偽の証拠…!
隣国の挑発的な報道に対して、EVTと王国は事実をもとに冷静に反論した。
しかし、これで隣国が黙るわけではない。翌日、隣国は新たな報道を通じて、さらに激しい非難を繰り広げてきた。
朝、報道局のフロアがざわめいていた。ミカサデスクが厳しい表情でモニターに映る隣国の報道を見つめている。
「また新しい攻撃だわ。しかも、今回は…」
画面に映る隣国のキャスターは、自信たっぷりな表情で語っていた。
「我々は、エルダリア側の報道がいかに誤解を招くものであるかを示す新たな証拠を入手しました。この映像をご覧ください」
流れたのは、異形の兵士たちの痕跡として王国が提出した魔法具の映像だ。しかし、隣国はそれを「エルダリア国内の工房で作られたものである」と断定し、その根拠として、工房の職人の証言を流していた。
「この魔法具は、私たちが手作りしたもので、装飾用として販売したものです。これが兵士に使われているなんて、とんでもない話です」と、工房の職人が語る。
さらに、隣国のキャスターはこう締めくくった。
「エルダリア側が提示する証拠はすべて、自らの主張を補強するための偽装である可能性が高い。我々はこの件についてさらなる調査を進めていく」
「嘘ばっかりだ!」とバキさんが机を叩きながら怒りを爆発させる。
「落ち着いて、バキ」とミカサデスクが冷静に言ったが、その表情も明らかに険しい。
「これはただの嘘じゃない。隣国はわざとこちらの証拠を捻じ曲げて、自分たちを正当化しようとしている。かなり計画的だわ」
「でも、工房の職人まで巻き込んでくるなんて、どういうことですかね?」とサラが首をかしげる。
「可能性としては、職人が買収されているか、そもそも隣国が仕立てた偽物の証言かのどちらかだろうな」とバキさんが推測する。
「どちらにせよ、次はこの報道の矛盾を突かなきゃいけないな」と俺が口を挟むと、デスクが頷いた。
「そうね。もう一度、我々が提示した証拠を徹底的に精査して、隣国の主張を崩す準備をしましょう。それと、今回の件で直接現場に足を運ぶ必要があるかもしれないわ」
「現場?」
「そうよ。隣国が言う『工房』に関する情報をもっと掘り下げて調べるのよ」
「捏造だという隣国の主張を完全に否定するには、我々自身が現場で確かな証拠を掴むしかない。岩木、セキ、そしてバキ。君たちで隣国が主張している『工房』に関する取材を進めて」
「えっ、俺も行くんですか?」と戸惑いながらも、やるしかないと腹をくくる。
「まずは、その工房が本当に存在するのか確認しなきゃならないな」とバキさんが言う。
俺たちは王国軍が提供してくれた情報をもとに、エルダリア国内のいくつかの工房を訪れることにした。隣国が挙げた工房は、エルダリア南部の工業地帯に位置するという話だった。
現地に到着すると、最初に訪れたのは、魔法具の部品を扱う小規模な工房だった。入口には、職人らしき中年の男が作業をしている。
「すみません、エルドラ・ヴィジョン・テレビの者ですが…」と俺が声をかけると、男は作業を止めて振り向いた。
「何の用だい? 報道関係者が来るなんて珍しいね」
「実は、隣国がこちらの工房の製品が問題の魔法具と同じだと主張しているんですが…」
その話を聞いた途端、男の顔が険しくなった。
「うちの製品が? 冗談じゃないよ。そんな戦闘用の魔法具なんて作ったこともないし、そもそもあんな精巧な加工はうちの設備じゃ無理だ」
彼はさらに言葉を続ける。
「もしそれが本当なら、どこかもっと大きな工房か、国の施設でも使ったんじゃないのか?」
次に訪れたのは、さらに規模の大きい工房だった。ここはエルダリアでも有名な工房で、装飾品や実用的な魔法具を幅広く製造している。
受付で取材の許可を得た後、職人たちが作業する工場内に案内された。現場には様々な魔法具が並んでおり、どれも洗練されたデザインだ。
「こんなにきれいな製品が並んでいるけど、あの魔法具に似たものは見当たりませんね」とセキさんが呟く。
俺たちが話を聞いたのは、若い工房長だった。
「隣国がそんなことを言ってるんですか? 確かにうちの工房は戦闘用魔法具も一部扱っていますが、あの映像に出てきたものは、見たことがありません」
「それじゃ、あの魔法具を作れる可能性がある場所はどこだと思いますか?」と俺が聞くと、工房長はしばらく考え込んだ後、口を開いた。
「正直に言うと、あれだけ特殊な構造を持つ魔法具を作れるのは、隣国の技術が関係している可能性もあると思いますよ。向こうの技術力は我々より一歩先を行っている部分もありますから」
「つまり、隣国の自作自演ということですか?」とバキさんが確認する。
「断定はできませんが、可能性は否定できないでしょうね」
取材を続ける中で、俺たちは奇妙な視線を感じ始めた。工房を出るたびに、どこからともなく視線を感じ、見知らぬ人影が遠くからこちらを監視しているような気がする。
「岩木さん、あの男…さっきからずっとこっちを見てません?」とセキさんが囁く。
「気のせいじゃないだろうな。隣国側のスパイが俺たちの動きを監視しているのかもしれない」とバキさんが警戒を強める。
「まあ、取材が順調だと分かれば、相手が焦ってこういうことをしてくるのも納得できますけどね…」と俺は苦笑いしながら、気を引き締めた。
取材を終えた俺たちは、工房の情報と新たな証言を持ち帰り、王宮での打ち合わせに臨んだ。
「隣国の主張する工房の話は完全に嘘だと判明しました。ただし、隣国が自作自演を行っている可能性を示す証拠をもっと強化する必要があります」とミカサデスクが説明する。
「分かった。我々も引き続き調査を進めるが、今回の取材内容は非常に重要だ。すぐに放送で取り上げるべきだろう」とカイバ三世が同意する。
夜7時、「アルダNEWS」で、今回の取材内容が放送された。
モリヒナさんが冷静に語りかける。
「本日は、隣国が主張した『工房』に関する調査の結果をお伝えします。この工房が王国内に存在するという話は、全くの事実無根であることが判明しました」
画面には、取材した工房での証言や現場の映像が映し出される。さらに、隣国の自作自演の可能性を示唆する証拠も紹介された。
「今回の報道で、隣国の主張がいかに根拠に欠けるものであるかが明らかになりました。視聴者の皆様には、冷静に事実を見極めていただきたいと思います」と、モリヒナさんが締めくくる。
放送後、報道局内には少しだけ安堵感が広がった。しかし、隣国が次にどのような手を打ってくるのかは予測がつかない。
「これで終わりとは思えないな」とバキさんが呟く。
「でも、確実に相手の嘘を突き崩したのは大きいですよ」と俺は答えた。
報道戦争は、ますます激化していく――。