不滅の恋情
太古の昔…天界の神々が二軍に分かれこの世の覇権を賭けて大戦争を繰り広げた。その戦火は瞬く間にあらゆる場所に広がり多くの神々が命を落とし、地上に堕ちた。天界へ帰ることを許されなかった彼らの魂は地上の万物と融合した。そしてかつての敗戦勢力の1柱である愛の女神エロスは神々を誘惑し天界を混乱に陥れることで反乱を起こそうとするが天界から追放され地上に堕とされる。彼女は地上の支配者、人間を利用し天界へ戻るためその美貌で彼らを誘惑。神との結婚はすなわちこの世の征服を約束するもの、世界中の男たちが彼女を求めて争った。
「どうだ、何か分かったか?」「ああ、分かりそうではある。」どこもかしこも本で囲まれた大図書館。二人の男含め多くの学者が古文書を漁っている。「熱い恋を約束する…不滅の恋情ブレイズリング、本当に存在すると?」「さあな、所詮は女神の戯言かもしれん。が、賭けてみるのも悪くない。陛下がお喜びになればいいのだ。モンタム、その本も取ってきなさい。」「え、どれですか?」「それそれ、あー違う!右!そして左!45度回って!5度違う!そう、そこ!それだ!」「全く…素晴らしい人使いだな。ん?おいバッターロ!」その時、デジットが何かを見つける。「太陽神ソル…まさか我が国に…」
ヴェッセラル帝国 主要都市ラフルート。「違う。」「ワルカ・ストマーサ(ストーム)、この豊潤の石を盗んだな?」「違うって!」「白状したまえ!」「ちょっと待ってくれ、本当のことを言って信じてもらえないのならどうすりゃいいんだい?」「それではこの金塊は?」「ぬ、盗んだ。」「よろしい。」ラフルートの法廷で裁かれているのはストームの名を轟かせた世界的な大盗賊、ワルカ。「ミス・ルバルフェン、当時の状況を。」「は、は、は、はい…こ、こわ、怖かったです…う」「お母さん、昨日の男の人誰〜?」「お黙り!」「窃盗罪、脅迫罪、不法侵入罪、その他諸々、あらゆる悪行は到底見過ごせるものでは無い。ご婦人も非常に苦しい思いを…」「盗みに入った時抱かれてたぞ?」「コホン…被告人を死刑に処する!」「ま、マジ?」この判決に対しホールには歓声が巻き起こった。「Foooooooooooooo!!!!!」「いいぞいいぞ!盗賊なんてギロチンしちまええええええい!」
「オラ!ここに入っとけ!」「看守さん、俺と取引しねえか?今逃げるの手伝ってくれたら500万パル、いや5000万パル払おう。」「ほう、いつだ?」「ちょっと集めるのに時間かかるから5年後なんて…どうだ?」「ハッハッハッハッハ、豚箱にようこそ。」ドガッ!「グフォッ!?」
3日後「あー、畜生あのババア。」「おい、隣の房のやつうるせえぞ。」「当たり前だ、ババアの醜いプレイ見せられた挙句斬首刑だ。ルバルフェンの奴、その上しっかりと法廷に出てきやがって…あることないことぺちゃらくちゃら。」「ハッ笑、そりゃあ毒だったな。」「終いには泣き出して裁判はむちゃくちゃだ。意味が分からないね。」「てかあんたストームだろ?あの最恐の盗賊と恐れられる…」「そんな伝説のあんたがこんなしょうもねえ理由で牢獄行きか、こりゃあ傑作だぜ。お前の首しっかり見てやるからよ。」「黙って見てろ。天才盗賊ワルカ・ストマーサ…こんなところで終わるわけないだろう。あっという間に脱獄してみせるさ。」とはいえ死刑執行はもう明日に迫っている、残された時間は少なかった。
ヴェッセラル帝国 王城。「陛下、お呼びでしょうか。」「はて、なんじゃったかの?まあとりあえずお前もたらふく食え。今食事の時間だったのじゃ。ボケが進行している、わけのわからない返答に頭をハテナにしているのはゼクレルツ・オーブ(セクラーツ)という男だった。「エロスの話と伺いましたが?」「そうじゃタコス!」「ハァ…すまんなセクラーツ、陛下に変わって話そう。今回お前を呼び出したのは他でもない。不滅の恋情について、だ。」間に割って入ってきたのは大臣ブーデン・ジュキュラティズ。「なるほど、ブレイズリングか。」