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初めての取材…!

目が覚めた場所が異世界だと理解するまで、少し時間がかかった。


目の前には異様に高い時計塔、そして「エルドラ・ヴィジョン・テレビ」と書かれたガラス張りのビル。

ファンタジーの世界に、なぜテレビ局があるのか……そんな現実離れした光景を、ぼんやりと眺めていた。


「とりあえず、ここが俺の新しい職場ってことか……」


何がどうなってこうなったのかはわからない。だが、確かに俺はここにいる。

しかも、手元には異世界のテレビ局のIDカードまである。名前は「岩木レン」、役職は「記者」。


どうやら、現代での職業をそのまま引き継いでいるようだ。


サボり癖が原因で、最後の仕事が文字通り「命取り」になったのは皮肉以外の何物でもない。突発的な殺人事件の取材に行かされ、現場で犯人に刺されて死んだ――まさかそんな最期になるとは思ってもいなかった。だが、そんな自分がなぜか異世界に転生してしまった。しかも、また記者として。


「……いや、これどう考えても俺に向いてないだろ」


そんなことをつぶやきつつ、俺は深いため息をついた。現代ではサボるのが常だったのに、異世界で仕事なんかできるのか? でも、そんな俺の不安などお構いなしに、目の前に現れたのは、猫耳と尻尾を持った女性だった。


「おはようございます、岩木さん! 今日の取材、準備はできていますか?」彼女はモリヒナさんだ。このテレビ局の人気アナウンサーだ。

ふわふわの猫耳と尻尾が可愛らしいが、その明るい笑顔には仕事の厳しさも感じさせる。どうやら、彼女が俺の同行者らしい。


「今日の取材? 俺、何するんだっけ?」


俺が困惑気味に聞くと、モリヒナさんは手際よく資料を取り出して見せてくれた。そこには「ドラゴン族とエルダリア王国の和平交渉最終会談」と書かれている。


「今日は、ドラゴン族との和平交渉を取材するのよ。結構大事なニュースだから、しっかり頼むわね!」


「……ドラゴン? 和平交渉?」


ファンタジーの世界に突っ込んできた感じがしたが、今さら驚いても仕方がない。俺はカメラを受け取って、準備を整えた。どうせサボる暇もないのだろう。やるしかない。


取材現場に到着すると、そこは宮殿の前庭。大勢の騎士たちが警備にあたり、緊張感が漂っていた。中央には、まさにファンタジーらしく、銀色の鱗をまとった巨大なドラゴンが立っている。威風堂々たる姿に、俺は息を呑んだ。


「……すごいな、本物のドラゴンかよ」


モリヒナさんはそれを見ても平然としている。さすがは異世界の住人、こういう光景には慣れているのかもしれない。俺はカメラを構え、交渉の場面を撮影し始めた。


交渉は順調に進んでいるように見えたが、途中でドラゴン族の長老が声を荒げ、場がざわつき始めた。ドラゴン族と人間の代表者の間で緊張感が漂い、一瞬の隙が何か大きな争いを引き起こすかのような空気だった。


「まずいな……」


俺は必死にカメラを回し続けた。現代でのサボり癖はすっかり影を潜め、目の前の出来事に集中せざるを得なかった。


――だが、最終的には冷静さを取り戻した双方の代表者が、再び平和裏に話し合いを進めた。なんとか和平交渉は成功裏に終わったようだ。


局に戻ると、俺は撮影した映像を確認しつつ、原稿を書き始めた。カメラを回していただけでは終わらない。ニュースにするためには、映像に沿ったナレーションや解説が必要だ。


「ドラゴン族とエルダリア王国の和平交渉は、数世紀にわたる対立の終結を意味するものです……」手早くメモをまとめ、原稿を打ち込む。昔はこういう作業も面倒だと思っていたが、今は意外と集中してできる。


モリヒナさんがアナウンスする姿を想像しながら、俺は彼女が読みやすい原稿を作成した。


「岩木さん、原稿できた?」モリヒナさんがスタジオの入り口から顔を覗かせる。


「ああ、もうすぐ送るよ」原稿を彼女に渡し、あとはスタジオでの放送を待つだけ。


彼女はすぐに原稿に目を通し、「これならバッチリね!」と笑顔で言ってくれた。どうやら、大丈夫そうだ。


その夜、ニュース番組は無事に放送された。スタジオでモリヒナさんが真剣な顔で原稿を読み上げ、俺が撮った映像が次々と流れる。交渉の緊張感や、ドラゴン族の威圧感が画面を通じて伝わってきた。


「ふぅ……なんとか、初めての取材は終わったな」俺は椅子にもたれかかり、ホッと一息ついた。初めての取材にしては、まずまずの出来だ。モリヒナさんも笑顔で感謝を述べてくれた。


「ありがとう、岩木さん! いい映像だったわ。これからも頼りにしてるからね!」頼りにされるのはいいが、サボる暇がなさそうなのが気がかりだ。異世界でも、どうやらマイペースにはいかないらしい。


「……まあ、どうにかなるか」そうつぶやきながら、俺は次の取材に備えることにした。

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