報道が戦争に…?
報道戦争が激化する中、隣国の挑発的な報道がさらにエスカレートした。朝のEVTでは、隣国の国営テレビ「エルヴィス国家放送局(EKH)」が流した緊急報道が注目を集めていた。
「これがエルダリア軍の攻撃によって破壊された村の映像です」
隣国のキャスターが淡々と説明しながら、画面には焦げた家屋と逃げ惑う人々が映し出される。
「我々の独自調査によれば、エルダリアは国境付近で軍事侵攻の準備を進めており、ついに攻撃が開始された模様です。このような非人道的行為を見過ごすことはできません」
さらにキャスターはこう続けた。
「この報道が事実であることを証明するため、隣国政府は調査を継続すると同時に、国民を守るための措置を取るとしています」
報道局内では、この報道を受けてフロア全体が騒然となっていた。
「これ、完全にでっち上げだろうが!」とバキさんが怒りをあらわにする。
「でも、この映像、かなりリアルに作り込まれてるわね。普通の人が見たら信じてしまうかも」とサラが不安そうに呟く。
ミカサデスクは冷静な表情で、手元の資料を整理しながら言った。
「隣国がここまで攻撃的な報道を続けるのは、自分たちに何か隠したいものがあるからよ。それにしても、これはまずいわね。国境付近の緊張がさらに高まるわ」
「デスク、現地に取材班を送りますか?」と俺が尋ねると、彼女は少し考え込んだ後に頷いた。
「ええ、国境に派遣するわ。岩木、バキ、それにセキ。準備して」
隣国の過激な報道によって、国境付近の緊張はついに限界を超えた。EVTは国境の実態を取材すべく、俺とバキさん、そしてカメラマンのセキさんを現地に派遣した。
「隣国の言い分が本当かどうか、この目で確かめないとな」とバキさんが言う。
「ただの取材で終わればいいですけど」と俺は苦笑いしながらも、どこか胸騒ぎを感じていた。
到着した国境付近は、普段の平和な雰囲気とは一変していた。王国軍の兵士たちがバリケードを築き、武器を手に緊張した表情で見張りについている。
「これは…普通じゃないですね」とセキさんがカメラを回しながら呟く。
「隣国が越境してくるっていう噂が流れた途端、この有様だよ。まあ、それだけ隣国の動きが異常ってことだな」とバキさんが険しい顔で辺りを見回した。
俺たちは王国軍の指揮官、シラユ隊長に話を聞くことにした。彼は目の下にクマができるほど疲れ切った様子だ。
「隊長、隣国の動きについて詳しく教えてください」と俺が尋ねると、彼は少し間を置いて答えた。
「隣国軍がこの数日、国境に近い場所で訓練を行っている。さらに、我々の監視によると、彼らは重装備を持ち込んでいるようだ」
「訓練と言いますが、それって侵攻の準備じゃないんですか?」とバキさんが詰め寄る。
「その可能性は否定できない。だが、彼らがまだ国境を越えてこない限り、こちらから手を出すことはできないのが現状だ」
兵士たちも緊張感の中でピリピリしている。俺たちはその様子をカメラに収めつつ、隣国側を警戒する。
取材を続けている最中、静寂を切り裂くように爆音が響いた。
「何だ!?」と咄嗟に身を低くすると、遠くに白煙が上がっているのが見える。隣国側のバリケード付近で何かが爆発したのだ。
「敵襲だ! 全員配置につけ!」という兵士の叫び声が響き渡る。
シラユ隊長が駆け寄ってきて叫んだ。
「岩木、バキ、セキ! ここは危険だ、すぐに退避しろ!」
「いや、これを撮らないわけにはいかない!」とセキさんがカメラを構える。
「お前、命を落とすぞ!」とバキさんが怒鳴るが、俺もセキさんに同意していた。
「この瞬間を記録しないと、隣国の真実を伝えられないだろ!」
隣国側からさらに砲撃が続き、王国軍も応戦を始めた。銃声や爆発音が次々と響き渡る中、俺たちは安全な場所を探しながらカメラを回し続けた。
兵士たちは冷静に指揮を取りながら応戦していたが、次第に被害が広がっていくのが分かる。バリケードの一部が破壊され、負傷した兵士が運ばれていく様子も見られた。
「これ、ただの挑発じゃ済まないな…」とバキさんが呟く。
取材を終えた俺たちは、シラユ隊長の指示で国境付近を離れ、最寄りの村へ向かうことになった。
「これ以上ここにいるのは危険すぎる。映像を安全に届けるのが優先だ」と彼が厳しい声で言う。
村に到着すると、すぐに魔法使いが迎えてくれた。
「ここで撮影した映像を局に送る準備をします」とセキさんが言うと、魔法使いが頷きながら呪文を唱え始める。
「頼むから、これが無事に届いてくれよ…」と俺は小さく呟いた。
その夜、局では「アルダNEWS」の緊急特番が放送された。
モリヒナさんが真剣な表情でカメラを見つめる。
「本日、国境付近で隣国軍による攻撃が確認されました。現場からの映像をご覧ください」
画面には、爆発や銃撃の瞬間、王国軍の応戦、そして負傷する兵士たちの姿が映し出される。
「今回の攻撃について、隣国側は『防衛行動の一環』と主張していますが、我々の取材では明らかに一方的な挑発行為であることが分かります」と彼女が説明する。
さらに、取材した兵士たちの声も放送される。
「私たちはただ国を守ろうとしているだけです。隣国が攻撃を止めてくれることを願っています」
放送が終わると、局内ではスタッフたちが言葉少なに編集作業を続けていた。
「これで隣国が引き下がるとは思えないな」とバキさんが険しい表情で言う。
「でも、これが真実なんです。私たちが伝えないと、誰も知らないままになる」と俺は答えた。
報道が戦争の火種を煽るのか、それとも真実を伝える手段となるのか――その答えを見つけるには、まだ時間がかかりそうだ。