禁忌の扉…!
王国軍の護衛を受けながら、岩木とサラは王都へと戻った。
彼らは「封印の研究所」で異世界転生に関する極秘研究の記録を発見し、さらには黒ローブの男たちによる襲撃を受けた。
そして今、彼らはその一部始終を報告するために王宮へ向かっていた。
王宮へ到着すると、王国軍のシラユ隊長が岩木とサラを王のもとへと案内した。
「国王陛下、岩木記者とサラ記者をお連れしました」
謁見室の奥には、王国の統治者であるカイバ三世が座していた。
「よく戻ったな。封印された研究所へ赴くとは……危険な取材をしたものだ」
カイバ三世は興味深そうに二人を見つめる。
「お二人が持ち帰った報告……詳しく聞かせてもらおう」
岩木は一礼し、持ち帰った書類の束を広げた。
「この書類は、封印の研究所に残されていたものです。異世界転生に関する実験記録が記されており、王国が過去に異世界からの転生を研究していたことが明らかになりました」
カイバ三世は慎重に書類を手に取り、じっと目を通した。
「……この内容が事実ならば、我が王国は過去に禁忌を犯していたことになる」
彼の声には、わずかに苦々しさが滲んでいた。
「岩木記者、その研究の詳細を説明してくれるか?」
岩木は改めて書類を整理しながら、王とその側近たちに説明を始めた。
「王国は過去に異世界転生の実験を試みていました。しかし、研究は途中で封印されました。その理由は……」
・ 実験は成功せず、異世界からの完全な肉体転送は不可能だった。
・転生後の記憶保持率には個体差があり、意図的に記憶を消したり維持したりすることは困難だった。
・王国上層部の判断により、研究の継続は危険とみなされ、封印された。
「つまり、王国は異世界転生の方法を解明できなかった……ということか」
カイバ三世が静かに呟く。
岩木は頷いた。
「しかし、問題はそこではありません。研究所には"被験者" の記録もありました。異世界からの転生が本当に試みられていたことを示す記録です」
その言葉に、謁見室の空気が一気に張り詰めた。
「被験者……つまり、実際に異世界から人間がこの世界へ転生したということか?」
シラユ隊長が食い入るように尋ねる。
岩木は書類の中から、該当する部分を指し示した。
「はい。記録には“被験者No.07” という項目があります。しかし、その詳細はすべて消去されていました」
「……つまり、その被験者は何者なのか、現在はわからないということか」
カイバ三世は深く考え込む。
「もしかすると、彼は今もこの世界のどこかで生きているのかもしれませんね」
サラが呟くように言う。
「この研究が封印された理由は何だったのでしょうか?」
カイバ三世はしばらく沈黙した後、重々しく口を開いた。
「……かつて、王国の魔法学者たちは『異世界の知識』を得るために、この研究を推進していた。しかし、その研究が成功すれば、王国の秩序が崩壊する可能性があった」
彼は書類をじっと見つめたまま、静かに言葉を続けた。
「異世界の知識がもたらす影響は計り知れない。我々が制御できない力を呼び込む可能性もある。だからこそ、研究は封印されたのだ」
(なるほど……異世界転生がもし可能になれば、この世界の均衡が崩れてしまうかもしれないってことか)
「しかし、今回の件で気になるのは、黒ローブの男たちの存在です」
岩木は、研究所で遭遇した彼らについて報告した。
「彼らは異世界転生に関する研究を守ろうとしていたように見えました。彼らの目的は何だったのでしょうか?」
カイバ三世は重々しく頷いた。
「おそらく、研究を封印する際に王国から離反した者たちだろう。彼らは研究の真実を守るために影で動いていた可能性がある」
「でも、彼らが研究を守る目的は何なんでしょう? 王国が封印した研究を今さら掘り起こして何を……」
サラが疑問を投げかける。
カイバ三世は静かに目を閉じた。
「もしかすると、異世界転生の技術を再び利用しようとしているのかもしれない」
その言葉に、岩木はハッとする。
(まさか……異世界転生を利用し、何かを企んでいる?)
その瞬間、謁見室の扉が勢いよく開かれた。
「報告します!」
王国軍の兵士が駆け込んできた。
「先ほど、王都内で黒ローブの者たちの動きが確認されました!」
「……何?」
シラユ隊長の表情が険しくなる。
「彼らは街の外れにある廃屋に集まり、何かの準備をしている様子です!」
カイバ三世は沈黙し、ゆっくりと立ち上がった。
「王国軍に指示を出せ。彼らの動向を監視し、必要ならば制圧せよ」
「はっ!」
兵士はすぐに命令を伝えるために部屋を後にした。
岩木はサラと視線を交わし、確信した。
(黒ローブの男たちは、異世界転生の研究を復活させようとしている……?)
そして、それが本当に実現してしまったら、この世界はどうなるのか――。