影響者と観測者...?
「また、いつかどこかでな」
そう言い残し、転生者は眩い光と共に姿を消した。
ゴォォォォッ……!!
光の余韻が収まり、静寂が戻る。
「……消えた?」
王国軍の兵士たちが呆然と立ち尽くす。
シラユ隊長も剣を握りしめたまま、しばらく動けなかった。
「奴はどこへ……?」
黒ローブの指導者も、戸惑いの色を隠せない。
しかし――
岩木の胸には、違和感だけが残っていた。
(……こいつ、絶対にまた現れる)
直感的に、そう確信していた。
転生者の"異常な力"と岩木の違和感
「……にしても、ありえねぇ……」
シラユ隊長が苦々しく呟いた。
「今まで戦ってきたどんな魔法使いとも違う、異常な力だった……。あんな存在が、この世界にもっといたら……」
王国軍の兵士たちも、それぞれに動揺を隠せなかった。
「おい、岩木」
不意に、セキさんがカメラを肩に担ぎながら話しかけてきた。
「お前も、あいつと同じく転生者なんだろ?」
「……まあ、そうだな」
「じゃあさ……なんで、お前は魔法も使えねぇし、力もねぇんだ?」
セキさんの言葉に、その場にいた全員の視線が岩木に集まった。
(……確かに)
岩木は、この世界に来てからずっと"普通"だった。
魔法も使えない。
身体能力が異常に向上することもない。
"特別な力"を授かったわけでもない。
(俺は"普通の記者"のまま、この世界にいる)
「それって、おかしくねぇか?」
セキさんは続ける。
「さっきの転生者は、来た瞬間から異常な力を持ってた。でもお前は違う。なんでなんだ?」
「……それは」
岩木は、何かが引っかかる感覚を覚えながらも、答えに詰まった。
(なぜ俺は、"普通"のままなのか?)
黒ローブの指導者の考察
「なるほどな……」
黒ローブの指導者が、興味深そうに呟いた。
「"力を持つ転生者"と、"力を持たない転生者"……なぜそんな違いが生まれるのか」
彼は静かに岩木を見つめる。
「……一つの仮説がある」
「仮説?」
岩木が聞き返すと、指導者はゆっくりと語り始めた。
「この世界の"異世界転生の法則"は、単純ではない。転生者によって、能力の発現が異なるのは確認されている」
「つまり、転生者の"種類"があるってことか?」
「そう考えるのが妥当だ」
黒ローブの指導者は、静かに言葉を続けた。
「"この世界に影響を与えるために転生した者"と、"この世界を観測するために転生した者"――」
岩木は息をのんだ。
「……観測するために?」
「お前は"記者"だろう?」
「……ああ」
「記者の役目とは何だ?」
岩木は無意識に答えた。
「……事実を記録し、伝えることだ」
「そうだ」
黒ローブの指導者は淡々と続ける。
「ならば、お前の役割は"この世界を記録し、後世に伝えること"なのではないか?」
「……っ」
岩木は、考え込んだ。
(この世界に来て、俺はずっと"記者"をやっている)
(魔法もない、戦う力もない。それでも、俺はこの世界の"真実"を記録し続けてきた)
「"観測者"の転生……?」
転生の法則とは?
「異世界転生には何か"法則"がある」
黒ローブの指導者は確信したように言った。
「我々は、それを解明するために研究を続けてきた」
「その結果、"転生者にはいくつかのパターンがある" という仮説が立てられた」
"影響者"(異世界に来て何かを変える者)
"観測者"(異世界の出来事を記録し、伝える者)
「……もしかすると、お前は"この世界の歴史を伝えるために" 転生したのかもしれないな」
岩木は、胸の奥に小さな衝撃を受けた。
(……俺は、この世界の"真実"を記録するために来た?)
(だから"力"を持たなかったのか?)
(でも、それなら……)
「その法則が本当にあるとしたら、"転生者は誰が決めているのか"?」
岩木は問いかけた。
「誰が、俺たちをこの世界に送っている?」
黒ローブの指導者は、その問いに対し、わずかに口元を歪めた。
「それを知るために、我々は研究を続けていた」
そして、こう続けた。
「そして、その研究を"封印"したのが、王国だ」
転生の謎と王国の関与
「……封印?」
岩木は眉をひそめた。
「王国は、"異世界転生の法則"を知っているというのか?」
「全てではないだろう」
黒ローブの指導者は静かに首を振る。
「しかし、何らかの"秘密"を隠している可能性は高い」
「だから、お前たちはその研究を続けていた……?」
「その通り」
岩木は、全身にゾクッとする感覚を覚えた。
(もしかして……王国は"転生の仕組み"を知っている?)
(それなら……俺が転生したことにも何か関係が?)
黒ローブの指導者は、最後にこう言った。
「お前が何者なのか――お前自身が一番知りたいのではないか?」
岩木は強く拳を握った。
(俺は、何者なのか)
(この世界に転生した理由とは?)
(そして、王国は"何を隠している"のか?)