ナルセの足跡を…!
岩木は資料室で見つけた手がかりをもとに、サラと共に王都北東にある「封印の研究所」へ向かう準備を進めていた。
そこは、10年前にナルセが最後に取材へ向かった場所。
異世界転生に関する研究が行われ、王国によって封印されたと言われる施設だ。
しかし、それが事実ならば、単なる廃墟ではない可能性が高い。
何かが隠されているはず――そう確信しながら、岩木はサラと共に王都を出発した。
馬車に揺られながら、岩木はサラと並んで座っていた。
「しかし、本当にこんな場所に研究所なんてあるの?」
サラは窓の外を眺めながら、やや懐疑的な様子を見せる。
「資料によれば、この場所は10年前に封鎖されたんだ。でも、その前は王国の魔法研究の拠点のひとつだったらしい」
「それってつまり、普通の建物じゃないってことよね?」
「まあ……そうなるな」
封印されるほどの研究所。
異世界転生に関する実験が行われていたとすれば、その痕跡が今も残っている可能性は十分にある。
「もし、本当に異世界転生が可能だったとしたら?」
サラが岩木の横顔をじっと見つめながら言った。
「あなた、どうするの?」
岩木は少しだけ考え込み、静かに答えた。
「……それでも俺は記者だ。知ったことを伝える。それだけだよ」
サラは小さく笑いながら、「らしいわね」と呟いた。
馬車を降り、目の前に広がるのは巨大な石造りの建物だった。
年月が経ち、壁のあちこちにはひびが入り、草木が絡みついている。
「うわぁ……いかにも“秘密がありそう”な雰囲気ね」
サラは腕を組みながら、半ば呆れたように言った。
「研究所っていうより、もはや遺跡じゃない?」
「それでも、ここに何かがあるはずだ」
岩木は慎重に歩みを進め、正面の扉に手をかけた。
「……鍵はかかってないな」
「逆に怖いんだけど」
サラが警戒しながら後ろをついてくる。
ギィ……
扉を押し開けると、そこは研究所というより、まるで時が止まった廃墟のようだった。
建物の内部は静寂に包まれ、空気は乾いていた。
「本当に誰もいないのね……」
サラが周囲を警戒しながら歩く。
廊下には埃が積もり、いくつかの部屋の扉は破損していた。
「10年前に封鎖されたってことは、それ以来誰も入ってないんだろうな」
「でも、重要な資料とかは処分されてるんじゃないの?」
「いや……それでも、何かしら痕跡は残っているはずだ」
岩木は慎重に周囲を観察しながら、奥の部屋へと進んだ。
しばらく探索していると、岩木は一つの部屋に目を留めた。
「実験記録室」
「ここ……絶対に何かある」
扉を押し開けると、中には棚が並び、古びた書類や記録が残されていた。
「残ってる……?」
サラが驚いた表情を浮かべる。
「普通なら全部処分されてそうなものなのに……」
「急に封鎖されたってことだろうな」
岩木は書類を手に取り、慎重に読み進めた。
『異世界からの召喚プロジェクト 研究報告書』
(やっぱり……異世界転生は研究されていたんだ)
・異世界からの意識転送に成功するも、肉体転送は未成功。
・転生後の記憶保持率には個体差があり、意図的な操作は困難。
・王国上層部の判断により、研究は封印。
「……これは、本当にとんでもない研究だったみたいね」
サラが書類を覗き込みながら言う。
「つまり、異世界から誰かを“呼ぶ”研究をしていたってこと?」
「そうだな。でも、実験は途中で止まったみたいだ」
そして、書類の最後には、こう記されていた。
『プロジェクトの封鎖に伴い、関係者の記録を抹消する』
(……これだ)
(この記録を調べていたから、ナルセさんは消されたんだ)
岩木は強く拳を握る。
「……っ、誰かいる!」
突然、研究所内にかすかな足音が響いた。
岩木とサラは反射的に身を潜める。
「嘘でしょ、こんな場所に?」
「誰かが後をつけてきたのか……?」
足音が近づいてくる。
そして、部屋の外で止まった。
コン、コン……
「……誰かいるのは分かっている」
低く響く声がした。
「資料を持ち帰るつもりか? それなら、お前たちはここで死ぬことになるぞ」
岩木とサラは息をのんだ。
(……ここには、まだ何かが隠されている)