両手に花…?
ミカサデスクからありがたい休暇をもらい、岩木は久しぶりに何もしない一日を過ごすつもりだった。
報道局に行かなくてもいい朝がこんなにも快適だとは…と布団の中で幸せをかみしめながら、もう少し寝ていようかと考えていた。
しかし、その平穏はすぐに破られることになる。
「岩木くーん! いるのー?」
ドンドンドンッ! と扉が勢いよく叩かれる音が響いた。
(……誰だよ、この朝っぱらから)
岩木は寝ぼけ眼のまま、のろのろと起き上がり、玄関の扉を開けると――そこにはサラが仁王立ちしていた。
「……おはようございます?」
「おはようじゃないわよ! せっかくの休みだから、どこか遊びに行こうと思って来てあげたのよ!」
「……休みだからこそ、ゆっくりしたかったんですけどね」
「そんなのもったいないわ! ほら、さっさと着替えて!」
「いや、まだ心の準備が…」
「ないなら準備するの! じゃあ、30分後に迎えに来るからね!」
サラは有無を言わせぬ勢いで去っていった。
(休みって、こんなに忙しかったっけ…)
岩木はため息をつきながら、渋々支度を始めた。
サラとの約束通りに支度を済ませ、玄関で待っていると――今度は別の客が現れた。
「岩木くん、おはよう!」
「……モリヒナさん?」
目の前に立っていたのは、猫耳と尻尾のついた獣人のモリヒナだった。
「休みって聞いたから、たまには一緒にお茶でもどうかなって思って」
「……あの、ちょっと待ってください。これからサラと出かけることになったんですが…」
「え? そうなの?」
「あ、でもまだ行き先決まってないんですよ。だから、もしかしたらモリヒナさんと…」
「なら、私も一緒に行こうかな!」
「……えっ?」
そうこうしているうちに、サラが戻ってきた。
「岩木くん、準備できた? ……って、なんでモリヒナがいるのよ!」
「それはこっちのセリフだわ。岩木くんとお茶でもしようと思って来たのに、先約があるなんて聞いてないわよ」
「そんなの関係ないでしょ! だいたい、私が最初に誘ったんだから!」
「でも、岩木くんはお茶が好きよね?」
「そ、それは…」
(これ、絶対に巻き込まれたパターンだ)
岩木は状況を理解しながら、静かに逃げる手段を考えた。しかし、その隙を与えないまま、サラとモリヒナは睨み合いながら言い合っている。
「じゃあ、岩木くんに決めてもらいましょう!」
「そうね! どっちと行くのか、はっきりさせてもらうわ!」
(……なんでこんなことになってるんだろう)
結局、岩木がどちらかを選べるはずもなく、サラとモリヒナの提案により「三人で一緒に出かける」ことになった。
王都エルダンの街を歩く岩木、サラ、モリヒナ。平和な休日を過ごすはずが、結局賑やかな一日になってしまった。
「せっかくだし、カフェにでも行こうか?」とモリヒナが提案すれば、
「はぁ? せっかくなんだから、もっとアクティブに遊ぶべきでしょ!」とサラが反論する。
「じゃあ、どっちも行けばいいんじゃないですか…?」
「……それもそうね」
「……まあ、妥協してあげるわ」
こうして、カフェでお茶を楽しんだ後、公園で遊ぶという謎のプランが決まった。
カフェでは、モリヒナが「これ、美味しいわよ」と勧めたスイーツを岩木が食べさせられ、
公園では、サラが「遊びも大事よ!」と無理やり岩木をアクティブな遊びに巻き込んだ。
「岩木くん、こうやって休みを楽しく過ごせたんだから、感謝してよね!」
「……まあ、意外と楽しかったですよ」
「でしょ!」
「うん、私も楽しかったわ」
夕暮れの街を歩きながら、三人は穏やかな時間を過ごしていた。
結局、朝から夕方までずっと動き回ることになり、家に帰った頃にはすっかり疲れ果てていた。
「……休暇とは…?」
布団に倒れ込んだ岩木は、次こそ本当に何もしない休みを過ごすことを心に誓った――。