転生者保護法…!
エルドラ・ヴィジョン・テレビ(EVT)の報道によって明らかになった「転生者管理の真実」。
・ 王国はかつて、転生者を選別し、不要な者の記憶を消していた。
・ 地下道には「転生者収容所」があり、監禁された者がいた。
・ 記憶を消された転生者が今も王国の中で普通に暮らしている可能性がある。
この衝撃的な報道は、王国全体に大きな波紋を広げた。
それを受けて、転生者たちは王国と正式に対話する場を持ちたいと申し入れた。
こうして、「転生者集会」が開かれることになった――。
王国歴で初めて、王宮の大広間に転生者たちが一堂に会する場が設けられた。
長い円卓を囲むように、王国の要人と転生者たちが向かい合う。
《主な出席者》
・ 国王カイバ三世(王国の代表として)
・ 王宮の高官たち(政策決定者として)
・ 転生者代表:コマツ、ヤマダ、ナツミ、トミタ、あやさ(転生者の立場を主張)
・ リオ博士(転生者の記憶研究者として)
・ 報道幹事社:岩木、EVTの取材班(会議の内容を記録し報道するため)
大広間には重々しい空気が漂い、誰もがこの歴史的な瞬間を見守っていた。
最初に発言したのは、軍事顧問のコマツだった。
彼は椅子に深く座りながら、低い声で語り始めた。
「……まず、今回の集会が開かれたことを評価したい」
「しかし、転生者として王国に仕えた者として言わせてもらう。"過去に記憶を消された転生者がいる"という事実を、王国はどう受け止めるのか?」
彼の発言に、大広間の空気が一層重くなった。
カイバ三世は沈黙し、少し考えた後、低い声で答える。
「確かに、過去にそうした政策が行われていたことは事実だ」
「私は即位後、この政策を廃止した。しかし、それが遅すぎたというのも理解している」
続いて発言したのは、辺境領主補佐のヤマダだった。
「俺は、自分の記憶が部分的に欠落していることに、これまで疑問を持たなかった」
「しかし、今回の報道を受けて、もしかすると俺も"記憶を消された転生者"の一人なのかもしれないと思った」
「そうだとしたら、王国は"俺たちに何をしていたのか"を明確にする責任がある」
ヤマダの言葉に、多くの転生者たちが頷いた。
続いて、リオ博士が前に出る。
彼は分厚い資料を持ち、静かに語り始めた。
「今回の報道を受けて、私たちは転生者の記憶消去について再調査を行った」
「その結果、"完全に消去されたわけではない"可能性が高いことが分かった」
「え……?」
転生者たちが一斉に博士の言葉に耳を傾ける。
博士は頷きながら続ける。
「転生者の記憶消去は、"特定の魔法"を用いたものだった」
「しかし、記憶自体は"脳内の深層部分"に残されており、完全に消えたわけではない」
「つまり、適切な治療や刺激を与えれば、記憶を回復できる可能性がある」
その言葉に、転生者たちの表情が変わった。
「……本当ですか?」と、ナツミが不安げに尋ねる。
博士は真剣な表情で頷く。
「もちろん、完全な保証はない。しかし、今後研究を進めれば、"記憶回復の方法"を確立できるかもしれない」
カイバ三世は深く息をつき、王宮の高官たちを見渡した。
「転生者の記憶が消された可能性、そして、それを回復できる可能性……これらを考えると、王国は何らかの対応を取らねばならない」
「私は、"転生者保護法"を制定することをここで約束する」
「この法律のもとで、転生者の権利を明確にし、彼らが不当な扱いを受けることのないようにする」
転生者たちの間に、ざわめきが広がる。
「……ようやく、ここまで来たのか」
コマツが小さく呟いた。
しかし、その場で一部の貴族が異を唱えた。
「陛下、それはあまりにも軽率ではないでしょうか?」
「転生者は、元々我々の世界の住人ではない! そんな者たちに"市民権"を与えるなど……」
「転生者は国に貢献する者もいるが、何の力も持たない者もいる。その全員を"平等に扱う"というのは、あまりにも……」
貴族たちの反発に、岩木は眉をひそめた。
(やはり、そう簡単にはまとまらないか……)
カイバ三世は冷静に答える。
「確かに、転生者をどう扱うかは慎重に議論するべきだ。しかし、それを理由に"過去の問題をなかったこと"にはできない」
「転生者もまた、この王国に生きる者だ。その権利を守ることは、王国の責務である」
貴族たちは不満そうに唸るが、国王の決断を覆せるほどの勢いはなかった。
集会の様子を記録しながら、岩木は思った。
(転生者の権利が、ようやく認められようとしている)
(でも、これで終わりじゃない。この"転生者保護法"が本当に実現するのか、王国がどこまで責任を果たせるのか――)
(それを見届けるのが、俺たち報道の役割だ)