「隣国リュレフがその在処を特定したと知らせが届いた。愛の女神エロスが結婚条件に求む7つの大秘宝の1つ…不滅の恋情。その炎は永久不滅、世界が終わるその瞬間まで万物を焼き尽くす、そんなものがリュレフにわたるなどおぞましいったらありゃせん。」「ジュキュラティズよ、愛する人でもできたんか?」「愚者は黙っておられよ。不滅の恋情はこのヴェッセラル帝国のもの。そこでだ、我々は何としてでもリュレフに先を越される訳にはいかん。お前にはその在処を掴んできてもらいたい。報酬ははずもう。」「へぇー…しかし納得できねえですね。俺が、かの大盗賊、セクラーツであることをお忘れで?そもそもそれは俺の成果だ、ブレイズリングは俺の手に渡るのが普通でしょう?」「勘違いをするなよ糞悪党。」「…随分だな。」「この世の汚物、我々はお前を殺そうと思えばいつでも殺すことはできる、今この瞬間も私が手を上げるだけで兵隊は首を刎ねれるのだ。利用しているだけにすぎない。同等の立場だと思うな。」「それだったら今すぐ殺してみろ、俺はいいぜ?ただあんたらはリュレフにブレイズリングを奪われエロスに振られてこの世界に居場所はなくなる。」「………。」
ブーデンとの交渉を終えたゼクレルツは彼の右腕、ジジョーロ(ジゴロー)と帰路についていた。「セクラーツさんすげえっすね!」「ま、はずんだ報酬のさらに3倍なら俺もやる価値はあるな。ジュキュラティズの奴、見た目の割にちょろいぞ。」「まあでも、ブレイズリングはこの世界を征服できる程の力があります、奴からすれば3倍もどうってことねえでしょう。」「盗賊との契約など無いに等しい。ブレイズリングを手にするのも最終的には俺だ。あんなジジイ上手く騙してやるさ。」
「とは言ったものの…だ。どうすりゃあいい?リュレフにはあまり行ったことがない故土地勘がねえ。」「酒で身体を洗い流すのは気持ちいいですね〜!!!」「金なら腐るほどあるからな。この任務を達成すればさらにどでかい報酬が入る、俺も城の1つや2つ立ててみるか?」「城と言えば、王城地下監獄に先日ストームが入居したらしいっす。奴は確かリュレフ出身、接触すれば何か掴めるかも知れませんぜ?」「なるほど、明日死刑執行だったよな?それなら急がねえと。」
王城地下監獄「…へえ、事情はよく分かった。」「そうか、話がわかる奴は好きだぜ。そんじゃあ早速、知ってることを話してもらおう。」「忘れた。」「んだとてめえゴラァ!!!」「ハッハッハ、まぁ落ち着けジゴロー笑。」そう言うと奴は檻の隙間からワルカの胸ぐらを掴み一気に引き寄せると鉄鋼かぎ爪を首に当てた。「若造、つまらないことを言うもんじゃない笑。さ、早く喋るんだ。」「全く、ここの奴はなんで信じねえんだか笑。裁判でもそうだ、本当のことを言ってんのにそれが嘘と言われたらどうすりゃあいい?リュレフにいたのはもう随分昔だ。それこそこの目でまた見ないと思い出さないだろうなあ。」「ハッ笑、なるほどつまりお前はここから出してほしいってか、あ?」「言っとくがリュレフにマジで何も知らねえ奴が行ったところで無駄だ。大盗賊セクラーツ…どうせこの辺でしか名を挙げてねえんだろ?ガイドもなしに蛙が大海に出るのは厳しいぜ。」「てめぇ…セクラーツさんに向かって…!こいつぶっ殺します!」その時ジジョーロが斧をワルカへ向けるも「下ろせ。」なんとゼクレルツはこれを下げた。「いいだろう、てめぇの条件呑んでやる。天才盗賊ストーム…そんな身でありながらラフルートの民衆のズッコンバッコン見た興奮罪で起訴され、」「言うなって。」「ついでに1400万パル程の金品を盗み斬首刑と言い渡された…卑しくも馬鹿で哀れな男だ。だが、世界征服レベルのものを奪取するためだ、お前の解放も陛下は快くOKしてくださるだろう。」「よし、じゃあこの交渉は成立だ。話の分かる奴は好きだぜセクラーツさんよ。」「…ああ笑、それほどでもない。」そうして2人は握手を交わした。
