三章第三十話 アルスの野望(2)
これにて三章完結です。四章は現在執筆中なので、完成したら投稿していきます。
勇者騎士団選抜試験。アルスはその魔法の精度や威力でトップで入団した。
アルスは無事に騎士団入りを果たす事ができたのである。
そんな波瀾万丈な人生を乗り越えて順風満帆に進むアルスはある日任務で崖から転落した。
だがアルスはすぐに自身の魔法で風を起こして助かる事ができた。
…そこで疑問が湧いた。今の状況は父が死んだ時と似た状況だ。父もアルスと同じかそれ以上の才能を持つ風の魔法使い。
そんな彼ならば先程の自分のように助かる事ができたのでは?と疑問に思い始めた。
そこからのアルスの行動は早かった。当時の事件の一緒に任務を受けた騎士達や指示した人を特定していく。その結果によると任務を受けた者達が殆ど全員解雇されているのだ。
アルスはすぐにその人々に話を聞きに行ったが口を噤まれた。
だがアルスは諦めなかった。最後の一件まで辿り着き何とか話を聞く事ができた。
その結果わかったのは父がマルクが貴族の事件をもみ消していることを知り抗議したのだと、その際に言い合いになった末に父はそのマルクの所業を上に話そうとした。
だがそれに怯えたマルクが父を殺害したと言う。
実際の現場は当時マルクは"グレモリア隊"という隊を率いていた隊長であり、その隊長執務室で殺害したのである。
そんな証言や父の事件にある不可解な点を全て役人に訴えるが聞いてもらえなかった。
まだ若造であるアルスがいう事であるのもあるが、マルクは役人にも手を回している。
このままでは埒が明かないと考えたアルスはマルクを追求するが知らぬ存ぜぬの繰り返し。
おまけに貴族達も彼を守るのだからタチが悪い。腐っている。
そしてアルスの昇進の邪魔やパワハラのような言動をわざわざ言ってくるようになった。
何とかここまでこれたのは団長であるジークハルトや同じ隊長クラスのアレックス、他隊の隊長の助力があってこそ。
アルスは復讐を考えた。しかしマルクを殺害して父の仇をとればエーデルを一人にさせてしまうし、エーデルを殺人者の妹にしてしまう。
だから違う方法を考えた。マルクが欲しがっている団長の座を掠め取ること。そして団長になれば政界に関わる事ができる。
そこで一気に腐った貴族や政治家達の根性を叩きのめす。それがアルスの野望だ。
エーデルにも一応マルクの事を話したらエーデルも
『わかった…私も頑張って騎士団に入る!そして私も団長を目指す!』
『エーデル…』
『二人で目指せば心強いかなぁって!それに二人きりの兄弟だよ!一緒に頑張ろ?』
そう言っていた妹。
だが妹は落とされた。確かに倒すまでの時間はかかっていたが何も騎士団は攻撃するだけではない。その根っこにあるのは人々を守る事だ。それを考えるとむしろエーデルの魔法は有利だ。
他の騎士団幹部も高く評価してくれて褒めてくれていた。
だがエーデルは落とされた。周りの貴族の圧力により雇わない方向に決められた。それなら騎士団員ではないエーデルをそこまで贔屓できないので騎士団はそれに従うしかなかった。
中にはアルスを批判してクビにしようと言い出す者もいるが、ジークハルトが何度も何度もそれに対して反対してくれて今がある。
隊長クラスになり周りからの評判もいいアルスは簡単にはやめさせられる存在ではない。
アルスは妹を落ち込ませ、両親の命を奪ったマルクとそんなマルクと汚いやり取りをして擁護する者達全てが憎くて仕方ないのだ。
だからこの野望を叶えて復讐するのだ。今まで自分たちの人生を滅茶苦茶に踏み荒らした連中に…
しかしマルクはきっと悪びれないであろう。
そして彼は人より上にいけるなら何でもする男だ。仮にあの赤い薬にドーピングする成分があるのならばそれを手に入れて、自分で飲んで強くなろうとするかもしれないし、他人に渡して金を稼ぎ、賄賂用のお金にするかはするだろう。
そう意味では怪しいと言える。
アルスはゴクリと唾を飲み込みドアに手を伸ばした。
一方ヴラム一行。
「キバナ大陸ってハチさんの故郷なんですか?」
ベルはハチが以前にキバナ大陸の事を話していたのを聞いて何となく聞いてみた。ハチは静かにうなづいた。
「その通りにゃん。大陸に足を踏み入れるのは久方ぶりにゃんね…何せ200年。きっと色々変わってるんだろうにゃ…」
ハチは顎に肉球を添えて少し気怠そうに話す。やはり乗り気ではないらしい。
「ハチさんのいた頃はどんな町だったんですか?」
「そうにゃんね…まず悪いところが五月蝿いのと臭いのが良くないにゃん…。何より空気が汚いのにゃん」
その答えにベルは嫌そうな顔をしている。
「…うう…それはいやですねぇ…」
「けど悪い事ばかりではないにゃん。他の場所では見られない乗り物もあるし、技術はピカイチにゃん。研究も盛んなんだにゃん」
ベルはその乗り物とやらに興味を持ったのか質問攻めをし始めた為ハチは少し困り顔である。
エーデルはマギリカに魔法について講義を受けている。実は魔法に関する基本の本をマギリカがこっそり買ってくれていて、プレゼントしてくれたのだ。
エーデルは難しい言葉の羅列に頭を悩ませながらもマギリカの丁寧な説明を聞きながら、メモ帳にまとめていく。
ヴラムは難しい顔で海を眺めながら自身の掌を見つめていた。そんなヴラムを気にしてシュリが声をかける。
「どうかなさったのですか?ヴラム様」
「いや…」
ヴラムはエーデルがアンクに殺されそうになった時を思い出した。
あの時ヴラムは感情が無に近い状態にまで陥っていた。ただあったのはアンクへの怒りだった。
あの時ヴラムは魔法を発動したのだ。氷と炎の属性二つを持つ魔法の大剣。
ヴラムはほぼ無意識に発動していたのである。
戦いが終わり病院にいた時ヴラムは興味本意でその時と同じ魔法を発動しようとしたが全く出てこない。
氷は出るが炎を纏わず、炎を出しても氷は出てこない。ヴラムは右手と左手それぞれに炎とと氷を出してみた。これはできる。
だがこの二つの属性を合成した魔法は出てこないのだ。あの時どうやって出したのかも無我夢中で覚えていない。
「まだまだ研究が必要だな…」
「?」
ヴラムの独り言にシュリは首を傾げた。
かくして一行は新たな大陸へと旅立っていったのだった。
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