ギルドマスター選挙の立候補…?
久しぶりの休暇を満喫し、十分にリフレッシュした俺は、いよいよ今日から出勤だ。
報道局では相変わらず活気のある声が飛び交い、バキさんやミカサさんが忙しそうに指示を出している。しばらく席に着くと、すぐにサラさんが話しかけてきた。
「お、岩木、おかえり!休みはしっかり取れた?」
「おかげでだいぶ休めたよ。それで、何か新しい取材でも?」
「そうなのよ、ちょうどギルドマスター選挙が始まるから、あんたと一緒にギルドで情報を集めることになったの。さ、準備して早速行きましょ」
ギルドマスターの選挙は、ギルドや冒険者たちにとって一大イベントだ。俺も初めての選挙取材に少し緊張を感じながら、サラさんと共にギルドへ向かうことにした。
ギルドは選挙のムード一色で、いつも以上に活気に満ちていた。冒険者たちが集まって議論したり、立候補者のポスターが貼られていたりと、選挙への期待が感じられる。
「いやぁ、すごい盛り上がりだな」
「そりゃそうよ。ギルドマスターの交代は大きな影響を及ぼすからね。冒険者たちも気が抜けないわ」
ギルド内を歩き回りながら情報を集めていると、サラさんがふとあるポスターに目を留めた。
「あれ、レノン……?この名前、どこかで見た気がするわ」
サラさんが指差すポスターに書かれた「レノン」という名前を見て、俺も驚いた。レノンとは以前、冒険者として街で出会い、取材で話を聞いたことがあった。実直で冷静な彼は、頼りがいのある冒険者だったが、まさかギルドマスター選挙に出るとは思っていなかった。
「レノンが立候補するなんて……」
「本当ね。彼って、あの時も落ち着いた冒険者って感じだったけど、ギルドマスターなんて目指すようなタイプに見えなかったわ」
サラさんも興味深そうにポスターを見つめている。その時、背後から聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「おや、君たちは……記者さんたちか?」
振り返ると、そこにはレノン本人が立っていた。相変わらずの落ち着いた表情で、俺たちを見つめている。
「レノンさん、久しぶりです。まさかギルドマスターに立候補するとは驚きました」
俺が挨拶をすると、レノンは少し微笑んで肩をすくめた。
「そうだな。俺自身も、こうして立候補するとは思っていなかったよ」
「じゃあ、どうして急にギルドマスターなんて?」
サラさんが興味津々で尋ねると、レノンは遠くを見つめるようにして口を開いた。
「今のギルドには、もっと冒険者を支え、団結を強める仕組みが必要だと思ったんだ。仲間同士での助け合いや、未経験者が育つための制度が、今はまだ不十分だからな」
「つまり、ギルドをもっと良くして、冒険者全体を強くしたいってことですか?」
「そうだ。俺はこれまで冒険者として経験を積んできたが、それを仲間たちのために活かしたいと思うようになったんだ」
レノンの目は力強く、その熱意がまっすぐ伝わってくる。俺も彼の言葉に胸を打たれ、記者として彼の思いをしっかりと伝えたいという気持ちが湧いてきた。
その後もギルド内を回りながら、他の立候補者や冒険者たちから話を聞き、次期ギルドマスター選挙の情報を集めた。ギルドマスターの座をめぐる争いは、街全体に影響を与えるだけに、冒険者たちも真剣な表情だ。
取材を終えた帰り道、サラさんがふと呟いた。
「レノンさん、立派だったわね。彼ならギルドマスターの資格は十分にあるかも」
「そうだな。ギルドをもっと良くしたいっていう思いが伝わってきたよ」
俺たちはしばらく無言で歩いた後、サラさんが少し微笑んでみせた。
「……でも、ギルドマスターなんて大変な役職よね。あなたが立候補したらどうなるかしら?」
「俺が?いや、それは無理だって。そんな重責は勘弁してくれよ」
俺が苦笑いすると、サラさんは「分かってるって」と笑いながら俺の肩を軽く叩いた。その明るい笑顔に、俺もつい笑ってしまう。
レノンという頼もしい候補がいることを知り、俺たちは選挙の行方に期待を抱きつつ、少し安心した気持ちでギルドを後にした。