次の日、ワルカとゼクレルツは皇帝へ挨拶に来た。「おい皇帝陛下、あんたに預けていた俺の荷物は?」「陛下に向かってなんだその口の利き方は!?必ず良い報告を持ってこい!そうでなければ承知せんぞ!」ワルカのあまりの無礼にジュキュラティズは怒り心頭だった。「ほら、これだ。いいかワルカもう一度確認するぞ。今回の俺たちの目的はあくまでもブレイズリングの在処を掴むことだ。それが分かったらすぐにヴェッセラルに知らせる。」「なるほど、最後は軍隊が動く。お決まりのパターンだ。それにしても、あのじじいすげえ老けてたぞ。あんな奴が仮に全部集めたとしてもエロスが結婚を承諾すると思えないがな笑。」「正確にはジュキュラティズだ。表向きには王に忠誠を誓っちゃあいるがどっかでその座を奪いたいと思ってやがる。結局奴も"同じ人間"ってことだ。」「へぇ、それなら納得だ。」
2人は歩きながら作戦を練っていた。「だがリュレフの奴らはどうやって在処を掴んだ?ブレイズリングは7つの秘宝の1つ。探すのは至難の業だ。」「知らね。」「在処を掴むっつっても俺とワルカとジゴローだけってのはさすがに無茶だ。もっと仲間がほしいだろうよ?」「そうかもな。」「リュレフがどこまで今進行しているのか分からねえ。それも調べる必要があ…」「おう。」「真面目に探す気あんのかてめえ!」流石のゼクレルツもこの返事にはぶちギレたようだ。「そうだなぁ笑、牢屋から抜け出すっていう俺の目的はもう達成した、荷物も取り返した。もうあんたと仲良しこよしするメリットは無い。」「なるほどなワルカ、盗賊に契約なんてないってか。」「あの契約はお前を殺せばなかったも同然になる。あと…そのブレイズリングは俺が頂く。」次の瞬間ワルカが一気に短剣と銃を引き抜く。「いいじゃねえか、ちょうど俺も上下はっきりさせたいと思ってたところだ…ストーム、お前をこれで黙らせたらもう誰も俺には逆らえねえ。」合わせてゼクレルツも鉄鋼かぎ爪を装備する。「ああ、できたらの話だけどな。」初手はワルカ。ドン!直後飛んだのは凄まじい早撃ち。「当たったらいいなあ。」だがゼクレルツは顔色一つ変えずにそれを避けてみせた。そして一瞬で間合いを詰めると鉄鋼かぎ爪でワルカへ切りかかった。「オルァアアアアア!」そして激しい斬り合いへと発展。互いに天才盗賊、その乱闘はほぼ互角。しかし徐々にワルカが押されていく。「…おっと、なかなかやるな(爪撃が激しすぎる…防戦一方になっちまった。)。」そう数ある武器の中でも鉄鋼かぎ爪は比較的コンパクトかつ機動力、小回りに長ける。さらにそれを扱う者の力量が凄まじい、まさに斬撃の嵐だ。接近戦最強、そう言っていいレベルだろう。「ならば趣向を変えようじゃねえか。」ワルカは斬り合いの中で煙玉を取り出すとそれを床に投げつけた。たちまち辺りは白煙に包まれる。タタタタッ!そんな中でワルカが選択したのはなんと逃亡。「悪ぃな、無益な殺生は好まねえんだ!」「残念だが俺は好きだ!」「おー怖い。」当然ゼクレルツはそれを追いかけた。追跡しているうちに辿り着いたのはラフルート中央町の酒場。「おいストーム!ここにいるんだろ!」その扉を蹴破ってゼクレルツとジジョーロが入ってくるもそこにはワルカの姿は見当たらない。「匿ってんのかてめぇら!?」「黙ってろジゴロー、ここにいることは分かってる。早く出てこいや、それとも怖気付いちまったか?天下の悪党がこれじゃあ聞いて呆れるぜ!?」すると突然固定する紐が切られたのか積み上げられた酒樽が雪崩のごとく降ってきた。【な、なんだあああああ!!!】それはあっという間に客を飲み込み、店内を荒れさせ混乱に陥れた。さらに天井のシャンデリアも切られ ドゴッ!「ウゴプッ!?」ジジョーロの頭に直撃。彼はその一撃で早くもKO。混沌と化した店内、それに乗じた客共は酒瓶やジョッキを持つと勢いのままに殴り合いを始めた。【ワアアアアアアア!!!】「くそ!邪魔だどけ!」ゼクレルツも殴りかかってくる奴らを返り討ちすることに躍起になっている。その隙を彼は決して逃さなかった。「次はどいつだ!ぶっ殺してやる!」シュッ!「!?」「完璧なポジションだなゼクレルツ、これで少しでも刃を引けばあんたの首は血の海に沈む。」「…ハッ笑、なるほど。あえて混乱を引き起こして隙を作らせるか、天晴れだ。だが下を見てみろ。」「ん?………!?」一方のゼクレルツも降参したように見せかけてゆっくりと鉄鋼かぎ爪を移動させていた。「せーので引くか笑?」「いや、遠慮しとく。」「なら、分かるな?」「はぁ、あんたからは逃げられそうもない。そこまで言うなら仕方ねえな。」
