影の儀式…?
影の者たちが王国の秘宝を狙っている――。俺たち報道班は、王国の地下遺跡で目撃した影の者たちの動きをもとに、王国に迫る危機について取材を続けていた。影の者たちの動機がただの反乱ではなく、王国の根幹を揺るがすほどの力を狙っていると知った今、俺たちは真実を追うための覚悟を決めつつあった。
とはいえ、俺は内心「これ以上深入りするのは勘弁してほしい」という気持ちもあった。だが、バキさんをはじめ、報道班全員の真剣な様子に巻き込まれるようにして、俺も取材を続けるしかなかった。
ある朝、報道局に一通の急報が届いた。なんと、カイバ三世国王が影の者たちに関する緊急会見を開くというのだ。王宮からも、影の者たちの脅威に正式な対策を講じる必要があると判断されたらしい。
「岩木、準備できたか?」
バキさんが俺に声をかける。正直、少し気が重いが、カメラをしっかり手にして「大丈夫です」と返事をした。
「まったく……こんな厄介なことになるなんて思わなかったぜ」
俺がぼやくと、バキさんはニヤリと笑いながら肩を叩いてきた。
「逃げたい気持ちは分かるが、こういうのは逃げずに立ち向かってこそだ。真実を伝えるのは、俺たち記者の役目だろ?」
そう言われてしまえば、反論するのも面倒だった。結局、俺は心の中でため息をつきながらも、カメラを握り直し、王宮へ向かうことになった。
王宮の謁見の間に到着すると、すでに重鎮たちが並び、張り詰めた空気に包まれていた。その中でも特に目を引いたのは、ドラゴン族の長老ルドラだ。彼の赤銅色の鱗が厳かな光を放ち、いつも以上に険しい表情で国王を見守っていた。
謁見の間が静まり返り、ついにカイバ三世国王が重々しく口を開いた。
「エルダリア王国の民よ、いま我々は王国の歴史において最大の危機を迎えている。影の者たちが密かに儀式を準備し、王国の秘宝に手を伸ばそうとしていることが判明した」
その言葉に、謁見の間に集まった全員が息を飲んだ。俺も、カメラを構える手が一瞬止まってしまうほどの重みを感じた。
「彼らの目的は、秘宝の力を使い、我が国の平和を根底から揺るがすことにある」と続ける国王の声には、怒りと不安が滲んでいる。
「影の者たちは、古代から禁忌とされてきた力を引き出そうとしている。この儀式が完了すれば、ドラゴン族の加護さえ無力化され、王国はあらゆる外敵から無防備になるだろう」
国王の言葉が場内に響き渡り、しばらくの間、重苦しい沈黙が続いた。
「国王陛下、私どもドラゴン族も、この脅威に対して協力を惜しむつもりはありません」
ルドラが低く、確かな意志のこもった声で言葉を続けると、カイバ三世も小さく頷き、彼に感謝の意を表した。
「長老ルドラ、あなた方の協力に心から感謝します。この危機に立ち向かうため、王国とドラゴン族が一丸となる時が来たようです」
その会話を耳にしながら、俺はますます不安が募るのを感じていた。王国がこんな緊迫した状況に追い込まれるなんて、これまで想像もできなかったからだ。
会見を終えた俺たちは、さらに影の者たちの情報を掴むため、街へと戻ってきた。しかし、すでに影の者たちの噂が広まり、街中の人々はみな怯えた顔で話を避けるばかりだった。
「ちっ、これじゃ肝心な情報が何も出てこねぇな」
バキさんが苛立った様子で呟くと、俺も同じ気持ちだった。このままでは会見の内容だけを報じるしかなく、深みのある報道ができない。そんな中、ふとした偶然から、とある情報屋が影の者たちの密会について教えてくれることになった。
「どうやら今夜、旧市街の廃墟で影の者たちが集まるらしいですよ」
その情報に、俺たちは再び旧市街へと向かった。
夜の旧市街はどこか不気味な静寂に包まれており、街灯の少ない道を進むたびに、冷や汗が背中を流れた。バキさんはいつもの冷静さを保ちながら、俺に小声で話しかけた。
「岩木、あまり慌てるなよ。奴らに気づかれたら、すべてが台無しになる」
「わかってますよ……それにしても、本当にここにいるんでしょうか?」
そんな会話を交わしながら、俺たちは影の者たちが集まるという建物の前にたどり着いた。薄暗い通りに立ち止まり、しばらく息を潜めていると、建物の中から声が聞こえてきた。
「影の儀式は間もなく完了する。その時が来れば、王国もドラゴン族も、我らの支配下に置かれるだろう」
黒装束の集団が部屋の中央に集まり、静かに話し合っている。そのリーダーらしき男が、秘宝の力について語り出すと、俺も思わずカメラを構え、彼らの会話を記録し始めた。
「この儀式が成る時、我らがエルダリア王国の真の支配者となる。反抗する者はすべて力で鎮圧し、王国の民を新たな世界へと導くのだ」
「……やつら、本気で王国を支配する気なのか」
俺がカメラ越しに囁くと、バキさんが険しい顔でうなずいた。
「どうやら、俺たちはとんでもない真実に近づきすぎたようだな」
リーダーが「影の儀式」が完了することの重大さを語る中、周囲の者たちも一様に不気味な笑みを浮かべ、彼らの恐ろしい計画に賛同しているようだった。俺たちは息を殺しながら、彼らの会話をできるだけ多くカメラに収め、静かにその場を後にした。
報道局に戻ると、俺たちは撮影した映像を確認し、ミカサさんに報告した。影の者たちが王国の支配を目論んでいること、そのための儀式が間もなく行われること、そしてその儀式が完了すれば、王国とドラゴン族の加護が失われること――。一つ一つが、王国の未来を脅かすものだった。
ミカサさんは険しい顔で頷き、即座に王宮に連絡を取るように指示を
出した。そして、ドラゴン族との協力体制をさらに強化するための会談がすぐに実現した。
王宮に再び集まったカイバ三世国王とルドラは、影の儀式を止めるため、正式に協力し合う決意を固めた。ルドラも、王国の平和を守るためならば、ドラゴン族としてできる限りの支援を行うと約束してくれた。
俺もバキさんも、影の者たちが王国を脅かす儀式を目前に控えていることを知り、次の取材に向けて心を決めた。ドラゴン族の協力を得て、俺たちはいよいよ真実の核心に迫る覚悟を固めることになった。
「岩木、俺たちは影の者たちの真の目的を報じなければならない。彼らがどれほど恐ろしいことを企んでいようと、逃げてはならない」
バキさんの真剣な表情を見ていると、俺も初めて、記者としての責任を本気で感じた。影の儀式が完了すれば、王国の平和は崩壊するだろう。俺たちの取材が、エルダリアの未来にかかっていることをようやく理解したのだ。
こうして、俺たちは再び影の者たちの真実を追うため、さらなる覚悟を持って取材に挑むことを決意した。