四章第七話 黒虎と狐
本日17時10分より八話投稿致しますので宜しくお願いします。
一方その頃のヴラム一行。
一行はセントラル駅に到着して地下鉄を降りていった。ベルは少し名残惜しげだ。いつの間にやら海洋汚染に対する怒りも忘れてきているようである。
駅から出るとすぐ目の前にビルが立ち並び中央には真っ白な一際目立つ他のビルよりずっと高いビルが建っていた。
ビルにかけられた看板の絵は動いていて大きなキツネの獣人の顔が動いている。
「でっかいね…中央にあるって事はこれがこの町のシンボルなのかな?」
「首痛いですぅ…」
エーデルが手を目の上に掲げながら見上げている。ベルは首を痛めながらもプルプル震えながら見つめている。
「あの狐の人は?」
「んー?ハチちゃんの持ってきたパンフに載ってる市長さんみたいよ?
ほら写真」
マギリカはパンフの一部に指を刺してシュリに見せる。写真に都市の説明や意気込み、そして名前"ゾロ・ヤオロシ"と書かれている。
「随分目立ちたがり屋のようだな。市長を芸能人か何かと勘違いしておるのか?」
「…」
ヴラムが皮肉混じりに吐き捨てる。その横でハチはただそのゾロの顔をじっと見つめていた。そんなハチに何事かとベルが声をかける。
「どうしたんですか?ハチさん」
「ん?何でもないにゃん。それより地図によるとここを真っ直ぐいくと警備隊本部みたいにゃん!早速行くのにゃん!」
しかしハチはすぐにはぐらかしてそのまま真っ直ぐ警備隊本部へ向かった。他のメンバーは呆気に取られながらも少し遅れてついていった。
その頃
「失礼しますよ。先生」
「何か用かゾロ」
先程一行が話していたグラシルド市長のゾロがとある部屋の一室にやってきた。
その部屋には黒虎の獣人が一人椅子に座っていた。獣人は男性である。その顔立ちはとある人物ととてもよく似ていた。
「すみません実は例の薬なんですけど…」
「…少し待て」
黒虎は懐から白い錠剤の入った小瓶を取り出して一粒出して口に入れた。
そして傍にあったコップの水を口に含み嚥下するとゾロの方に向き直った。
「いいぞ」
「は…はいぃ失礼いたします!いやぁ先生がお持ち頂いた液体!ありゃあ中々の代物ですねぇ!いやはや!」
「御託はいい。要件を言え」
ゾロのあからさまなごまスリに黒虎は苛立ち始めた。
まるでどっかの団の副団長の様である。因みにお互い面識があるし交流もある。
黒虎が苛立っているのを察したゾロは少し顔を引き攣らせたがすぐににやけ顔に戻った。
「はいはい!失礼いたしました!いやぁ実はですね?"ゲン先生"のお申し付け通りに、あの赤い蜜を使用して"体質変換薬"!完成致しましたのでお納め下さい」
するとゾロは高級そうな木箱をゲンと呼ばれた黒虎に渡した。ゲンが渡された木箱を開くとそこには赤っぽい透明な液体の入った瓶が入っていた。
「ほお…それで?要件はそれだけじゃないだろ?」
「ひひひ…察しが良いようで…いやぁ実はですね?先生がくださいましたあの赤い蜜なのですがね?
一人…試薬と称して呼び集めた草食動物どもへ飲ませた所…ある事が判明したもので…」
ゾロは下卑た笑みを浮かべて上機嫌だ。ゲンは眉を顰めた。
「ある事?」
「はいぃ!あの赤い液体。先生のおっしゃいました通り確かに魔力の塊でした。そして何と!試薬した奴の中で魔法を発現させた奴がいたのです!