ヴェッセラル ラフルート離町 フェイトの酒場。「繁栄の町ラフルート、そこでも俺らの狙いは変わらなかった。愚民共から金品を奪い、抵抗する奴は皆殺し、女は酒に沈ませる。そして沈んだ女の上で快楽に浸る…誰もがそれを望んでた。ところが、ラフルートはそんな俺たちを本気で潰そうとした。次々と粛清される盗賊、逃げのびた奴らは離れに自分たちで汚ねえ町を造った。それがここだ。」「フェイトの酒場か…確かに飲み直したかった。いい提案だゼクレルツ。」そしてジジョーロが扉を豪快に開いた。「お前ら!元気にしてたかあああ!?」賑やかな店内…しかしそれも彼の叫びが響き渡るまでだった。「セクラーツ…ここには来るなと言ったはずだ。」「ほう、そりゃなぜだ。」「俺たちはあんたをもう信用してねえからだ!ここら一帯恐怖のどん底に陥れた、あの大盗賊セクラーツ…奴は一体どこいっちまったんだ?」「確か今はヴェッセラル皇帝に媚び売って惨めに生きながらえてるド畜生だったよなあお前。俺たちを裏切って毎日高級酒か、ご機嫌なこったなあ?」「セクラーツ…お前の席にはこの俺が座った。お前の居場所はもうねえぜ?酒が不味くなる、死にたくなかったらこっから今すぐ消えろや。」だがそれに対してゼクレルツが見せたのは嘲笑だった。「サトゥハイス…どうやら、勘違いしてるみてえだ…。」ドン!次の瞬間、目で追いつけないほどの速度で彼は銃を抜きサトゥハイスの眉間を撃ち抜いた。「ガ……ガガ」「ハッ笑、これで席は空いたな。」「何すんだ!?」「てめぇ死にてえのか!」すぐさま他の奴らはそれぞれの得物に手をかけ戦闘態勢を取ろうとしたが「まぁ待て、俺は別にお前らと殺し合いしたいわけじゃねえ。特別な話を持ってきた。それを聞いてからでも俺を殺すのは遅くねえだろ?ま、無理だろうが。」【…!】殺意をむき出しに睨みつける盗賊たち…しかしゼクレルツは一切の怯みも見せなかった。「とりあえず、酒だ。」
「何、不滅の恋情を?」「そうだ、お前らも知ってるだろ?神々を誘惑し地上に堕とされた愛の女神エロス…そいつを抱いた奴はこの世界の覇者になれる。だがそれを叶えるには条件があり、指定された7つの秘宝を見つける。そのうちの一つだ。その在処をリュレフが見つけたって聞いたらよジュキュラティズの奴、めっちゃ焦ってたぜ。」「ハッハッハ!あの腹黒野郎、やっぱり狙ってやがったか!」「だがあいつに覇者になられたらボケ王よりめんどくせえな笑!」「違いねえ!」「でだ、ヴェッセラルはリュレフよりも先にそいつを獲る必要がある。俺もそれに協力しろって言われてんだ。だがここでだぞ?俺がジュキュラティズを裏切りブレイズリングを手にすれば誰も逆らえねえ。一生遊んで呆けてられる。つまらねえ奴らに仕えるのももうやめだ。どうだ、俺に協力しねえか?そしたらお前たちも一生女を好き放題にできる。酒も死ぬまで飲める。」それを聞いた直後、【ウオオオオオオオオオオ!!!】酒場全体にドッと歓声が巻き起こった。「それ気に入った!」「いいじゃねえか!やっぱアンタ最高だ!」さらに盗賊たちの興奮は冷めやらない。「しかもあんた、世界的に名の知れたあのストームか!」「ああ、よろしくな。」「マジか!セクラーツにストーム、豪華だなおい!」こうしてゼクレルツの下についていた盗賊25人が戻り、勢力は回復。そしていよいよワルカたちは不滅の恋情、ブレイズリングを求めて出発した。
読んでくれてありがとうございます!不定期投稿で文章も拙いところが多いと思いますが日々精進していくので楽しみにしていてください!