占い
時計の短針は1を指している。
僕はそっと抜け出した。
パジャマの上からパーカーを着る。
スニーカーを履いて、音を立てないように外に出る。
平野上医院はそんなに遠くない。
夜なのに無駄に暑い。
暗闇を走って、走って、医院の前についた。
見てみると想像以上にボロボロだ。
壁は一部剥がれているし、電気は通ってないだろう。
正直怖い。が、行かざるを得ない。
僕はそっとドアを開けた。
ため息一つ。
(…はあ…なんでこうなったんだっけ?)
昨日のことだ。
「なあ、聞いたか?あの噂。」
「何?」
「あの平野上医院の化け物の話。」
「知らない。」
「はあ?本当に噂に疎いやつだな。」
朝早々。葉風にそう詰められる。
僕はあまり興味もなさそうに聞き返す。
「ぱあるさんのことは知ってるだろ?」
ぱあるというのは彼らの街では有名な占い師のこと。
これは僕ですらも知っているレベルの有名人だ。
最近じゃテレビとかにも出ていたりする。
「で?そのぱあるさんがどうしたの?」
「彼の次の予言が、「これ」なんだってさ!」
そう言ってスマホを見せてくる。
「えーと、…旧平野上医院にもうじき化け物が出るでしょう。
三つの頭と六本の足を持っています。
周辺地域の方は近づかないようにしてください。
…なるほど。それで?」
「今日の放課後行ってみようと思う。」
「アホなの?」
「アホじゃねーし。」
僕は心底呆れた。
(大体旧平野上医院ってもう廃業したじゃないか。
そんなところに勝手に入るなんて…)
旧平野上医院といえば、もともと怪しい噂ばかりだ。
「ま、お前はそういうと思ったよ。
もし俺らになんかあったらお前にすぐ連絡するから、そんときゃ助けに来てくれよー!」
「…あ、ねえ…!」
と呼び止めたが、もう遅い。
彼はとうにどこかに行ってしまった。
(…俺ら?)
見ると、葉風の隣に2人いる。
彼らといくつもりだろうか?
(…。)
そして今日。
葉風は来なかった。
彼についていた2人もだ。
ぱある、という占い師について少し調べると、金髪の怪しい男が出てくる。
「なんだこいつ…」
と思いながらスマホをいじっていると、不在着信が一見きていることに気がついた。
葉風からだ。
つーと汗が頬を伝っているのがわかる。
僕はスマホの電源を落とした。
…ということがあった。
僕はそっと懐中電灯をつけ、中を照らした。
まだ病院だった頃の面影が少し残っている。
カビの生えた椅子…水漏れしている水道管…。
音がない。
(無音室の中でさえ、自身の心臓の音が聞こえるのに…)
ここでは本当に、なんの音も聞こえない。
胸に手を当てる。心臓は動いている。
はーっとため息をつく。
その時。
ベリっ。
…あ?
みると、葉風の顔が床を突き破ってのぞいている。
「…葉風!?お、お前…どうしたんだ!?」
僕は彼に駆け寄った。
その時。
メキメキメキメキッ。
「…………?。」
葉風の顔がどんどん上に上がっていく。
僕はただ茫然とそこに立っていた。
「…おお。ああ。はい?」
自分でも意味がわからないことを口走る。
仕方がない。
目の前の葉風だったものは、キリンみたいな姿をしている。
ただ頭が三つあり、また足が六本あるという点で、絶望的に動物園のそれとはかけ離れている。
僕は一瞬止まっていた。
が、すぐにもうダッシュして逃げ出した。
後ろからすごい勢いで追いかけてくる。
もうすぐ出口ーというところで。
「…!?」
人影が見える。
「ちょ、どいてください!」
僕は言い、そのままドアを通ろうとした。
が。
がんっ!
僕は思い切りぶん殴られ、その場に崩れた。
「…痛っ…」
その男の顔を見ると。
ぱあるだった。
何かをかけられる。
意識が、遠のいていく。
読んでくださってありがとうございました。