忘却者…?
王国の記録庫で見つけた、一冊の封印された本。
『異世界転生研究 ~ 封印の記録』
そこにはこう記されていた――
『この世界に転生した者たちは、それぞれ"役割"を持っている。だが、それを決めるのは――"世界そのもの" である』
("世界そのもの"が、転生者を選んでいる……?)
岩木は、その一文を見つめながら、胸の奥に奇妙な感覚を覚えた。
(俺は、ただ偶然転生したわけじゃない?)
("何かの意志"によって、この世界に送られた?)
それが本当なら――
("俺の役割"は、何なんだ?)
「……岩木」
シラユ隊長が、厳しい表情で口を開いた。
「お前、この記録をどこまで信じる?」
「正直、まだ何とも言えませんね」
岩木はゆっくりと本を閉じた。
「でも、少なくとも"転生に法則がある"っていうのは、これまでの出来事を考えたら納得できます」
異世界転生した者の中には、異常な力を持つ者がいる。
逆に、俺みたいに"普通"のままの転生者もいる。
そして、転生の秘密を研究していた黒ローブの組織が存在する。
「……ただの偶然じゃ説明がつかないことばかりですからね」
隊長は静かに腕を組む。
「……王国上層部は、この記録の存在を"隠したがっている"」
「なんでです?」
「おそらく、転生者の存在が"この世界の秩序を脅かす"と考えているからだろう」
(転生者が秩序を脅かす……)
確かに、つい最近召喚された転生者は、制御不能の"脅威"になった。
「……でも、それって全部の転生者に当てはまるわけじゃないですよね?」
「そうだ」
隊長は深く頷いた。
「だが、"何がきっかけで転生者が暴走するのか"は分かっていない。だから、王国は転生に関する研究を"封印"し、転生者の存在そのものを"管理しようとした"んだ」
「管理……?」
岩木は、ある一つの考えが浮かぶ。
「もしかして……"転生したことを覚えていない"転生者もいるんじゃないですか?」
隊長は少しだけ驚いた表情を見せた。
「……お前、よくそこに気付いたな」
「やっぱり、いるんですね?」
岩木の勘は当たっていた。
「王国の記録によれば、"自分が転生者であることを認識していない者"もいる」
「それってつまり……"記憶が操作されてる"ってことですか?」
「そうだ。何らかの魔法的な処理が行われている可能性がある」
「……王国がやったんですか?」
隊長はしばらく黙った後、小さく首を振った。
「それは分からん。ただ、"転生者の一部が記憶を失っている"という事実だけがある」
(記憶を失った転生者……)
岩木の頭に、ある人物の顔が浮かぶ。
(……ナルセさんも、そうなのか?)
記録の続き ~ 転生者の"種類"
岩木は再び本を開き、慎重にページをめくる。
すると、そこにはこう記されていた。
転生者には、以下の3つのパターンが存在する。
影響者(この世界に"変革"をもたらす者)
観測者(この世界を"記録"し、伝える者)
忘却者(転生したことを"忘れさせられた"者)
「……"忘却者"?」
岩木は思わず呟いた。
隊長も、その単語に反応する。
「"転生したことを忘れさせられた者"……本当にそんなことがあるのか?」
「分かりません。でも、もし本当にいるとしたら……"誰が"、そんなことをしているんでしょうね?」
「……おそらく、王国の上層部か、それに匹敵する何者かだろう」
岩木は、ふとナルセのことを思い出す。
(ナルセさんは、"自分が転生者だ"と自覚していた……)
(でも、もしかしたら、"自覚していない転生者"も他にいるのかもしれない)
(そして、それは意図的に"作られた"可能性がある……)
「……隊長」
岩木は静かに口を開いた。
「この本、俺が持ち帰るのは……ダメですよね?」
「当然だ」
隊長はキッパリと言った。
「だが、お前が"記者"として、この記録をどこまで伝えるかは……お前の判断に任せる」
「……!」
岩木は隊長の言葉を噛みしめた。
(俺は、どうする?)
この記録を、"そのまま報道"すれば……王国の秘密が暴かれ、大混乱が起こる可能性がある。
しかし、"何も報道しない"というのも、記者として許されない。
(どこまでを報道し、どこまでを伏せるのか……)
(俺の判断に、すべてがかかっている)
次なる取材の方向性
「……分かりました」
岩木は静かに本を閉じた。
「とりあえず、今回の報道では"転生者の存在"に関して"新たな情報がある"とだけ伝えます」
「それでいいのか?」
隊長が確認する。
「……まずは、世論の反応を見ます。それから、どうするか考えますよ」
「なるほどな……」
隊長は納得したように頷いた。
「お前は相変わらず、"やりすぎず、でも核心は突く" ってやり方だな」
岩木は苦笑する。
「まあ、それが記者の仕事ですから」