レイラとともに…?
今日は珍しく、レイラさんと一緒に取材をすることになった。
「岩木くん、今日は頼むわね。カメラマンが回れないから、あなたがカメラを担当してくれるって聞いたけど…できるのよね?」 出発前、報道局のフロアでレイラさんから声をかけられる。その表情は、いつものように凛として冷静だ。
「もちろんです。カメラ操作くらいお手の物ですよ!」と答えたものの、内心ではかなり不安だった。俺が取材に同行する時は、もっぱら記者としての仕事がメインで、カメラを任されることなんて滅多にない。
「まあ、レイラさんがしっかりしてるから、俺が少しくらいサボっても大丈夫だろ」と軽く考えつつ、馬車に乗り込んだ。
今回の取材テーマは「王国内の貧富の格差」。取材先は王都の外れに位置する貧民街だ。路地には古びた家々が立ち並び、ところどころに子どもたちの姿が見える。
「ここが現場か…ずいぶん寂れた場所ですね」と俺がカメラを準備しながら呟くと、レイラさんが軽く頷いた。
「そうね。でも、ここにも人々の暮らしがあるわ。だからこそ、私たちが伝えるべきことがあるの」
その真剣な口調に、俺は少しだけ背筋が伸びる思いがした。
「じゃあ、まずは路地を歩きながら状況を撮っていきましょうか」とレイラさんが指示を出す。
「了解です!」と答えながらも、心の中では「早く終わらせて帰りたいな…」と思っていた。
カメラを回しながらレイラさんについて歩いていると、彼女が一軒の家の前で足を止めた。
「こんにちは。少しお話を伺ってもいいですか?」
家から出てきたのは、中年の女性だった。彼女は少し戸惑った様子を見せながらも、レイラさんの丁寧な説明に安心したのか、話をしてくれることになった。
「最近、王都の物価が上がってしまって…。生活が本当に苦しいんです。子どもたちに十分な食べ物を与えることもできなくて…」
その言葉に、レイラさんが深く頷きながら話を聞いている。その間、俺はカメラを向け、女性の表情や背景に映る貧しい暮らしぶりを記録していた。
「岩木くん、そこの子どもたちを撮っておいて」とレイラさんに指示され、俺は遊んでいる子どもたちの姿をカメラに収める。
彼らの服はボロボロで、笑い声もどこか儚い。そんな様子を撮影しながら、俺は少しだけ胸が痛くなった。
「これは…真面目に取材しないとマズい案件かもな」と思い始めた頃、レイラさんが女性に礼を言って話を締めくくった。
次に向かったのは、貧民街で唯一の集会所だ。ここでは住民たちが集まり、貧しいながらも支え合いながら生活しているという。
「こんにちは、エルドラヴィジョンテレビです。少しお話を伺ってもよろしいでしょうか?」とレイラさんが挨拶すると、住民たちは最初は警戒していたものの、徐々に話をしてくれるようになった。
「最近は、王都の中央部ばかりが整備されて、私たちみたいな場所には全然手が回らないんです」
「それでも、ここに住んでいる人たち同士で助け合うのが大事なんです」
住民たちの言葉を聞きながら、俺はカメラの向きを何度も調整していた。普段なら適当に撮って済ませるところだが、今回は妙に力が入ってしまう。
「レイラさんの取材って、なんか本気にさせられるんだよな」と内心で呟きながら、俺は住民たちの表情や集会所の様子を丁寧に記録した。
夕方になり、取材を終えて報道局へ戻る馬車の中。
「岩木くん、今日のカメラワーク、すごく良かったわ。住民たちの表情や背景まで丁寧に撮れていて、番組の編集がしやすそうね」
レイラさんの思いがけない言葉に、俺は少し動揺した。
「えっ、そんな…適当にやってただけですよ」
「そんなことないわ。あなた、普段はサボりがちって噂だけど、やればできる人なのね」
「ええ、まあ…そういうことにしておきます」と曖昧に返しながらも、内心では妙に嬉しかった。
報道局に戻った後、俺は取材した映像を編集スタッフに渡して一息ついた。
「今日の仕事、意外と悪くなかったかもな」と呟きながら、デスクに座る。
レイラさんの一言で、ほんの少しだけやる気が出た自分に驚きつつも、やはり基本的にはサボりたい気持ちを捨てられない岩木であった。