逃さない…!
王宮での報告が終わった後も、岩木の心はざわついていた。
異世界転生に関する研究は王国によって封印されたはずだった。だが、それを守ろうとする黒ローブの男たちの存在。
彼らは一体何を企んでいるのか?
そして、王国軍からの新たな情報――
「王都内で黒ローブの者たちの動きが確認された」
(彼らは、異世界転生の研究を復活させようとしているのか?)
もし、異世界転生が意図的に行えるようになれば――
この世界の秩序は崩れ、新たな戦争が始まるかもしれない。
「……とにかく、確かめるしかない」
岩木は、サラと共に黒ローブの動きを追う取材に乗り出すことを決意した。
王都の外れ、古びた路地。
ここは、商人や労働者が行き交う活気あるエリアとは違い、貧民が集まり、王国の監視が薄い場所だった。
「報告があったのは、この辺りね」
サラが小声で言いながら、周囲を見渡す。
王宮からの情報によれば、黒ローブの男たちはこの区域にある廃屋を拠点にしている可能性があるという。
「ここ、本当に何かあるのか?」
岩木は慎重に足を進めながら、通りに並ぶ建物を観察した。
どれも古びた家ばかりで、人の気配はほとんどない。
しかし――
「……あれを見ろ」
サラが指をさした先、路地の奥にある一軒の廃屋。
入り口には見慣れた黒いローブをまとった男が立っていた。
岩木とサラは身を潜めながら、慎重に様子を伺う。
男は辺りを警戒しながらも、時折、誰かを中へと招き入れている。
「間違いない……あの中で何かが行われている」
「どうする? 潜り込む?」
サラが岩木を見た。
(どうすべきか……)
正面から入れば、すぐに怪しまれる。
しかし、何が起こっているのか確かめなければならない。
「……裏口があるか見てみよう」
岩木はサラと共に廃屋の裏手に回り、慎重に隙間を探した。
すると、壁の一部に小さな通気口のような穴が開いているのを見つけた。
「ここから……中の声が聞こえそうだ」
二人は息を潜め、耳を近づける。
中では、数人の黒ローブの男たちが会話をしていた。
「計画は順調だ。研究データは我々の手元にある」
「だが、王国軍の監視が厳しくなってきている。報道局も動き始めたようだ」
「問題ない。我々はすでに、新たな転生の試み を準備している」
「……試み?」
岩木は聞こえた言葉に驚いた。
(まさか、異世界転生の実験を再開しようとしているのか?)
「次の転生対象はすでに決まっている。必要な魔力も確保した」
「では、予定通り明日の夜、実行する」
岩木はサラと顔を見合わせた。
(……奴ら、本気で異世界転生を実行するつもりだ!)
「サラ、これは大ニュースだ……」
「ええ、でも……どうするの?」
「止めなければならない」
突如として気づかれる
「……誰だ!」
突然、黒ローブの男の一人がこちらに向かってくる足音がした。
(まずい、気づかれた!?)
「逃げるわよ!」
サラが岩木の腕を引っ張る。
二人は素早く通気口から離れ、路地の影に身を隠した。
「……今のは?」
黒ローブの男が周囲を見渡すが、二人の姿は見えない。
「気のせいか……」
男はしばらく警戒した後、再び廃屋の中へ戻っていった。
岩木は静かに息を吐いた。
「危なかった……」
「でも、情報は手に入れたわね」
「そうだな。奴らは明日の夜、転生実験を行うつもりだ」
「つまり……それまでに、王国軍と報道局に知らせる必要がある」
岩木は大きく頷いた。
王宮に戻った岩木とサラは、すぐにシラユ隊長に報告を行った。
「……奴ら、本当に異世界転生の研究を再開するつもりか?」
「間違いありません。明日の夜に実行予定です」
シラユ隊長は険しい表情を見せた。
「すぐに陛下に報告する。王国軍も動くことになるだろう」
カイバ三世にも報告が伝わると、王は重々しく言った。
「異世界転生の研究が封印されたのは、この世界の秩序を守るためだった。それを掘り起こそうとする者がいるのならば……放ってはおけぬな」
彼は王国軍に命じた。
「明日の夜、王国軍をもって奴らの拠点を制圧する」
一方、岩木は報道局へ戻ると、ミカサデスクに情報を共有した。
「……つまり、明日の夜、王国軍が動くってことか?」
「はい。その瞬間を記録に残す必要があります」
ミカサデスクはしばらく考えた後、頷いた。
「よし。カメラ班を手配する。岩木くん、君は現場でリポートを頼む」
「了解しました」
(……これは、異世界転生の真実を知る大きなチャンスになる)
(絶対に逃せないスクープだ)