コマツ&あやさ…?
王宮の地下、記録庫「第二区画」。
王国の管理下にある5人の転生者の存在を知った岩木は、シラユ隊長と共にさらなる調査を進めていた。
「まずは、今も王国で生活している転生者たちに会って話を聞くべきだな」
隊長の言葉に、岩木は頷く。
(彼らの証言が、ナルセさんの行方を追うための手がかりになるかもしれない)
転生者たちは、王国の軍や研究機関、行政など、王国の主要な組織に組み込まれていた。
なぜ、彼らは民間ではなく王国の中枢にいるのか?
本当に、自分の意志でそうしているのか?
――それを確かめるために、まずは直接会って話を聞く必要があった。
〜最初の接触:コマツ(軍事顧問)〜
岩木とシラユ隊長は、王宮内にある軍の作戦司令部を訪れた。
「コマツ軍事顧問は、現在執務中です。お待ちください」
案内された部屋で待つこと数分――
ドアが開き、堂々とした体格の男が入ってきた。
「軍事顧問のコマツだ。何か話があると聞いたが?」
年齢は40代半ば。
鋭い目つきに、鍛え上げられた肉体。
一見すると、転生者とは思えないほど"この世界に馴染んでいる"ように見えた。
「エルドラ・ヴィジョン・テレビの岩木と申します。転生者についての取材をしたいのですが……」
「転生者について?」
コマツは少しだけ目を細めた。
「俺が転生者であることは、別に隠していない。だが、なぜ今さらそんな話を?」
「最近、転生者の管理についての調査を進めていまして」
「……ふん、管理ね」
コマツは腕を組み、少し考え込むような表情を見せた。
「確かに、俺は"管理"されていたと言えなくもないな」
「やはり、王国が転生者を誘導しているのですか?」
「誘導というより"適正を見て配置する"という感じだな」
「それは、自分の意志で決めたんですか?」
「……最初は、違った」
コマツの表情が少し曇る。
「転生してすぐの頃、俺はただの傭兵として生きていた。だが、ある日王国から"特別な適正がある"と言われて、軍に招かれた」
「特別な適正……?」
「剣の才だ。転生前の俺は、剣術の心得なんてなかった。だが、なぜか"異常なほど剣を扱うセンスがあった"らしい」
「転生してから、突然……?」
「ああ。それが"転生者特有の力"なのかは分からんがな」
岩木は慎重に考えた。
(つまり、コマツさんは"転生後に特別な能力が発現した"ケースか……)
(でも、それは本当に王国が言う"適正"だったのか?)
「では、軍事顧問になったのは納得の上で?」
「今はな。最初は疑問もあったが、今はここが俺の居場所だと思っている」
「……転生者が、"王国に組み込まれる"のは、自然なことだと?」
コマツは少しだけ笑い、こう答えた。
「それを"自然"と思うかどうかは、その人間次第だろうな」
(……なるほど。彼はもう"この世界の人間"になっているんだ)
(転生のことを気にせず、今の自分の立場を受け入れている……)
「ありがとうございました。とても参考になりました」
「ふん……お前、なかなか変わった記者だな」
コマツはそう言い残し、部屋を後にした。
〜次の取材先:あやさ(研究機関)〜
次に訪れたのは、王国の魔法研究機関。
「研究員のあやさは現在、実験中ですが……少しだけ時間を取れるように伝えます」
岩木は少し待たされてから、研究室に案内された。
そこには、白衣を着た女性が魔法陣を解析している姿があった。
「ああ、ごめんなさいね。ちょっと忙しくて……取材って、何の話?」
「転生者に関する取材です。あやささんも転生者だと聞きました」
「ええ、まあね」
あやさは軽く頷きながら、資料を机に置いた。
「転生者について……王国の管理のことが知りたいの?」
「ええ。転生者がなぜ王国の組織に組み込まれているのか、その経緯を調べています」
「なるほどね。でも、それって"おかしい"と思う?」
「……え?」
「私はこの仕事、結構気に入ってるのよ?」
岩木は意外だった。
「転生した当初から、研究職を希望されていたんですか?」
「いいえ。最初は普通の町で暮らしていたわ。でも、魔法の知識が異常に深いって言われて、王国から誘われたの」
「異世界の知識が関係している?」
「そうかも。でも、私自身は何か特別なことをしたわけじゃない。ただ、"知っていた"だけ」
「……知っていた?」
「魔法の理論とかね。でも、私のいた世界に"魔法"なんてなかったのよ? なのに、なぜか"知識"だけがあった」
岩木は思わず息を呑んだ。
(……もしかして、"転生者の適正"って、"転生する前の自分"に関係していないのか?)
「王国が転生者を管理していることについて、どう思いますか?」
「……うーん」
あやさは少し考えた後、こう答えた。
「私は"管理"されてるとは思っていない。でも……"誘導されていた"とは思うわ」
「誘導?」
「最初から、"私がここで働くことになる未来"が決まっていたような……そんな気がするのよね」
岩木は言葉を失った。
("転生者の未来は最初から決まっている"……?)
(それって、どういうことだ?)