観光客の誘拐事件…?!
ある日の午後、俺はサラさんと街の広場で観光客の様子を撮影していた。観光客急増が続く中で、街がどう変わっていくのかを特集にする予定だった。
のどかな風景と賑やかな人々――何の問題もなさそうに見えたその時、突然の叫び声が響き渡った。
「助けて!誰か、助けてぇ!」
その声は、広場の隅にいた若い女性からだった。
カメラを構えたまま、俺は叫び声のする方向に目を向けた。観光客らしい女性が男たちに囲まれ、無理やり袋をかぶせられて連れ去られようとしている。
「サラさん!あれ…!」
俺が声を上げると、サラさんもすぐに気づいた。
「岩木くん、カメラを回して!私は王国軍に連絡する!」
慌ててカメラを向けたその瞬間、男たちの一人が俺の存在に気づき、険しい表情でこちらを睨んだ。
「おい、あいつ、撮ってるぞ!」
「カメラを奪え!」
俺は背筋が凍る思いだったが、咄嗟に広場の群衆に紛れながら撮影を続けた。
「岩木くん、危ないから下がって!」とサラさんが叫ぶが、俺はカメラを止めるわけにはいかなかった。
男たちは周囲の目を避けるようにして、女性を無理やり馬車に押し込み、そのまま街の外へと消えていった。
事件の一部始終を撮影した俺たちは、すぐに王国軍に映像を渡し、状況を説明した。対応に当たったのは、治安担当のシラユ隊長だった。
「素早い対応だ。映像は捜査の手がかりになるだろう。ただ、これは単なる偶発的な事件ではないかもしれない」
「どういうことですか?」と俺が尋ねると、シラユ隊長は険しい表情を浮かべた。
「最近、観光客を狙った誘拐事件が相次いでいるという噂がある。今回の件で、その背後に組織的な動きがある可能性が高まった」
「そんな…」
「お前たちも気をつけろ。記者が巻き込まれるような事態になれば、手遅れになる」
シラユ隊長の忠告を受け、俺たちは事件の真相を追うべく、さらなる取材を進めることにした。
俺たちは広場に戻り、事件の現場を見ていた人々に話を聞き始めた。
「犯人たちはどんな様子でしたか?」とサラさんが尋ねると、目撃者の一人が答えた。
「黒いフードを被った男たちでした。最初からあの女性を狙ってたように見えましたよ」
「どこかで見たことはありますか?」と俺も聞いてみたが、彼は首を横に振った。
「いや、全く。観光客なのか、それとも他の街から来たのか…」
取材を進める中で、男たちが馬車に乗り込む直前、何かを路上に落としていったという証言が得られた。
「ここだ!」
俺はその場所を探し、路上に落ちていた奇妙な布切れを見つけた。それには、どこか見覚えのある模様が描かれている。
「これ、どこかで見たことがあるような…」
「岩木くん、それ、王国軍の紋章の一部じゃない?」とサラさんが驚いた声を上げた。
「え?でも、なんで王国軍の紋章が…?」
状況はさらに謎を深めるばかりだった。
俺たちは再び王国軍を訪れ、シラユ隊長に布切れを見せた。
「これは…確かに王国軍の紋章だ。ただし、これは現役のものではない。10年以上前に使われていた古いデザインだ」
「つまり、今回の事件に王国軍が関与している可能性があるんですか?」と俺が尋ねると、シラユ隊長は首を振った。
「いや、それは考えにくい。ただ、この紋章を持つ者たちが今回の事件の背後にいるとすれば…これは非常に厄介だ」
シラユ隊長の表情には、何かを隠しているような影があった。
夜の「アルダNEWS」では、今回の事件の概要を放送。俺が撮影した映像を交え、観光客の安全が脅かされている現状を伝えた。
「今回の事件は、観光客増加に伴う新たな課題を浮き彫りにしました」と、モリヒナさんが冷静に進行する。
「私たち記者も、これ以上の調査を続ける必要があります。街の安全を守るために、さらなる真相を追っていきたいと思います」と、サラさんが締めくくった。
取材を終えた後、俺は路上で見つけた布切れをじっと見つめていた。この布の持ち主は誰なのか、そして何の目的で誘拐を行ったのか――その答えはまだ遠い先にあるようだった。
だが、この事件が単なる偶発的なものではないことだけは、確信を持てた。
「明日はさらに忙しくなりそうだな…」と俺は呟きながら、取材ノートを閉じた。