転生者の権利...?
王国の管理下にある5人の転生者への取材を終え、岩木はある確信を持つに至った。
・ 転生者たちは、王国によって"適正"を理由に誘導され、王国に組み込まれている。
・ 記憶の欠損や、転生したことを自覚していない者がいる。
・ 王国は"都合の悪い転生者"を記録から消している可能性がある。
(ならば……"記録から消された転生者"の一人であるナルセさんが、何を知っていたのかを突き止める必要がある)
岩木はシラユ隊長と共に、ナルセの行方を追うための手がかりを求めて王都を調査することにした。
ナルセの記録は王宮のデータから消されていたが、彼が「消された」経緯を知る者がいないか調査することにした。
岩木は、まず王都の古い酒場や情報屋が集まる場所を回ることにした。
王都の裏通りにある情報屋の一軒。
カウンターの奥に座る初老の獣人が、煙草の煙をくゆらせながら言った。
「ナルセ……確かに、そんな名前の男を見たことがある」
「本当ですか?」
「ああ。ただし、それも10年以上前の話だがな」
「どこで目撃したんです?」
情報屋は少し考えたあと、低い声で答えた。
「城下町の外れにあった"とある集会"で、彼はよく演説をしていたよ」
「演説?」
「"転生者の権利を認めるべきだ"ってな」
岩木は驚いた。
(……つまり、ナルセさんは"転生者の権利"を訴えていた?)
「そんな集会があったんですか?」
「今じゃ跡形もねぇがな。王国に"粛清"されたんだよ」
「粛清……?」
「集会を開いていた連中は、ある日突然姿を消した。何があったのかは分からんが、王国が何かしたのは間違いねぇ」
岩木は背筋が寒くなるのを感じた。
("転生者の権利を訴えていた集団"が、王国によって消された……?)
「ナルセさんも、その時に?」
「ああ、多分な。そいつも、それ以来ぱったりと姿を見せなくなった」
(つまり、ナルセさんは"王国にとって危険な存在"だった……?)
「他にナルセさんについて知っていることはありますか?」
情報屋は煙を吹かしながら、もう一つ興味深い話をした。
「……一つだけ、妙な話がある」
「妙な話?」
「ナルセが最後に目撃されたのは"王都の地下道"だ」
「地下道……?」
「王都の地下には、"かつての王宮の避難路"がある。普通は封鎖されているが、昔の貴族や盗賊どもが密かに使っていたらしい」
「そこにナルセさんが?」
「そうだ。"粛清"されたはずの数日後に、地下道に逃げ込んだ男がいたって噂があった」
岩木は、はっとした。
(もしかして……ナルセさんは"消された"んじゃなくて、逃げ延びた?)
「その地下道は今でも?」
「今は厳重に封鎖されている。王国の役人が管理してるらしいがな」
(……何かがある)
(ナルセさんの行方を追うなら、まず"王都の地下道"を調べる必要がある!)
情報を得た岩木とシラユ隊長は、さっそく王都の地下道へと向かうことにした。
地下道の入口は、王宮から少し離れた"旧市街"の一角にあった。
しかし――
「……封鎖が厳重すぎるな」
シラユ隊長が険しい表情で呟いた。
地下道の入り口には王国軍の兵士たちが警備に立っていた。
「普通の古い地下道にしては、警戒が厳しすぎますね……」
「つまり、それだけ"知られたくない何か"があるってことだ」
「どうします?」
シラユ隊長はしばらく考えた後、静かに言った。
「……ここは、一度王国軍の上層部に掛け合ってみるしかない」
「正面突破、ですか?」
「俺の立場なら、一応"調査"という名目で入れるかもしれん」
「なるほど……なら、お願いします」
岩木は、シラユ隊長と共に正式に調査許可を取るため、王宮へ向かうことにした。