闇に潜む危機…!
「……誰かいるのは分かっている」
低く響く声が、研究所内にこだました。
岩木とサラは息を潜めながら、扉の向こうに立つ謎の人物の気配を感じ取っていた。
(まずい……このままでは逃げ場がない)
足音が徐々に近づいてくる。
サラが小声で囁いた。
「どうする? ここで捕まったら絶対にやばいわよ」
「……様子を見るしかないな」
岩木は慎重に身を隠しながら、わずかに扉の隙間から外の様子を伺った。
そこには、フードを被った黒いローブ姿の男が立っていた。
「この施設に踏み入る者など、久しぶりだ……」
男はゆっくりと部屋を見渡し、まるで二人の居場所を探るかのように辺りを見回した。
(こいつ……この研究所のことを知っている?)
岩木は咄嗟に録画用の小型カメラをポケットから取り出し、そっと電源を入れた。
(証拠は残しておく……何が起こるかわからないからな)
サラはわずかにナイフを取り出し、いつでも動ける態勢を整えている。
しかし、男はしばらく沈黙した後、研究所の奥へと歩き去っていった。
「……今のうちに動くわよ」
サラが素早く合図を送り、二人は慎重に足音を消しながら廊下に出た。
研究所内の奥に進むと、一つだけ厳重に封印された扉があった。
「ここだけ、明らかに他と違うな」
岩木は扉をじっと見つめる。
「でも、どうやって開けるの? 鍵がないと無理でしょ」
「……そうでもない」
扉には魔法の封印が施されていたが、その表面には長年の劣化で細かいひびが入っていた。
「もしかして……力を込めれば、いける?」
「試してみる価値はあるな」
サラと岩木は力を合わせ、扉を押し開ける。
ゴゴゴ……
古びた扉は、鈍い音を立てて開いた。
扉の先には、意外にもまだ整理された状態の部屋が広がっていた。
机には古びたノートや文書が散乱している。
「この部屋……まるで、誰かが最近まで使っていたみたいね」
サラが慎重に辺りを見回しながら言う。
岩木は机の上に置かれたノートを手に取り、パラパラとめくった。
そこに書かれていたのは――
「異世界転生実験記録――被験者No.07」
(これは……!)
ページをめくるたびに、驚くべき情報が次々と飛び込んできた。
・実験の結果、意識転送には成功するが、肉体の転送は不可能。
・転生後の記憶保持率には個体差があり、意図的な操作は困難。
・研究所の封鎖に伴い、関係者および被験者の記録は抹消される。
「やっぱり……異世界転生は研究されていたのね」
サラがノートを覗き込みながら呟く。
「でも、"被験者" って……つまり、誰かが実際に転生したってこと?」
「その可能性があるな」
岩木はノートの最後のページを確認する。
「被験者No.07――記録消去」
「……消されてる」
「わざと記録を消したのか、それとも誰かが持ち出したのか……」
サラが怪訝そうに眉をひそめたその瞬間――
ガシャーン!!
研究所内の奥で、大きな物音が響いた。
「……っ! さっきの奴か?」
「急いでここを出るわよ!」
岩木とサラは、ノートと一部の書類を掴み、すぐに出口へ向かう。
しかし――
「待て」
廊下の先で、先ほどの黒ローブの男が立ちはだかっていた。
黒ローブの男との対峙
「お前たち……研究所の機密に触れたな」
男の声は冷たく、威圧感に満ちていた。
サラが低く構える。
「何者? あなた、この研究所の関係者?」
「質問に答える義務はない」
男は静かに手をかざすと、指先に魔力が集まり始めた。
「だが、お前たちはここで終わりだ」
(やばい……!)
岩木は反射的にカメラを構え、録画を続ける。
(こいつの正体を、記録に残さなければ)
男が詠唱を始める。
「サラ、伏せろ!」
岩木が叫ぶと同時に、男の手から 黒い魔法弾 が放たれた。
サラは瞬時に身を翻し、魔法弾を回避する。
「ったく……こんなことになるとはね」
サラはすぐに岩木の手を引き、出口へ向かって走る。
「逃がすか!」
男がさらに魔法を放つが、岩木とサラは物陰に飛び込みながら、ギリギリで回避する。
(まずい、このままじゃ……!)
「……外に出るしかない!」
岩木とサラは、どうにか研究所の出口までたどり着いた。
扉を開け放ち、外へ飛び出すと――
「待て! そいつらを捕えろ!」
廃墟の周囲には 数人の黒ローブの男たちが待ち構えていた。
「……囲まれてる?」
サラが息を呑む。
(これじゃ、逃げ道が――)
しかし、次の瞬間――
「そこまでだ!」
遠くから鋭い声が響いた。
視線を向けると、そこには――
王国軍のシラユ隊長率いる部隊が駆けつけていた。
「王国軍……!?」
黒ローブの男たちは驚き、一瞬だけ隙を見せた。
その隙を突き、シラユ隊長が鋭く命じる。
「確保しろ!」
王国軍が一斉に動き出し、黒ローブの男たちは応戦しながらも、徐々に押されていく。
岩木とサラはすかさずシラユ隊長のもとへ駆け寄る。
「助かった……!」
「詳細は後で聞かせてもらう。まずは退避するぞ!」
こうして、岩木とサラは王国軍の護衛を受けながら、研究所を後にした。
しかし、彼らはまだ知らなかった。
この研究の真実が、王国の未来を揺るがすことになることを――