記録なし…?
王宮の地下、厳重に封印された「記録庫 第二区画」。
そこには、王国が密かに"管理"してきた転生者たちの記録が保管されていた。
岩木は慎重に記録をめくり、ついにある名前を見つけた。
"ナルセ" の名前がある。
「……やっぱり、ナルセさんは王国に"管理"されていた転生者だったのか」
シラユ隊長も、険しい表情で記録を覗き込む。
「"管理"とは、具体的に何を意味するのか……それを探る必要があるな」
岩木は慎重にページをめくり、ナルセに関する詳細を確認した。
・ 名前:ナルセ
・ 転生時期:不明(推定10年以上前)
・ 特異能力:なし
・ 王都での滞在期間:約3年
・ 現在の所在:……記録なし?
「……現在の所在が"記録なし"?」
「おかしいな」
シラユ隊長が眉をひそめる。
「"管理されていた転生者"なら、所在の記録が残っているはずだ。だが、ナルセに関しては"記録が消えている"」
「消えた……? いや、"消された"んじゃないですか?」
「……その可能性は高いな」
岩木はさらに記録を読み進めた。
すると――
・ "ナルセ"は、王国の管理下で3年間過ごしたが、その後突然"行方不明"になった。
・ 当時の王国上層部は"事件性なし"として処理。
・ それ以降、ナルセに関する正式な記録は存在しない。
「……"事件性なし"?」
岩木は思わず呟いた。
「王国が転生者を管理しているなら、"行方不明"になった時点で何かしらの捜査が入るはずですよね?」
「その通りだ」
シラユ隊長は厳しい表情を浮かべた。
「だが、ナルセに関する"捜索記録"が一切存在しない。つまり、王国は最初から"彼が消えたこと"を問題にする気がなかったということだ」
「……それってつまり、"意図的に消した"可能性が高い?」
「……考えられるのは二つだ」
シラユ隊長は静かに指を一本立てる。
「一つ目は、ナルセが王国の管理を抜け出し、自らの意思で姿を消した」
そして、もう一本指を立てた。
「二つ目は、王国が何らかの理由で"ナルセの存在を抹消した"」
岩木は息を呑んだ。
(もし後者だとしたら……ナルセさんは"転生の秘密"に関わる何かを知ってしまったのか?)
王国は岩木のことを把握しているのか?
岩木は、ふと別の疑問を抱いた。
(もし王国が"転生者を管理している"なら……俺のことも把握しているはずじゃないか?)
岩木は慎重に言葉を選びながら、シラユ隊長に尋ねた。
「隊長、ちょっと気になることがあるんですが……」
「なんだ?」
「王国が転生者を管理しているなら、今も"監視されている転生者"がいるってことですよね?」
「……可能性は高い」
「だったら、今現在"管理下にある転生者"のリストって見られませんか?」
シラユ隊長は少し驚いた表情を見せたが、すぐに冷静に頷いた。
「確かに、それは確認する価値があるな」
隊長は記録庫の奥に進み、別の資料棚を探り始めた。
「……あった。"現存する管理対象のリスト"だ」
岩木は、シラユ隊長が取り出したファイルを慎重に開いた。
『転生者管理記録(最新)』
・ 現在、管理対象となっている転生者:5名
・ 全員、王都内またはその周辺に滞在中
(……俺の名前がない)
岩木は驚きながらも、慎重に考えた。
(つまり、王国は俺のことを"転生者"として認識していないってことか?)
「どうした?」
シラユ隊長が岩木の表情の変化に気づく。
「いえ……ちょっと意外だったんです」
「意外?」
「王国が転生者を管理しているなら、もっと多くの転生者がリストに載っているかと思ってました」
隊長は静かに頷く。
「それは俺も気になっていた。記録によると、これまで転生した者は数十人規模だったはずだ。しかし、今"管理されている"のはたったの5名」
「……"行方不明になった転生者"が多すぎるってことですね」
「そういうことだ」
二人はしばらく沈黙した。
(王国は、本当に転生者を"管理"できていたのか?)
(それとも、管理していた転生者が"消えている"ことを隠しているのか?)
「岩木、次の取材は決まったな」
シラユ隊長が真剣な表情で言う。
「ナルセの行方を追う……それが、"王国の転生管理の真実"を暴く鍵になる」
「ですね……でも、どこから手をつければ?」
「手がかりは"王国の記録にはない"。ならば、"王国の外"にいる可能性がある」
「……つまり、"城外のどこかにナルセがいる"?」
「その可能性は十分にある」
岩木は大きく息を吸い込み、決意を固めた。
(よし……次は、ナルセの行方を追う)
(俺がこの世界に来た意味を知るためにも――)