転生者と転生者...!
王国軍の攻撃魔法は、すべて見えない壁のような力によって弾き返された。
「ははっ……まじか。俺、やっぱ強すぎるな」
転生者の男は無邪気に笑いながら、王国軍を見渡す。
「なっ……!?」
シラユ隊長は驚愕し、兵士たちも一歩後ずさる。
(これ、どうするんだよ……)
岩木はカメラを構えながらも、圧倒的な力の差に背筋が冷えるのを感じた。
(こいつは今、遊んでるだけだ。でも、本気を出されたら――)
そのときだった。
転生者の男がふと、岩木の方をじっと見つめた。
「……お前、さっき記者って言ってたよな?」
転生者はゆっくりと岩木へ歩み寄った。
王国軍の兵士たちが警戒するが、彼は気にせずに足を進める。
「……な、なんだ?」
岩木は咄嗟に身構える。
「別に、何もしねぇよ。ただ、お前に聞きたいことがある」
転生者は岩木の目をじっと見つめ、問いかけた。
「お前、もしかして……"あっち側" の人間か?」
その言葉に、岩木の心臓が大きく跳ねた。
(やっぱり……こいつ、俺と同じ"元の世界"から来たんだ)
しかし、ここでうかつに「そうだ」と答えるのは危険だった。
岩木は慎重に言葉を選びながら、口を開く。
「……そうだとしたら?」
転生者は口角を上げ、満足げに笑った。
「やっぱりな。お前の雰囲気、こっちの奴らと違うんだよ」
彼は軽く肩をすくめ、続ける。
「お前も転生してきたんだろ? じゃあ、聞かせてくれよ」
「……何を?」
「"なぜ、この世界に来たのか" ってことをさ」
岩木は息を呑んだ。
(なぜ、俺はこの世界に来たのか――?)
それはずっと考え続けていた疑問だった。
「……俺はわからない」
岩木は正直に答えた。
「気がついたら、こっちの世界にいて……ただ、なんとなく記者を続けているだけだ」
「なんとなく?」
転生者は小さく笑った。
「面白ぇな。お前は"流れに乗った"だけの転生者ってわけか」
「じゃあ、お前は違うのか?」
岩木が問い返すと、転生者の男はゆっくりと表情を引き締めた。
「……俺は"目的"を持ってる」
「目的?」
「そうだ。"何かを成し遂げるために" 俺は転生したんだ」
「それは……この世界を好き勝手にすることか?」
転生者はしばらく沈黙した後、フッと笑った。
「さてな。でも、せっかくこんな力を持ったんだぜ? 何もしないのはつまらねぇだろ」
岩木はギリッと歯を食いしばった。
(こいつは、"力"を持った自分が何をすべきかを探している……)
(でも、その方法が違う。このままじゃ……この世界はこいつの"実験場"になっちまう)
止める方法はあるのか?
「お前、本当にこの世界を壊す気か?」
岩木は覚悟を決め、転生者に向かって言い放った。
「俺は記者だ。お前が何をするか、この世界に伝えるつもりだ」
「へぇ……いいねぇ。じゃあ、ちゃんと見ておけよ」
転生者は手をかざし、再び強烈な魔力を放とうとする。
「くそっ……やっぱり、止められないのか!?」
王国軍が再び警戒態勢に入る。
しかし――
「待て!」
突然、廃屋の奥から低い声が響いた。
「……?」
転生者が手を止める。
岩木もその方向を振り返ると、そこには――
黒ローブの指導者が立っていた。
「我々の目的は、この世界を"破壊"することではない」
「は?」
転生者が怪訝そうに眉をひそめる。
「お前を"この世界に呼ぶ" ことが目的だった」
「それは知ってる。でも、俺は好きにしていいんだろ?」
黒ローブの指導者は深くため息をついた。
「……"好きにしていい" とは言ったが、"無秩序に暴れる" とは言っていない」
転生者は口を開きかけたが、ふと何かを思い出したように口をつぐんだ。
岩木はじっと様子をうかがう。
(黒ローブの指導者……この転生者を利用するつもりだったのか?)
(でも、それをコントロールできる自信はあったのか?)
(……いや、違う)
(この転生者は、彼らの想定を超える"力"を持ってしまったんだ)
「お前は"王国を倒すための力"として召喚された」
黒ローブの指導者が静かに語る。
「しかし、お前が制御できないのなら……"この計画" は見直さなければならない」
転生者はしばらく黙っていたが、やがてニヤリと笑った。
「なるほどな……」
そして、彼はゆっくりと空を見上げる。
「この世界って、案外つまらねぇな」
「……?」
「好きに暴れられると思ったのに、意外と面倒なことが多い」
そして――
ゴォォォォッ!!!
転生者の体が突然、光に包まれ始めた。
「おい……何をする気だ!?」
岩木が叫ぶ。
転生者はゆっくりとこちらを振り向き、最後にこう言った。
「また、いつかどこかでな」
そして――
光と共に、転生者の姿は消えた。