異世界の報道記者…?
転生者保護法が可決されてから数日後。
王都では、転生者たちが正式に市民として登録される手続きが始まっていた。
・「転生者支援センター」が各地に設立され、職業支援や生活支援が行われる。
・王国民と転生者の共存が現実のものとなり、新しい社会が築かれ始める。
「これで、俺たちも王国の正式な住民になれるんだな……」
「まさか、こんな日が来るとは思わなかった……」
街では転生者たちが喜びの声を上げ、王国の人々もそれを受け入れ始めていた。
しかし、その祝福ムードの中、岩木の心はどこか落ち着かなかった。
(俺は、これからどうするんだ……?)
博士からの呼び出し――「帰れる可能性がある」
その日、岩木は報道局で休憩していた。
そんな彼のもとに、リオ博士から一本の連絡が入った。
「岩木くん、今すぐ研究所まで来られるか?」
「博士? 何かあったんですか?」
「君にとって重要な話がある。転生者についての研究が、新たな段階に進んだんだ」
研究所に着くと、博士のほかにも王国の魔法研究者たちが集まっていた。
「……何なんですか、この雰囲気」
岩木が苦笑しながら席に着くと、博士が静かに口を開いた。
「実は……君が元の世界へ戻れる可能性があることがわかったんだ」
「……え?」
「転生者の魔力を解析した結果、"異世界転移"の理論がある程度解明できた。そして、特定の魔法陣を用いれば、君を元の世界へ送り返せる可能性がある」
岩木は思わず息を呑んだ。
(……帰れる? 俺が?)
しかし、その条件とは――
「ただし、問題がある」
博士は真剣な表情で言葉を続けた。
「この方法が使えるのは……一度きりだ」
「……一度?」
「つまり、今すぐ決断しなければならない。戻るなら今、残るなら二度と帰れない」
会議室が静まり返る。
岩木は拳を握りしめた。
(……今、帰るか?)
(でも、俺にはまだ記者としてやりたいことがある……)
モリヒナやサラ、バキ、そして報道局の仲間たちの顔が頭をよぎる。
(ここでの人生は……本当に終わりにしていいのか?)
沈黙が続いた後、岩木はゆっくりと口を開いた。
「……俺は」
皆が固唾を飲んで岩木を見る。
「俺は……この世界に残る」
博士が少し驚いたような表情を浮かべた。
「いいのか? これは、一度きりのチャンスだぞ」
「……ええ。でも、俺にはまだやることがある」
岩木は深く息をついた。
「この世界のことを知り、記者として伝えてきた。王国の未来も、転生者の行く末も、まだ見届けていない」
「それに……俺はこの世界で、仲間ができたんです」
モリヒナ、サラ、バキ、ミカサデスク、そして報道局のみんな。
「ここは、もう"俺の世界"なんですよ」
博士はしばらく考え込んだ後、静かに頷いた。
「……そうか。君がそう決めたなら、それが君の道だな」
研究所を出た後、岩木は王都の街を歩いていた。
(……俺は、この世界で生きていく)
空を見上げると、青い空がどこまでも広がっている。
気づけば、報道局の前に立っていた。
「よし……戻るか」
ドアを開けると、そこにはいつもの光景があった。
「岩木くん、どこ行ってたの?」
モリヒナが振り向き、微笑む。
「ちょっと、未来を決める話をね」
「へぇ? じゃあ、これからも記者続けるんだ?」
「……ああ、まだ伝えたいことがあるからな」
モリヒナが満足そうに頷く。
「じゃあ、次の取材もよろしくね」
岩木はカメラを肩にかけ、笑った。
「もちろん。だって――これが俺の仕事だからな」
それから数年後。
エルドラ・ヴィジョン・テレビの看板番組「アルダNEWS」。
画面には、一人の記者が映っていた。
「今日も、王国の"今"をお届けします。エルドラ・ヴィジョン・テレビ、岩木です」
彼の旅は、まだ終わらない――。