三章第二十八話 破滅の花
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6/30は二十九話と三十話投稿予定で御座います。
暗い暗い部屋。蝋燭の火のみが頼りのこの部屋でアンクは苛立って壁を殴っていた。
「くそ!ふざけんな!」
悔しくて仕方ない。エレンが思った以上に強くなっていたのだ。それも妹の魔法まで使用して…
それにプラスして主であるグリムがエレンの命を横取りしようとしたのも気に入らない。エレンを殺すのは自分なのに…と。
「荒れてますわね?少し落ち着いては如何ですか?」
そんなアンクのいる部屋にセレーネがやってきた。セレーネの登場にアンクは一度壁殴りを辞めた。その拳からポタポタ血が流れている。
「よおセレーネちゃん♡どう?俺とデートしない?」
「致しませんわ。グリム様となら大歓迎ですけど♡」
セレーネはうっとりした顔で答える。アンクはハァとため息を吐いた。
「チェ…まーた振られた。ねぇねぇセレーネちゃん?どうしてそんなに主の事が好きでいられるの?いつも酷い事されてるのに…」
「あらあらあれは愛ですわよ♡だってグリム様があんな事するの私ぐらいですもの♡」
セレーネは更に顔を蕩けさせた。しかしアンクはすでにグリムの本音を知っているので哀れにしか見えない。
「まぁセレーネちゃんが良いなら良いけどさ…あ!でも花は無事だし…結構成長したんだよ?そのご褒美何かあっても良くない?」
「ご褒美ですか?」
「そっ!ほっぺにチューでもいいけど♡」
「それはしません。私一途な女ですので…」
セレーネは考え込んだ。そしてある事を閃いた。邪悪な笑みを浮かべている。
セレーネには仲間意識なんてものはない。彼女はただ一人…グリムのために動いているに過ぎないのだから、彼が喜ぶなら何だってする。
そんな女になってしまったのである。
「ご褒美思いつきましたわ!私について来てください♡」
「どこいくの?」
「行けばわかりますわ♡それに勝ちたいのでしょう?エレンというお方に…」
セレーネの甘い囁きにアンクは顔を強張らせた。
「ご褒美は貴方にエレンを殺せるぐらいの力の贈与ですわ!ふふ…まぁでもこれは貴方自身にかなりの負荷がかかりますけどね?
今からでも撤回できますわよ?」
しかしアンクは首を横に振った。エレンを殺せる…その言葉が何よりも魅力的に聞こえたのだ。
「いや…あいつを殺せるなら俺は何だってする!頼むよセレーネちゃん!俺にその力を分けてくれ!」
「ふふ交渉成立ですわ。では参りましょう」
セレーネはアンクを引き連れて暗闇へと溶け込んでいった。
一方こちらは聖竜騎士団本部。
「"破滅の花"ですか?」
ゲルラが聞き返していた。周りにいる他の騎士達も首を傾げている。そんな彼らの中心にはグランディールが杖をついて立っていた。
「その通り…とはいえ古い言い伝えだけどね…あれを…」
グランディールに支持された護衛が一冊の分厚い本を机に置いた。表紙は燻んだ赤でぼろぼろになっている。
「書庫で埃をかぶっていた本だよ。これに破滅の花についての記述があったんだ。
その特徴と今回持ち替えられた花の蕾の特徴がとても似ているんだ」
「破滅の花…名前からして不吉な予感しかしませんね…一体どのような物なのですか?」
ゲルラが質問する。グランディールはその途端に神妙な顔をした。
「あれは花の形をしているがとんでもない…全くの別物なんだよ。
見た目は確かに花の形をしている。けれどあれはそもそも植物ではないのさ」
「植物ですらないのですか?確かに他の花とは全然違いますが…」
花の見た目は異常だ。見た目はかなり大きいサイズ。一度ゲルラは勇者騎士団に呼ばれて騎士団で保管されている花を見に行ったら事がある。
その花のサイズはドラセナにあった花よりも大きかった。そのサイズは世界最大の花であるラフレシアのサイズの1.5倍。
花弁は生肉を組み合わせたようなグロテスクな見た目であり、伸びてる蔓や茎、根っこ部分は真っ赤でまるで血管だ。
「あの花は莫大な魔力の塊なのだよ。花を構成する全てが魔力で構築されている」
「!お待ち下さい!ですが魔力は普通は目に見えません!いくら濃度が高くても目に見えるのがやっと…質量があって触れる事など不可能な筈です!」
「…確かにこの地上にある浮かぶ魔力では不可能なのだよ。けどね?このみんなが暮らす星。
この星の中身の中心には高濃度かつ多量の魔力が流れておる。それらは空気に触れる事で固まるほどの高濃度なのだよ。
普段ならばまず地上で見ることはないのだが…」
「普段地中にある魔力が何故…」
するとグランディールがふぅとため息を吐いた。
「恐らく何者…グリムとやらが魔力を抜き取ったのだろう…。そしてそれは魔力を注ぎ込むことでより巨大な魔力の塊になる。それらが何故花の形になるかは解明されていないがね…」
そう締めた。しかしまだゲルラの中には疑問が残っていた。
「何故破滅の花などという名前がついたのですか?」
「破滅の花…その魔力は高濃度。それらが一つならばまだ耐えれるかもしれないが…現存している全ての花が更に大きくなれば生物は全て死滅する」
その言葉に騎士団は皆ざわついた。
「高濃度の魔力により魔力酔いが起きる。まず始めに魔女族が…その後はエルフのような魔法を使う種族と勇者…そして最後に我々魔力を使わない種族が死滅する。
魔力酔いは酷くなると最悪死亡するし、一般的には魔女族がなる物とイメージされているが、魔力酔い自体はどの種族もなる。
そして形を形成し質量がある程の高濃度の魔力の塊が更に大きく、更に増える事があれば必ず死へと導くであろう」
グランディールはバッと手を広げて叫んだ。その言葉に周りは言葉を失った。
ゲルラは直ちに全団員や歴史学者達に破滅の花に関する伝承を調べる事を命じた。そしてそれらの情報を勇者騎士団に伝達することになった。
「(これは…想像以上に…)」
ゲルラはこれから起こる惨劇に冷や汗を流し始めた。
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