転生者の役割…?
黒ローブの指導者たちは、王国軍によって拘束された。
彼らは異世界転生の研究を追求し、その秘密を暴こうとしていた組織。
しかし、今や彼ら自身が"王国の管理下"に置かれることになった。
(これで一件落着……とはいかないな)
岩木は、黒ローブの指導者が残した言葉を反芻していた。
「王国は、"異世界転生の真実"を隠している」
そして――
「王国の記録庫を調べることだ」
この言葉が、岩木の胸に深く突き刺さっていた。
(……記者として、ここまで来た以上、引き下がるわけにはいかない)
(俺は"異世界転生の記録"を調べる)
そう決意し、岩木は王宮へと向かった。
王宮に到着すると、岩木はすぐにシラユ隊長に呼び出された。
「岩木、お前に話がある」
シラユ隊長の表情は険しく、少し疲れたようにも見えた。
「黒ローブの指導者たちは、これから正式に取り調べが行われる。お前も記者として、ある程度の情報は共有するつもりだ」
「……ってことは、報道してもいいってことですか?」
「それはまだ分からん」
隊長は腕を組みながら続ける。
「お前にはこれまで数々の危険な取材を任せてきたが、今回の件は"王国の根幹"に関わる可能性がある」
「つまり、"おいそれと公開できる情報じゃない"ってことですか?」
シラユ隊長は黙って頷く。
「……だったら、その前に俺に"王国の記録庫"を見せてください」
「……何?」
岩木の言葉に、隊長の目が鋭く光る。
「記録庫には、"転生の秘密"に関する情報があるんじゃないですか?」
「誰からそれを聞いた?」
「……想像にお任せしますよ」
シラユ隊長はしばらく岩木を睨みつけた後、静かに息を吐いた。
「……お前、本当にどこまでも食い下がるな」
「記者なんで」
岩木は軽く肩をすくめる。
(ここで引いたら、記者の意味がない)
(俺は、この世界の"真実"を暴くためにここにいる)
「分かった」
シラユ隊長は静かに頷き、こう続けた。
「だが、記録庫は"機密"だ。自由に閲覧できるわけではない」
「なら、"閲覧できる範囲"でいいですよ」
「……お前、なんだかんだで図々しいな」
苦笑しながら、隊長は歩き出した。
「ついてこい。記録庫へ案内する」
シラユ隊長に案内され、岩木は王宮の奥へと進んだ。
やがて到着したのは、巨大な石造りの扉がそびえ立つ部屋。
「ここが、王国の記録庫だ」
隊長が扉に手をかざすと、魔法陣が浮かび上がり、ゆっくりと扉が開いていく。
ゴゴゴゴゴ……
「……これはまた、厳重ですね」
「当然だ。ここには王国の歴史、そして"公にはできない記録"が保管されている」
扉の奥へと進むと、中には無数の本棚が立ち並んでいた。
(まるで図書館みたいだな……)
しかし、普通の図書館と違うのは、その一冊一冊に魔法の封印が施されているという点だった。
「これ、勝手に読めないんですか?」
「ああ。"許可された者"以外は開けない仕組みになっている」
「俺は?」
「お前は特例だ。だが、"一部の記録"しか見せることはできない」
隊長は記録庫の奥へ進み、ある一冊の本を取り出した。
『異世界転生研究 ~ 封印の記録』
「……やっぱり、あるんですね」
「だが、これは"全て"ではない。王国上層部は、本当に危険な情報は別の場所に保管している可能性が高い」
岩木は息をのんだ。
(……それでも、ここに何かしらの"真実"が書かれているはずだ)
「読ませてもらいます」
岩木は慎重にページをめくり始めた。
記録には、こう書かれていた。
・かつて王国は、異世界転生の研究を行っていた。
・しかし、その研究はある理由で"封印"された。
・理由の一つは、"転生者が制御できない存在になり得る"という懸念。
・もう一つは――"転生者の中には、この世界の秩序を乱す者がいる" という事実。
「……"秩序を乱す"?」
岩木は眉をひそめる。
(まさか……さっきの転生者みたいな"化け物"が過去にもいたってことか?)
さらに記録を読み進めると――
・王国は、特定の転生者を"管理"していた。
・その中には、"特異な能力を持たない転生者"も存在していた。
・しかし、彼らの"記録"は後に抹消された――。
(特異な能力を持たない転生者……?)
(まるで、俺のことみたいじゃないか)
岩木の手が、自然と震えた。
(俺は、この世界に呼ばれたのか? それとも……"管理されている"のか?)
シラユ隊長が岩木の表情を見て、静かに言った。
「……お前は何を知りたかった?」
「"俺がなぜこの世界に転生したのか"――それが知りたかったんですよ」
岩木は、記録の最後の一文を見つめる。
『この世界に転生した者たちは、それぞれ"役割"を持っている。だが、それを決めるのは――"世界そのもの" である』
「……"世界そのもの"?」
隊長もその記述を見て、難しい顔をした。
「まるで、意志を持った何かが"転生者"を選んでいるみたいだな」
岩木は、強く本を閉じた。
(転生は、偶然ではなく必然……?)
(なら、俺は"何のため"にここにいるんだ?)