これは歴史的ですぞ!我々獣人族の時代がやってきたもどうぜ…」
しかしゲンはそんなゾロの目の前で掌から薄い緑の魔法陣を展開させた。そこからメキメキと音を立てて小さな木が生えてきた。
「悪いが…それは俺も知っている」
「…え?」
ゾロは冷や汗を流してその様子を見つめる。ゾロ的にはこの情報で情報料を逆にふんだくる気でいた。
しかしそんな効果がある事はゲンはとっくに知っている。
強すぎる魔力の塊。それは非魔法適正種族の体に影響し、新たな進化を遂げる。
まるで人間族から勇者という存在が現れたように…。
「そんな事は当に知っている。俺はもう数えきれないくらいにこの蜜を飲んでいる。
何しろ魔法の動力源である魔力を摂取しているのだからな。
魔法で消費できなければ、魔力は唯の毒にすぎんのだ。体が魔力を追い出そうとするのだろう」
ゲンは淡々と告げる。魔法…それは唯単に体にある毒を排出する為のものでしかない。
唯強力なエネルギーを持つ魔力は、見た目も派手だし、軍事利用にはもってこいの為持て囃される。それだけだ。
中には非魔法適正種族をバカにする奴もいるがゲンからすれば愚かにしか見えないのだ。
「い…いやぁ!さすがは先生!もうご存知なのですね?!
えっと…それでですね?我々にもう少しあの蜜を分けて頂けないかと…」
「…何をするつもりだ」
ゾロは冷や汗を流しながらもまた調子を取り戻してゴマスリを再開した。ゲンはゾロの顔を睨みつける。
「いえですね?此方を飲んだ者が魔力酔いを起こしてしまいまして…それで考えたのですが!この蜜を更に希釈し、酔いを起こさない程度に調節しつつ魔法を使用できるように開発しようと思うのです!」
その言葉にゲンは目を剥き汗を流した。
「貴様…それが何でできているのか分かってるのか?それにそんな薬を作れば、この世界の均衡は崩れるやもしれんのだぞ?」
「あはは!何をおっしゃいますか!均衡?いやいやいいですか?誰だって均衡を保ちたいなどと考えてる訳ではありませんよ。
誰だって有利な立ち位置にいたいのです。
それに我々獣人族は魔法も使えないし、空も飛べるのは鳥類の獣人だけ、鬼人族のような優れた戦闘力も持たないし…寿命だって短命なのですよ?
むしろ我々は昔からハンデを背負わされているのです。ゲン先生?考えてみてくださいよ。
貴方は我々獣人族の英雄になるのです!そして我々は更なる高みへと行けるのですよ!」
ゾロは更に口を歪ませている。ゲンは更にゾロをキツい目つきで睨みつける。
「先生?こう言っては何ですが…そうやって止める貴方だってこの蜜を飲んで強くなったのでしょう?なのに止める権利なんてあるんですかねぇ?
あご安心を!蜜の分はお金を払います!なーにこの蜜の効能を知った金持ちがこぞって欲しがっているのですよ。利益は問題ありません」
ゾロはバカにした様に話す。がすぐにその顔は青ざめた。
ゲンがすかさず魔法を発動し、ゾロの頬スレスレを掠って尖った木を飛ばしたのである。
木は後ろの壁に深々と突き刺さっている。
「よく回る口だなぁ…いいか。俺の依頼はあくまでもこの薬のみ!蜜は提供せん!
…それに貴様の口ぶりだと原液で試薬者に飲ませたようだしな」
「で…ですが!飲んだ時の効能はわかりませんし…どうせ飲んだのは下等な草食獣ですよ?
別に死んだとしても…」
ゾロの発言にイライラしだしたゲンはテーブルを叩きつけた。その音にゾロは震えた。
「小切手はここに置いておく…だから二度と俺にその汚い顔を見せるな…」
ゲンはそう言うとさっさと部屋から出ていった。
そしてゲンがいなくなった部屋にて一人プルプル震えるゾロ。それは恐怖からの震えではない。
「あんの…虎野郎が…私が誰なのか分かってんのか!私はこの都市の市長なんだぞ!」
怒りからの震えである。癇癪を起こしたゾロは周辺の物に八つ当たりしまくっていた。
登場人物
ゾロ・ヤオロシ(43)
グラシルドの市長にして、キバナ大陸一帯を統治する支配者。彼の家系は代々続く財閥であり、キバナの店や研究施設は殆ど彼が経営している。
性格は差別意識が強く、かなり偏った思想を持つ。