忘年会…?
王国と隣国の戦争、そして報道戦争が終結し、EVTの報道局は束の間の平和を取り戻していた。
一年の激動を締めくくるため、報道局全員で忘年会を開くことが決まった。
会場はカレンのお店。
普段の仕事の張り詰めた空気から解放される夜、俺たちは美味しい料理と酒を楽しみながら、一年を振り返ることになった。
カレンのお店は、暖かい灯りに包まれ、いつも以上に賑やかだった。年末らしく、入口には色とりどりの花や装飾が施され、どこか祭りのような雰囲気を醸し出している。
「岩木さん、こっちこっち!」
カレンがエプロン姿で手を振っている。カレンは報道局の常連客である俺たちのために特別に店内を飾り付けてくれたらしい。
店内には長テーブルが用意され、その上には豪華な料理が並んでいた。大皿には焼きたてのチキンやローストビーフが盛られ、香ばしい匂いが鼻をくすぐる。異世界ならではの料理もあり、魚を丸ごと香草で包んで焼いた「エルダリア風ハーブ焼き」や、魔法の炎で調理された「光るスープ」などが並んでいる。
飲み物も充実していた。フルーツの甘みが際立つエルダリア特製ワイン、スパイスが効いたホットエール、さらにはノンアルコールの「月の雫」という透明なジュースも用意されている。
席順は自然に決まった。長テーブルの中央にはミカサデスクが座り、その隣にはサラとモリヒナさんが並ぶ。その向かい側にはバキさんとセキさんが腰を下ろしていた。あとその奥にはマキさんとレイラさん、そして、サワさんも。
俺はモリヒナさんの隣の席に案内され、少し緊張しながら座った。
「さあ、全員揃ったわね」とミカサデスクが静かに立ち上がる。彼女の手にはホットエールの入ったマグカップが握られている。
「今年一年、みんな本当にお疲れ様でした。報道戦争、国境取材、そして戦争の終結…。どれも簡単な仕事ではなかったけれど、こうして全員無事でここにいることを嬉しく思います。それでは、乾杯!」
「乾杯!」
全員が声を揃え、グラスやマグカップを掲げる。
食事が進むにつれ、場は次第に和やかになっていった。それぞれが今年一年の思い出を語り始める。
「やっぱり、あのギルドマスター選挙が印象深かったですね」とサラが笑顔で言う。
「選挙期間中、私はほとんどギルドに住み込んでた気がしますよ。でも、岩木さんが撮ったインタビュー映像、あれすごく良かったですよね」
「いやいや、俺はただカメラ回してただけだって」と照れ笑いを浮かべる。
「岩木さんが謙遜するなんて珍しいな」とモリヒナさんが軽く笑った。
「でも、私もあの時は本当に助かったわ。特番の進行を任されたとき、緊張でどうしようかと思ってたけど、みんなの取材がしっかりしてたおかげで乗り切れたもの」
「モリヒナさんが特番やるって聞いたとき、正直心配だったけどな」とバキさんが冗談交じりに言う。
「でも結果的には最高の放送だった。視聴率も良かったしな」
「視聴率の話をするのはやめましょうよ」とセキさんが苦笑いする。
「それよりも、僕にとって一番印象深かったのは、やっぱりあの戦争ですね。カメラを回しながら命がけで撮影したあの映像…今でも夢に出てきます」
「確かにな」と俺は頷く。
「あの現場にいたときは正直、何で俺こんなことやってるんだって思ったけど、あの映像が真実を伝えるきっかけになったと思うと、やっぱりやって良かったと思う」
食事が進むにつれ、場はさらに賑やかになっていった。
「このチキン、最高だな!」とバキさんが大皿からチキンを取り分けながら言う。
「カレン、このレシピ教えてくれよ」
「ダメよ! これ、うちの看板メニューなんだから」とカレンが笑いながら返す。
サラがスパイスが効いたホットエールを飲みながら、モリヒナさんに小声で言った。
「モリヒナさん、岩木さんと隣に座ってて、今日はずっと楽しそうですね」
「そ、そんなことないわよ。ただ、こうやってみんなで集まるのが久しぶりだから楽しいだけよ」とモリヒナさんが頬を赤らめながら返す。
一方、ミカサデスクは静かにノンアルコールのジュースを飲みながら、テーブルの端で楽しそうに話すスタッフたちを見守っていた。
「みんな、いい顔してるわね」と呟く彼女の目には、どこか安堵の色が見えた。
宴もたけなわ、忘年会の締めの挨拶がミカサデスクから告げられた。
「今年一年、みんな本当にお疲れ様でした。この一年で、私たちは多くの困難を乗り越えてきたけれど、それぞれが自分の役割を果たしたおかげで、こうして無事に年を越せることができました。来年も引き続き、真実を伝える報道を目指していきましょう。乾杯!」
全員が立ち上がり、もう一度乾杯を交わした。
忘年会が終わり、夜の冷たい風が頬を撫でる中、俺たちはそれぞれの家路についた。
「今年も色々あったけど、やっぱり報道って面白いな」
俺は夜空を見上げながら小さく呟いた。
新しい一年が、どんな物語を運んでくるのか――それを期待しながら、俺は家路を急いだ。