異世界のテレビ局…?
目が覚めると、私は見知らぬ街に立っていた。
目の前には巨大な時計塔、その隣にそびえ立つガラス張りのビル。
その建物の正面には、金色の文字で「エルドラ・ヴィジョン・テレビ」と書かれている。
現代的な「テレビ」という単語が、明らかにファンタジー風の建物に違和感を与えていた。
「……ここはどこだ?」
つぶやきながら、自分の胸元に目をやる。
そこには見覚えのないIDカードがぶら下がっていた。
「エルドラ・ヴィジョン・テレビ 記者:岩木レン」と書かれている。
「記者? 俺が?」
そうだ、俺は記者だった。
でも、実際には仕事らしい仕事はしていなかった。
現代のテレビ局では、取材の仕事を避けてはサボり、机に向かうふりをしてスマホでゲームをしていた。
上司にも何度か注意されたが、適当な言い訳をしては切り抜ける日々だった。それでもクビにならなかったのは、局に何人かは「やる気のない社員」がいるのが普通だからだ。
だが、そのサボり癖が原因で最悪の日を迎えることになった。
あの日、報道局内は取材で人手不足だったが、俺はいつものようにオフィスの隅でこっそり昼寝をしていた。
ところが、その時、局内に急報が飛び込んできた。
なんと、局近くで突発的な殺人事件が発生したという。だが、他の記者たちは外出しており、対応できる人間が俺しかいなかった。
「なんで俺が行かなきゃならないんだよ……」
嫌々ながらも、上司に促される形で現場に向かった。
現場は殺伐とした空気に包まれていて、警察が近くを封鎖していた。さっさと取材を終わらせて帰るつもりだったが、運命はそれを許さなかった。
突然、群衆の中から犯人が姿を現し、俺を標的にしてきた。刃物を手にした犯人は、気づく間もなく俺に襲いかかり、その場で刺されてしまった。
「こんなことで死ぬのかよ……」
薄れゆく意識の中で、俺は自分の運の悪さを呪った。サボり続けていた俺が、こんな形で取材を強制され、挙句の果てに命まで落とすことになるなんて。
――しかし、気がつけば、俺はここに立っていた。まったく知らない街、まったく知らない世界に。そして「エルドラ・ヴィジョン・テレビ」なる異世界のテレビ局の記者として。