なつみ…?!
ヤマダの証言によって、王国が転生者の記憶を操作している可能性が浮上した。
・ 転生後、記憶を失った状態で王国に保護されたヤマダ。
・ 夢の中で"何者かに追われている記憶"がある。
・ 王国が「転生者の記憶を消している」可能性が出てきた。
(転生者は王国に管理され、誘導される……だが、一部の転生者は"記憶を消される"?)
この疑問を解決するため、岩木は最後の取材対象へと向かうことにした。
「転生したことを自覚していない」転生者――なつみ。
なつみは、王宮で侍女として働いていた。
王族に直接仕える立場のため、取材をするには宮廷の許可が必要だったが、シラユ隊長の協力もあり、なんとか面会の機会を得ることができた。
岩木は王宮の使用人たちが働く一角へと案内され、なつみが来るのを待った。
「……あ、あの、こんにちは。侍女のなつみです」
柔らかな雰囲気を持つ、20代前半ほどの女性だった。
彼女は緊張した様子で、少し戸惑いながら岩木の前に座った。
「はじめまして。エルドラ・ヴィジョン・テレビの岩木と申します」
「えっと……取材、でしたよね?」
「はい。なつみさんは王国に仕える侍女だと伺いましたが、どうしてこの仕事を?」
「えっと……気づいたらここにいたんです」
「……気づいたら?」
「はい。昔のことはあまり覚えていなくて……」
(ヤマダと同じだ)
「王宮での仕事はどうですか?」
「すごく充実しています! 王族の方々も優しいですし、毎日やりがいがあって楽しいです」
彼女はにこやかに笑った。
だが、違和感があった。
(この世界に転生してきたのに、それに気づかずに"普通に"暮らしている?)
(なつみさんは、本当に転生者なのか? それとも、"転生した記憶を消された"のか?)
「なつみさん、ご自身の過去について何か覚えていることはありますか?」
「えっと……小さい頃から王宮で育ったって聞きました」
「ご両親のことは?」
「それは……あまり聞いたことがないんです」
彼女は少しだけ表情を曇らせた。
「……もしかして、昔のことを思い出せない?」
「……そうですね。今の仕事が楽しくて、あまり気にしていませんでしたけど」
(やはり、なつみさんは"転生した記憶を失っている"可能性が高い)
(もしくは、"意図的に失わされている"……?)
「なつみさん、夢を見たことはありますか?」
「夢……?」
岩木の言葉に、なつみは少し考え込んだ。
「……そういえば、たまに"自分が違う場所にいる夢"を見ます」
「違う場所?」
「はい。でも、どこなのか分からなくて……すごく変な感覚なんです」
「その夢の中で、何か言葉を聞いたり、見覚えのあるものは?」
「……うーん」
なつみは首を傾げた後、ぽつりと呟いた。
「"青い空に、高い建物がいっぱいある場所"……」
岩木は息を呑んだ。
(それって……明らかに"この世界"の風景じゃない)
「それ、今の王国にはない景色ですよね?」
「……そう、ですね。でも、なぜか懐かしい気がするんです」
「なつみさん、もしかしたら"自分が転生者である可能性"を考えたことはありませんか?」
「……え?」
なつみは目を丸くした。
「転生者……?」
「実は、なつみさんは"転生者"であると記録に残っているんです」
「……私が、転生者?」
なつみは困惑した表情を浮かべた。
「でも、私はずっと王宮で生きてきたって……」
「本当にそうですか? それは、"誰かにそう言われた"だけじゃないですか?」
「……っ!」
なつみの表情が、一瞬強張った。
(やはり、"転生の記憶を消された"可能性がある)
(だが、完全に忘れているわけではない……"夢"として記憶の断片が残っている)
王国は何をしているのか?
「隊長、これは……」
岩木はシラユ隊長の方を見た。
「……王国は、"転生者の記憶を操作する何か"を持っている可能性があるな」
「……そんなこと、できるんですか?」
「分からん。だが、もしできるなら……"転生の秘密"を握る者を都合よく処理できることになる」
「"転生者の管理"って、つまり……?」
「王国が"都合のいい転生者"を選び、"不要な転生者の記憶を消している"ということかもしれんな」
なつみのケースは、それを裏付ける証拠になりうる。
岩木は、今回の取材で得た情報を整理した。
・ コマツ → 転生後、異常な剣の才を発現し、軍に誘導された。
・ あやさ → 魔法の知識が転生時に与えられたような感覚を持つ。
・ ヤマダ → 転生後の記憶が欠損しており、追われていた夢を見る。
・ なつみ → 転生したことを自覚しておらず、記憶の断片が"夢"として残っている。
「……やはり、王国は"転生者を管理している"のではなく、"選別"している?」
「可能性はあるな」
「では、"選ばれなかった転生者"はどうなっているんでしょう?」
「……消されたか、"どこかに隔離された"かだろうな」
その瞬間、岩木の脳裏に浮かんだ名前があった。
――ナルセ。
「……隊長、"消された転生者"の可能性があるなら、ナルセさんも?」
「……ああ、今回の取材で確信が持てた。ナルセは"王国の管理から外れた転生者"である可能性が極めて高い。」
つまり――
ナルセを見つけることができれば、"王国が何をしているのか"の決定的な証拠を得られる。
「……よし。次は、本格的にナルセの行方を追います!」