一日中テレビ局でのんびり…!
異世界に転生して初めての取材を無事に終えた翌日、俺――岩木レンは、再びエルドラ・ヴィジョン・テレビ局に戻ってきた。今日は特に取材がなく、何をするでもなく局内をぶらついている。
エルドラ・ヴィジョン・テレビは、異世界にしては驚くほど現代的なテレビ局だ。ビルの4階が報道局になっていて、昨日俺が体験したドラゴン族との和平交渉のニュースもここから発信された。転生してすぐに取材に飛び出したため、局内のことはまだよくわかっていない。今日はせっかくだから、局内を見て回ることにした。
エレベーターに乗り、4階の報道フロアへ向かう。エレベーターのドアが開くと、忙しそうに動き回るスタッフたちが目に飛び込んできた。天井には照明が明るく灯り、各デスクには山積みの資料や端末が並んでいる。少し古めかしいが、どこか懐かしさも感じるテレビ局の雰囲気だ。
「おっ、岩木。今日は取材ないのか?」
デスクに座って書類をチェックしているのは、報道デスクのミカサさんだ。彼女はカッパのような姿をした獣人で、薄い緑色の肌に大きな目が特徴的だ。カッパっぽいが、仕事の厳しさでは局内で一目置かれている存在だ。彼女は俺を見上げながら、軽く挨拶をしてきた。
「今日は特にないです。ちょっと局内を見て回ろうかと思って」
「そうか。でも、いつでも取材が入るかもしれないから、油断しないでね。ここの報道局は、忙しいときは本当に地獄だから」そう言って、ミカサさんはまた手元の書類に目を戻した。どうやら彼女は今日も忙しいようだ。デスク業務として、他の記者たちの取材スケジュールを管理したり、原稿のチェックをしている。彼女の厳しい目を通して、ニュースのクオリティが保たれているらしい。
その隣の編集ブースでは、編集マンのナベさんが機材に向かってせわしなく作業をしている。ナベさんは猿のような姿をした獣人で、機敏な動きが印象的だ。昨日撮影した映像も、彼の手によって見事な編集が施され、番組として放送された。
「おっす、レン。今日もぼんやりしてるのか?」ナベさんが作業の合間にこちらを見て、軽く手を挙げる。彼は冗談混じりに俺に声をかけたが、その手元は休むことなく映像編集を続けている。
「まあな。今日は特にやることなくてさ」
「そりゃいいな。こっちはいつもこんな感じだぜ。だが、ミスしたらミカサさんに絞られるからな、油断できん」ナベさんは苦笑しながら手元の画面に集中し、素早く編集を進めている。彼のような編集マンがいるおかげで、俺たちの取材映像がしっかりと番組として形になる。昨日の取材の映像が鮮明に伝わったのも、彼の腕前があったからだろう。
少し歩き回ると、他の記者たちの姿も目に入った。まずは王国班のバキさん。彼はライオンのような獣人で、局内でも一際目立つ存在だ。その堂々とした体格と鋭い目つきからも、相当のベテランであることがうかがえる。バキさんはいつも王国の政治や王家に関わる取材を担当していて、重要なネタをどんどん掘り出す。
「岩木、今日は何もないのか? やることないなら、手伝いでもしていけ」バキさんは一見厳しそうに見えるが、その声にはどこか親しみが感じられる。
「い、いや、俺には荷が重すぎるんで……」
「まあ、無理するな。お前もそのうち慣れるさ。仕事は逃げないからな」そう言って、バキさんは笑いながら、自分のデスクに戻っていった。デスクには山のような書類が積まれていて、何やら忙しく書き込んでいる。王国に関わる取材はいつも重大な情報が多いらしく、彼の負担は相当なものだ。
一方、ギルド班のサラさんは、猫耳と尻尾を持った獣人で、可愛らしい雰囲気を漂わせているが、記者としては一流だ。彼女は主にギルドや冒険者に関連するニュースを追いかけている。異世界には多くのギルドが存在し、そこから生まれる情報はエルドラ・ヴィジョン・テレビにとっても貴重だ。
「岩木さん、今日はお暇ですか? 私、もうすぐギルドの会合に取材に行くんですけど、来ます?」サラさんは優しく微笑みながら、俺を誘ってくる。彼女の猫耳がピクピクと動いていて、愛嬌があるが、その取材熱は本物だ。
「いや、今日はゆっくりさせてもらうよ。次の機会にでも」
「そうですか。じゃあまた今度、頼りにしてますね」
サラさんは元気に返事をすると、自分の準備をし始めた。彼女は小柄だが、誰よりも行動力があり、取材現場でのフットワークは抜群だ。
こうして、俺は局内をぶらぶらしながら、他の記者やスタッフたちがそれぞれの仕事に忙しく取り組んでいる様子を眺めていた。ミカサさんがデスクで指示を出し、ナベさんが映像を編集し、バキさんやサラさんが取材に出る――みんながそれぞれの役割を果たし、局全体が動いているのがよくわかった。
「……俺も、少しは頑張らないとな」サボってばかりでは、この異世界でもやっていけないかもしれない。そう思いながら、俺はもう少しだけ自分のデスクでだらだら過ごすことにした。