影の終焉…!
影の者たちの一連の騒動で、王国とドラゴン族の協力がますます強化される中、俺は再び取材に赴くことになった。影の者たちが拠点としていると噂される地下遺跡に潜入して、決定的な映像を収めるためだった。
バキさんも「これがエルダリアの未来にとって重要な取材になる」と言っていたが、正直、俺は巻き込まれるのはもううんざりだった。
「でも、これで最後かもしれないな」
そう自分に言い聞かせながら、俺はカメラを携えて薄暗い地下へと足を踏み入れた。
遺跡の中は冷たい空気が漂い、どこか不気味な静寂に包まれていた。俺は足音を抑え、奥へと進んでいく。すると、暗闇の中に人影が見え、何やら低い声で話しているのが聞こえてきた。
影の者たちだ。
緊張で喉が渇くのを感じながら、カメラを構え、彼らの姿をレンズに収め始めた。
「ついに秘宝を手に入れる日が来た。我らの力で、王国もドラゴン族も……」
その時、俺のカメラが微かな音を立てた。
しまった、と思った瞬間、影の者たちの一人がこちらを見た。
「貴様、誰だ!」
影の者たちが一斉に俺の方へ視線を向け、数人がすぐに駆け寄ってきた。慌てて逃げ出そうとしたが、あっという間に腕を掴まれ、身動きを封じられた。
「お前、この前の襲撃で懲りなかったのか。王国の御用テレビ局の記者よ」
リーダー格の男が冷たい目で俺を見下ろし、吐き捨てるように言った。
「我々を悪者に仕立て上げる報道ばかりしているようだが……今回はそうはいかんぞ」
そう言いながら、男は俺のカメラを奪い取り、その場に叩きつけるようにして没収してしまった。
それからどれくらいの時間が経ったのか、俺にはもう分からなかった。
影の者たちに地下牢へと連れ込まれ、暗い部屋に閉じ込められた俺は、腕を縛られたまま何もできず、ただ時間が過ぎるのを待っていた。
監視役の男たちは容赦なく、俺に辛い刑罰を与え続けた。まともに眠れず、体力も尽き果てていく中、俺の意識は朦朧とし、いったいどれくらいの時間が過ぎたのかもわからなくなっていた。
「……こんな取材なんてやめておけばよかった」
そう何度も心の中で呟きながら、俺はただ過ぎ去る日々を耐え忍んでいた。
だがある日、ふと気がつくと監視の者たちが姿を消していた。牢の外からは騒がしい音が響いてくる。
「……いったい、何が起きているんだ?」
恐る恐る外を覗き込むと、牢の外は無人だった。
どうやら、今が逃げ出す唯一のチャンスらしい。俺は全身の痛みをこらえながら立ち上がり、足を引きずるようにしてその場を離れた。
遺跡の暗い通路を進んでいくと、角の壁際に俺のカメラが放置されているのを見つけた。壊れたと思っていたが、無事なようだ。俺はほっと胸を撫で下ろし、カメラを手に取るとすぐに録画を始めた。
カメラを回しながら進むと、遺跡の出口近くで一斉に響く轟音と、戦闘の気配がした。外に出てみると、なんと王国兵たちが影の者たちの拠点を総攻撃している最中だった。目の前には、影の者たちが次々と制圧され、王国兵たちの剣と盾が一糸乱れぬ動きで影の者たちを追い詰めていく様子が広がっていた。
「……まさか、こんな場面に居合わせるとは」
俺は恐怖と興奮が入り混じる中、戦闘の一部始終をカメラに収め続けた。王国兵が影の者たちを追い詰め、ついにその拠点が崩壊する瞬間まで、すべてを記録した。
翌日、報道局に戻ると、俺の映像が特集として大々的に放送されることになった。王国兵が影の者たちの拠点を制圧する瞬間、緊張感に満ちた戦闘の様子、影の者たちが壊滅するまでの映像。
それは国中で話題となり、視聴者からも称賛の声が寄せられた。
「岩木、よくぞあの場面を映像に収めたな。あれはまさに報道の使命を果たした映像だ」
バキさんが俺の肩を叩きながら笑顔を見せた。さらに、上司のミカサさんもいつも以上に柔らかい表情で「お疲れさま。本当によく頑張ってくれたわ」と声をかけてくれた。
だが、俺にとっては早くこの一連の騒動から解放されたい気持ちの方が強かった。だからこそ、みんなから称賛を浴びるのが少し居心地悪く感じられた。
夜、仕事を終えて外に出ると、モリヒナさんが待っていてくれた。彼女は心配そうな顔で俺を見つめ、近づいてきた。
「岩木さん、お疲れさま。本当に無事でよかったです」
「心配してくれてたんだな、ありがとう。でも、正直、怖かったよ」
俺が正直に言うと、モリヒナさんは少し照れくさそうに微笑み、俺の肩にそっと手を置いた。
「でも、あなたが頑張ったおかげで、王国の平和が守られたんです。とても誇らしいですよ」
彼女の言葉に、俺は少し照れてしまい、視線を逸らしたが、その手の温かさに不思議な安心感が広がっていった。
その後、サラさんも通りかかり、俺を見つけると嬉しそうに駆け寄ってきた。
「岩木、無事でよかった!聞いたよ、あんたが影の者たちの拠点で独自映像を撮ったって!」
サラさんは興奮気味に話しかけてきたが、俺が「できればもうやりたくない」とぼやくと、サラさんは笑って肩を叩いてきた。
「何言ってんの、あんたは記者なんだから最後までやり抜いたじゃない。みんな、あんたの映像に感動してたよ」
「そっか……まぁ、ありがとうな」
サラさんと笑い合う中で、少しずつ自分がこの仕事を通して得たものの大きさを感じ始めていた。
その日の夜、自分のアパートに戻った俺は、ようやくベッドに横たわり、長い戦いの終わりを感じていた。
影の者たちの拠点が制圧され、王国の危機もひとまず去った今、俺はようやく心の底から休息を得られた気がする。
「やれやれ、やっと終わったか」
疲れた体をベッドに沈めながら、俺はほっと安堵の息をついた。この一連の取材で俺が得たものは、報道の使命の重みと、それに対するささやかな達成感、そして、少しだけ勇気を持てた自分自身だったのかもしれない。
「もう、こんな危険な取材はごめんだな……」
そうつぶやきながら、俺は深い眠りに落ちていった。