮った映像が大きな鍵になるわ」とミカサデスクが俺を見た。
「また俺かよ…。でも、俺たちが真実を記録したのは事実だしな」と苦笑いしながら返すと、サラも頷いた。
「そうですね。この戦争の真実を伝えるのが私たちの仕事ですから」
裁判所の職員が報道局を訪れ、これまでの取材で得た映像や資料の確認が行われた。
「こちらがエルヴィス王国の村で発見された地下施設の映像です」とナベが編集した映像を再生する。画面には、隠された兵器開発施設や、捏造映像の撮影セットが映し出される。
「これほどの証拠があるとは…。非常に重要な映像ですね」と職員が頷く。
次に、異形兵士の姿を捉えた映像が流された。これには裁判所の職員たちも息を呑むような表情を浮かべた。
「この兵士たちが、戦争の火種になった最大の要因ですね。この映像は裁判の鍵になります」
「…あの時は、本当に命がけだったな」と俺は映像を見ながら呟いた。
映像の提供が済むと、次は俺たち自身の証言の準備に入った。裁判所の職員が証言内容について詳しくヒアリングを行い、どのように話すべきかを確認する。
「岩木さん、エルヴィス王国の村での取材の経緯を教えてください」
「取材中に地下施設を発見しました。そこが兵器開発の拠点だったと分かった瞬間、ただの取材が一変してしまいました」
「現地での危険な状況についても触れてください。追跡されて逃げた際の話は特に重要です」
「追手を振り切るために必死でした。映像を守ることだけを考えていて…あれがなければ真実を証明するのは難しかったと思います」
バキは王国軍と協力していた際の状況や、異形兵士との戦闘について語った。
「王国兵士の勇気は本物だった。ただ、あの異形兵士たちに対抗するのは想像以上に厳しい状況だったな」
サラも捏造映像のセットを見つけたときの印象や、村の住民たちの様子について話をした。
「彼らはエルヴィス王国の政府に怯えていて、本当のことを話すのも怖がっているように見えました」
裁判当日、俺たちは王宮の大広間に集まった。万界裁判所の裁判官、エルヴィス王国の代表者、エルダリア王国の要人たちが並ぶ中、裁判が始まった。
「これより、エルヴィス王国による戦争行為と捏造に関する裁判を開廷します」と裁判長が宣言する。
まずは映像や資料の提示が行われた。俺たちが提供した映像がスクリーンに映し出されるたび、会場内は静まり返った。
次に、俺たちの証言が行われた。証言台に立つと、全員の視線が一斉に俺に向けられる。
「この映像は、私たちが命がけで記録したものです。これが戦争の真実を示しています」と俺は最後に言葉を締めくくった。
裁判は数日にわたり続く予定だったが、俺たちの証拠と証言が審理において大きな影響を与えることは間違いなかった。
裁判後、ミカサデスクが俺たちを見て微笑んだ。
「よくやったわ。これが私たち報道局の使命よ」
「これでエルヴィス王国が裁かれるといいですね」とサラが呟く。
「まだ分からないさ。でも、俺たちの仕事は終わった」と俺は肩をすくめた。